先日のNHKで放映された「逆転人生」でも少しさわりが流されましたけど、「オンラインで同時乾杯した最多人数」ということでギネスに挑戦しました。発端は今年の二月、「中国がコロナウイルスの感染でひどいことになっている」「飲食店に禁止令が出ている」との情報に、中国担当のA君から、「何か中国のお客さんを元気づけられるようなことをやりましょう」「今、現地では外にみんな出られないのですから、飲食店で獺祭を飲むことができません」「中国と日本とつないでオンラインで乾杯したらどうでしょう」という提案から始まりました。
「へぇ、それ良いね」ということで始まったオンライン飲み会。二回目は参加者も100人を超して、「次回もぜひやってください」という要望が現地からも届きました。それを聞いてアホな蔵元の発言、「どうせなら、できるだけ大人数を集めて、ギネスに挑戦するなんてどう?」
「良いですね」「それ面白いですね」とノリのいいA君。これもノリの良い社長からも「それ良いね。やったら」という許可が出てこの企画が始まりました。
なんせ中国担当は、そのA君と・・・、およびもっとノリの良い(良すぎる?) 「突貫娘」のBさん、二人が組んで話を進めるんですから、話は早い、瞬く間に企画が現実になってきました。
例によって私も、「今まで、日本酒の世界で日本一は世界一です、と言ってきたわけだけれど、今度は名実ともに世界一に挑戦」「しかも、今まで飲食店での酒の需要しかなかった中国に、これを機に「家飲み文化」が普及すれば巨大なマーケットが出来上がる」「その先陣を獺祭が切ることになる」なんて悦に入っておりました。
オンラインでやるとなるとシステム面でどこがサポートしてくれるかも問題になります。そのあたりも、Bさんが探してきたアリババのモバイルサービス部門子会社のDing Talk(釘釘)が「面白い」と乗ってきました。つまり「獺祭×Ding Talkがギネスにオンライン乾杯の最多人数に挑戦」ということでやることになったわけです。
さて、前々日の機材チェック、当日15時からのリハーサルも無事に済みまして、こちらもボルテージが上がってきます。リハーサルで見たところでは中継会場の上海ディング・トークのスタジオには3ⅿ×10mぐらいの「獺祭×Ding Talk オンライン乾杯で千人のギネス記録に挑戦」と書かれた横断幕も張られ、その横には2m×4mぐらいの大型ディスプレーも6台準備されています。
この大型ディスプレーに参加者の乾杯する姿を映してディング・トーク側が数え画面を保存することにより、それを証拠映像としてギネスに申請しようとしたわけです。そのため、参加者は乾杯の発生と同時にグラスを上げたら30秒間そのままキープ、飲み終わったら今度はお酒の減ったグラスをまた掲げて30秒間キープ(その間に担当者が数えて証拠映像をとる)がルールとなります。
「千人行かんかったら、どうする?」とA君に聞くと、「ディング・トークの話によれば、社内でこの企画に参加したいという人も沢山いて、あの会社は社員数で言えば4,5千人の会社ですから、それは問題ないんじゃないですか」という事でした。
それに中国の獺祭の卸数社が参加者を勧誘してくれたのです。聞くと、前評判も上々で、はっきりした人数は分かりませんが、ディング・トークの社員を計算に入れなくても千人は超しそうな勢い。
ということで、いよいよ本番当日。中国現地時間8時・日本時間9時の開始に合わせて30分前からカメラの前で私と社長と湖北省出身の新入社員C君の三人がスタンバイ。勿論ディング・トーク側も司会役の美人のお姉さんやCTO他多数のスタッフが数時間前からスタンバイ。ところがなかなか始まりません。
ディング・トークと連絡を受け持っている突貫娘B嬢に聞くと、「先方のサーバーが落ちた」と心配そう。映像の中の司会者も顔がこわばっている。こちらにはどうなってるか分かりませんから、ただ待つのみ。そのうち30分遅れでやっと始まりましたが、それ以後もいわゆるネット上の「乾杯広場」(仮想空間の)に人が集まり始めると何度もサーバーが落ちてしまい映像がブラックアウトしてしまいます。
これはあとで考えると、ディング・トークは千人程度の同時映像をつなぐことに実績も自信も持っていました。が、しかし、それは行儀の良い、オンライン会議になれた「企業などの会議の参加者」を前提としていたものと思われます。ところが、今回の参加者はタダの獺祭好きの素人のお客さんばかり。しかもかなりの確率でその時点で飲んでいる人も多そう。
無駄な操作も間違った操作も端末でします。途中で「サーバーに負荷がかかるからマイクをオンにしての私語は禁止してください」とディング・トーク側から注意されましたが、そんなこと言ったって聞くわけありません。現実に私の知り合いも入ろうとして自分のパソコンが固まってしまい参加できなかったそうです。当然、焦っていろいろ触りますからディング・トークのサーバーの負荷は相当大きかったと思います。
あくまで、素人の原因推測ですが、本当に獺祭ファンが千人来ちゃったから大変なことになった。あれが、サクラばかりで主催者の指令通り行儀よくパソコンを操作してくれる人たちならこんなに苦労せず、すんなりいったんだと思います。(実際、画面上で司会者のインタビューに答えた人たちも、みんな明らかに獺祭のファンらしいコメントを発していましたし、二人目と三人目はシドニーとメルボルン在住で、立て続けに本土以外在住の中国人の方でした。私もあまりの参加者の広がりにびっくりしました)
そんなわけで遅れに遅れて、やっと最後に参加者が904人までカウント(画面の表示によると)されたところで社長の音頭で乾杯しました。ちなみに二時間近く強烈なライトに照らされ続けていたグラスの磨き二割三分は、その時点で、紫外線にやられて強烈な日向臭。ひどい酒になっていましたけど、こちらはそれでも達成感で飲み干した後は笑顔です。
しかしその後、ディング・トークがカウントした速報値が伝わってきました。しかし、それは360人というちょっと残念な数字でした。実際に904人がネット上の仮想広場に入ってきてエントリーしていても、グラスの上げ方のタイミングが合ってなかったりして、正確に乾杯したという人数がこれだけしか確認できなかったそうです。でも、100人を超えていればとりあえずギネス記録にはなると聞いていましたから、こちらも少し心残りではありましたが、正式なギネス側の認定を待つことにしました。
事前に、認定に一週間はかかると聞いていたのですが、最終的に返事が来たのは二週間後。その結果は・・・、残念ながら、ギネス記録は認定ならずあえなく落選。
理由を聞いてみると、グラスを上げた時の画像は記録されていたのですが、乾杯後のグラスを持った姿の画像を保存するのを忘れていたようで、何とも間抜けな結末!!(どこかの酒蔵みたい) あぁ・・・・・!!
ところで、後日譚があって、この話を中国側のお客さんたちと(これも)オンラインで話したのですが、その反応は、「今度はオンラインじゃなく、実際に千人集めてやりましょう」「6月になったらコロナウイルスも収束して、日中両国の入国制限も解除される?と思いますから、一番にやりましょう」というものでした。6月はちょっと無理としても、それもいいかな、とお気楽な蔵元は考え始めています。反省がないねぇ。