▼今、酒蔵では
先日4月19日に最後の吟醸(獺祭初心になります)を搾り終えて、ほっとするまもなく、それまでに搾り上げた純米吟醸を火当て(新酒の中に含まれる酵母と酵素を摂氏60度で熱殺菌して酒質を安定させること)する作業に追われています。
特に私どもの蔵は純米吟醸以上はすべて瓶燗方式といって、冷たい酒をビンに充填した後、湯せんで65度まで上げ、すぐ急冷し、それを出荷する日まで冷蔵庫に貯蔵するという手のかかる方式をとっております関係上、結構日にちと手間のかかる作業なんです。
ほとんどの酒造メーカーは、昔は煮酒といったみたいですが、この時期に熱酒をタンクに貯蔵し、出荷時にタンクから出してきて、もう一度酒を熱して熱酒を直接瓶に詰める方式をとっているのに、なぜ私どもだけ手のかかる瓶燗方式とスペースのとられる冷蔵庫保存方式をとっているかといいますと、香りが逃げないからです。
どうしても二度酒を熱してタンクとビンに酒を詰める通常の方式ですと、タンクや瓶詰め経路に香りが吸着してしまったり、焦げ臭といって焦げ臭いにおいがついたりして、蔵の中で生まれた酒のよさを十分にお届けできません。またこの方式ですと、どうしても炭素ろ過というお化粧をせざるを得ません(基本的に私どもの酒は炭素ろ過はしません。化粧をしなければいけない酒を造ることがすでに失敗だと思っています)。
それでこのような瓶燗方式をとっているんですが、社員にはかかった人件費割る一日の処理数なんだから、お客様に納得できる価格でお届けするためには能率こそ一番なんだと、仕込みがすんで蔵の後始末や洗浄に追われる社員にきついことばかり言っております。
とうとう、人手が足りなくなって、日ごろ勝手なことばかり言っている私にお呼びがかかり、「任しとけ。昔はアルバイトの子と二人で瓶詰め場をまわしていたこともあるんやから」などと大きなことを言って、手伝い始めたんですが、何せ平均年齢が22才のチームに混じって49才のオジさんがやるわけですから、一日であごを出してしまいました。
電話ですよと声の掛かって来るのが待ち遠しいような始末で、「カバチ(山口弁で無駄口のこと)ばっかりついて口先だけに専念して実技は皆に任せるほうが向いてる」なんて言ってるような次第でお恥ずかしいばかりです(^_^;
▼蔵元の読書
飛行機の待ち時間、空港のブックショップをぶらついていたら、一冊の文庫本が目についた。
題名は「老いれば自由に死ねばいいのだ」
「そりゃ、そうだ、」という心の声にひかれて、手にとって見ると著者は三浦朱門とある。
三浦朱門といえば曾野綾子のご主人。
曾野綾子といえば、最近は全日本ボートレース協会(でしたっけ)のドン笹川亡き後の会長として、これはこれで彼女らしい対処の仕方で、さわやかな印象の方ですが、尊敬しております。
一方的に尊敬されても相手がおじさんじゃいやだというかもしれませんが、そのきっかけはちょうど十年前の自民党の全国大会です。
この大会に来賓でよばれた彼女は当時の竹下総理他御歴々の前で、「声なき多数意見を聞かず、声の大きな少数意見ばかり聞く自民党は将来的に大きな危機にあるんじゃないか」という趣旨のスピーチをします。
この場合の声なき多数意見の持ち主は一般の市民であり、声の大きな少数意見は農協などに代表される自民党がもっとも大事な票田としてきた圧力団体の事です。(農協は農協で本当に農業に従事している農業者のために活動しているのではなく、組織維持のために活動しているようにしか見えませんが)
だけど大多数の来賓が自民党を持ち上げるスピーチをする中で、どちらかというとタカ派的な発言の多かった(彼女は真実こうあるべきと信ずる発言をしてきたに過ぎないのでしょうが)彼女が、自民党の本質的な欠陥をついたスピーチをした事は大きなショックだったろうと思います。(本当にキン○○のある女性だと思います。失礼!な発言を許してください。彼女のスピーチの全文が掲載されていた週刊文春を読んだときの私の感想の思ったままです)私達の酒業界でも、こういう状況は大いにあって、つい周囲にいる大声で主張される方、一部の卸屋さん・小売店さんや酒造関係の先生方、ついでに国税局、の声ばかり聞こえてきて、実際に酒を買っているお客様の声なき声を無視してしまいそうになります。
本当のお客様の声を大事にするという事は難しいし、大きな声で耳元で話される少数意見を取捨選別しながら、もちろん理の通った意見は聞かなければいけませんし、おかしな意見は聞かないということを続けることはエネルギーのいる事ですね。
だけどこれをし続けなくちゃ。
最後に読後の感想をいいますと、飄々としているけど自らに厳しい著者の人柄が表れていて、とても勝負にならないけどいつかこうなれたらいいなという気持ちになった本でした。
だっけど、曾野綾子さんの旦那ってきっとエネルギーいるでしょうね。尊敬します(凡人の一言)。
▼蔵元の読書(続いて)
「舌の向くまま」 重金敦之著 講談社刊
最初、書店で手にとったときは目次の「寿司とシャンパン」何てとこが目について、最近のお気楽グルメ本かなと思ったんですが、読み進むにつれて、なんのなんの、剛球をふところに投げ込んでくる本です(この好印象は著者がこの本の中で私どもの酒を飲んでいるからではありません・・・少しあるかな・・・すいません、大いにあります)。
「最高のワインを目指して(ロバート・モンダヴィ自伝)」 早川書房刊すっごく、面白いです。物づくりにたずさわっている人は共感できるんじゃないかな。
特にワインにこだわるあまり、周囲の人に結果として辛く当たってしまうくだりなんて、少なくとも蔵元の精神衛生上は、言い訳を作ってくれて非常にありがたい本でした。
皆さんそんなご経験ありませんか?(とほほ、私は死んだら天国にいけそうにありません。女房は現世の苦労でいけるんじゃないでしょうか)
▼蔵元のニヤリ
漫画家の高瀬先生のホームページを覗いていたら、リンク集の中に、私どものホームページをのせていただいておりました。
「素顔は優しいのに根性のある」ってえらいほめていただいています。
だけど、若いときは絶対根性の無さそうな軟派でいこうと思っていたんですがね。