▼アル添吟醸?純米吟醸
アル添吟醸・つまりアルコール添加した吟醸酒と、純米吟醸と、どちらが優れているか。この論争も酒造業界や日本酒のファンの間で続いてきた論争です。米だけで造った純米吟醸をよしとする人。いや、香りがあるからアル添吟醸の方がよいという人。
どちらにも言い分があります。
しかし、ややこしいのは、アル添にはこれによる製造原価の低下という面もありますから、アル添吟醸の方が優れているという主張のこの傘の下に三増酒などのはっきり経済性のためにアル添した酒が巧妙に入り込んでしまうことです。(三増酒:できた酒をアルコールと糖で3倍に増やすことから三増酒といわれる){酒は古来から柱焼酎と称して焼酎を夏場には添加していたから、アルコール添加は日本酒固有の伝統的技術である云々c論も同じ側面から出ています。
ところが、この三増酒に依存しているメーカーは低価格酒メーカーだけでなく、私どものような地方の小規模の酒蔵が多いんです。ということは余りこの話に突っ込むと、それでなくとも存続の危ぶまれている全国の零細の酒蔵の致命傷になる危険があって、弱者いじめになりそうで業界関係者は口が重たいところもあるんです。私は一言多い方なんで、以前この話に触って、しかもつい酒米まで話が広がっちゃって、すぐれた米及び農家でなければ酒屋と一緒で保護してまで残す事はないなんてやっちゃったもんで、ムラおこし研究会のような会を主催している方から、強者の論理だと猛烈に反発されたことがありました。
また、純米吟醸は純米吟醸で、純米と唱えれば売り易いから造っていたという面もあって、一定の精米歩合をクリアしとけば出来はどうでもアル添よりは消費者に説明し易いから出来上がりの品質を無視しても純米で出す何て側面もあります。実際、確かに純米だなとその美点でなく欠点からわかるような酒にであった事もたくさんあります。
白状しますと、私どもも以前は純米吟醸をこういうレベルの考え方でだしていました。ところが気が小さくて販売のためと割り切れないものですから、この理論的に劣った純米吟醸を少しでもアル添吟醸の完成度に近ずけるべく様々なやり方で濾過してみたり、2種類の性格の違う酒を造ってブレンドしてみたり、小細工をじたばたしておりました。お恥ずかしいところです。
そんな経験をしてきましたので、偏見かなと思ったりするんですが、一部のおいしさを無視した理念先行型の自然食品には抵抗を感じる時があります。ある会合でソムリエの田崎真也さんが「オーガニックワインって販売上のテクニックの産物でしょ」と発言し会場にショックを与えたと聞いた時、個人的には我が意を得たりと快哉を感じたものです。
ところで、なぜアル添吟醸が優れているかというとこういう事です。アルコールを染ませたガーゼで肌を拭くと汚れがとれやすいという経験をした方があると思いますが、アルコールはその優れた浸透作用で一度皮膚の組織の中に入り込み、出ていくとき一緒に汚れを外に持ち出す働きをします。これと同じことで、しぼる前にもろみに添加されたアルコールは米の組織の中(特に麹米)に入り込み米の中に隠れている香りを外に引っ張り出す力があります。つまり、純米だと搾る時に酒の方に来ず、そのまま粕の方に残って行ってしまう香りをアル添は引き出す力があります。それとアル添すれば酒が辛くそして軽くなりますから、最後にアル添という伝家の宝刀を持っていれば、醗酵途中のコントロールがやりやすく、結果として優れた吟醸酒が造りやすいという側面もあります。
実際、大阪国税局の鑑定官室が管内の杜氏さんの指導のために出した鑑評会金賞受賞マニュアルには「良い吟醸を造ろうとするなら決して純米吟醸を造ろうとしないこと」という指導が入っていました。いまでも鑑評会の出品酒はほとんどアル添吟醸です。
それじゃあ、過程の努力よりなにより、言い訳はいいから、品質という結果がすべてだと公言するおまえのところは何故 今 純米吟醸がほとんどなんだということになるかと思いますが、お酒は料理と一緒に楽しんでこそと思っていることと、もう一つは最近の酒造技術の進歩からなんです。
お酒が主でも従でも、料理が主でも従でも、ちょっと一緒に何かあると本当に楽しい。そんなときやっぱりあの純米酒の持つ味の厚みは本当に良いんですよね。それとさらさらと何合飲んでも飲み飽きしないなんてお酒もアル添吟醸にはよくありますけど、そんなに飲まなくても2〜3合で良いんじゃないかと思っていることも一因です。それ以上飲みたい方(白状しますと時々私もそうですが)は新潟系の端麗辛口を飲むとか、焼酎を飲むとか、水割りを飲むとか。いずれにしても私どもの酒に期待されるところじゃないと思っています。
それとこれが一番大きな要因ですが、酒造技術の進歩です。この4〜5年で、なにもアル添しなくても、バランスのよい優れた純米吟醸を造る技術が確立されたと思います。基本的には麹の製造技術の見直し、酵母の選定、それにあわせたもろみ管理等々です。
また、アル添酒にどっぷり浸かってない若い酒造技術者lが育ってきた事。それに関して云えば、私どもの酒蔵の固有の要素かもしれませんが、アル添もそれなりの技術がいるんですよね。タイミングとか添加の仕方とか。しかもその技術が、酒の醗酵全体から見るとどちらかというと枝葉末節の技術。だからこんなもの上手にならなくていいやというのが本音です。その暇があったら純米吟醸のもろみ誘導技術を洗練させる方がはるかに良いと思っています。
酒造業界は技術的には長い間、理想と現実(純米と酒質)のギャップに苦しんできたんですが、今はそれが解消されつつあるという事です。ぜひ期待していてください。
▼旭酒造の商品紹介
獺祭 磨き 三割九分・純米大吟醸・山田錦・精白39%・アルコール度数15.9度
1.8l 4175円 0.72l 2087円
酒杯に鼻を近づけるとわき上がる芳醇なうわだち香と、口に含んだ時の純米らしい味の厚み、非常に洗練されているが一面人工的な感じのするアル添の吟醸酒と比べて、いい意味での土臭さ、大地のかおりを感じる酒です。結果がすべてと思っている旭酒造のお酒ですから、ぜひ、良いか悪いかで判断してください。お客様に「あ、良いねぇ」と言っていただくために造っております。