▼台湾珍道中

ここでおろしてくれりゃいいのにな。羽田空港に着陸した広島発9:05のJALからおりて乗り込んだ到着ゲート連絡のバス。すぐそばに見える建物は「羽田国際空港」とかいてある。そうです、台湾だけは日本政府の外交政策上成田じゃなく羽田から発着するんです。その台湾行きの飛行機の発着する羽田国際空港のすぐそばを通って、遠くの国内便のゲートまで移動させられて、見本の酒の入った大きなスーツケースを抱えて、えっちら・おっちら、寒空の中15分待ちの空港内循環のバスに乗り込んでまた先ほどすぐそばを通り過ぎた国際空港まで帰って・・・ああ、疲れた。だけど成田まで行くよりいいか。

前回のメルマガで、予告しましたように台湾に行ってきました。

メルマガの最後に−ある美人の告白−と気を持たせて書いちゃったもので、岩手の酒蔵「南部美人」のホームページを開いて見た方から、のってないというお叱りの言葉をいただきました。実を言うとこの美人はお酒の「南部美人」(大吟も良かったけど、全麹造り、良い酒ですよ、フルボディで)じゃなしに正真正銘本当の美人だったんです。

正体は日本銘酒会に会員として参加していた会津喜多方の「大和川」(蔵元は喜多方の蔵造りの町並み保存の運動を辛抱強く続けてこられました)の東京支局長の木村さんです。

以下は木村さんからの聞きがたりです。

台湾も三日目、今回の訪問のクライマックスであるマスコミや流通そしてホテルなど飲食関係のお客様を迎えての試飲会も無事成功理に終わりほっとしたその日夕食後、米沢の「東光」の小島社長と茨城県の「郷の誉」の須藤社長と3人で連れ立って足裏マッサージにいったんだそうです。(ちなみに足裏マッサージは台湾名物でほとんどの観光客は行くらしいです)

で、この話の登場人物で主役の須藤さんの人物背景を説明しますと、ご存知のとおり「郷の誉」は華やかな香りとそれに負けない太い骨格の味で非常においしい酒ですが(無責任なことを言ったらいけませんから、昨日池袋東武百貨店地下のテスティングバー「楽」で本当に記憶どおりか確かめてきました。)、蔵元の須藤さんもそのご自身の酒のように、古武士のような風格と洗練された物腰の非常にかっこいい蔵元です。

なんせ、以前NHK教育の料理番組にゲストで登場したとき女性アナウンサーがポーっとして見てたぐらいです。しかもその地方の領主の子孫という家柄です。

もう一人の小島本家の蔵元も米沢じゃ米沢藩上杉家の御用酒として23代続いたお殿様のようなものですから、このお殿様二人組みと美人が連れ立って足裏マッサージに訪れたと理解してください。(ここまで書いて思い出したんですが、先ほどの「楽」を経営する会社―本業は百貨店などの売り場のコンサルタント―の社長は上杉さんといって上杉家の後子孫です。いけない、また話が横にいってる)

店も気を使って3人を一部屋にしてくれたんだそうですが、ここでドラマが発生しました。

たいてい足裏マッサージとともに顔面マッサージも頼むんだそうで、この3人ももちろん頼んだそうです。ちなみに顔中の毛穴の一つ一つから脂肪を特殊な器具で搾り出すんだそうで、小島社長によると最後に紙に貼り付けた先ほどまで自らの顔にくっついていた脂肪を見せてくれるそうです。それは、少々感動する見ものだったようです。(あまり見たくない)で、その脂肪を搾り出した後パックをしてくれるんだそうですが・・・そのパックの最中、木村さんがひょいと二人の顔をのぞき見ると、顔面真っ白・白塗り、まさに志村けん演じるところの馬鹿殿様状態。しかも二人とも本当のお殿様ですからまさに、なんと!!もっとも、よく考えてみれば当然自分の顔は見えませんけど同じ状態であることに気づいた木村さんは「お二人とも志村けんみたいですよ」と言ったものの自分も笑いだしちゃった。その的確(?)なコメントと笑い声に木村さんのほうを振り向こうと
した須藤社長は「だめです!それは違反です!!」と木村さんから厳しく制止されたそうです。「何が違反なのかまったくわからないけど・・・」と次の日、須藤社長は首をひねっていました。確かに何が違反かまったくわからない話ですが、ともかく、須藤・小島両社長の馬鹿殿状態を見ることができたのは大和川の木村さんだけだったことは確かです。キャスティングがキャスティングですから、次の日私たちは木村さんの報告を聞きながら大笑いしちゃいました。

ま、こんなことばっかりしてたんじゃありませんよ。少しはまじめに酒を売り込んだりしたんです。

今回のこの訪問に北は岩手の「南部美人」の久慈さんから南は佐賀の「天吹」の木下さん・「天山」の七田社長まで、松江の「李白」の田中社長を団長として総勢15の蔵元が参加したんです。

もちろん足裏マッサージに行くために訪問したんじゃありません。

現在、台湾市場は完全な台湾政府の保護政策化にあり清酒は台湾専売公社の造る「玉泉」という銘柄と日本の大手酒造メーカーを中心とした5社の製品に限定されています。その結果として、純米吟醸など高級酒は台湾にはほとんど入ってなくて、清酒のダンピング競争だけが激化しているという非常に残念な状態です。台湾は非常に親日的な国で所得水準も高い国だというのにねぇ。だけどなんですねぇ、何で日本はあれだけだまされても(!)脅かされても(!)中国大陸に不毛の投資を続けるんでしょうねぇ。近くにこれだけ親日感情が深くて教育水準も高い国があるのに国交を断絶したままで。いけないいけない、また話が横に行っちゃった。

ま、何はともあれ隣に日本と仲良くしたいという国があるわけで、それが現在様々な事情から非常に不健康ないびつな市場になっているとしたら、本当に不幸なことです。ま、本当のことを言っちゃえば、酒蔵としてはできるだけ市場を広げたいということですけど。個人的には特別に外国として意識するんじゃなくて、だからっていって同じ国じゃないんだから敬意も節度もいるんですけど、東京や大阪と並んで博多の先に台湾があって、同じように高級酒を飲んでいただける可能性のあるお客様がいると思っています。だから、政治力や組織の力で大々的に売り込むんじゃなしに、あくまで「獺祭」(中国語読みでライチーと読むそうです)を普通のお客様の口コミでお願いしてきた国内でのやり方と同じ旭酒造スタイルの商売のやり方で、と思っています。

そんな思いで私は参加させていただいたんですが、これは参加されたほとんどの蔵元が同じ思いのようでした。また、訪問させていただいた先や、最終日の試飲会においでいただいた方々の反応を見ても、本当に良いお酒を提案すればわかっていただけると意を強くしました。良い例が、昨年の第一回の試飲会に来られて日本酒の美味しさを再認識された関係者の方からのご依頼で、本年のお正月3日、当時まだ総統だった李登輝さんの新年祝賀会には私どもの獺祭磨き二割三分を出させていただいたんですよ。李登輝さんは京大のご出身と聞いていますけど日本酒お好きだそうですね。そんな国ですからね、ぜひ大事にしたいと思います。また、日本国政府にももう少し大事にして欲しいですよね。だけど普通の国と同じように扱うからって空港は成田にしなくてもよいですよ。今の羽田国際空港が便利ですから(これ本当は中国本土政府に日本政府が遠慮して継子状態にしてるんでしょうけどね)。でもあのすぐそばにおろして、遠回りさせる羽田空港内の移動だけは何とかならないですかね。国際空港のほんの100mそばに着陸するんですよ。

▼蔵元の言い訳

ある友人がこのメルマガを評して言い分け用にあるんだろうと喝破しました。あなたは鋭い。

で、ほんとに言い分けです。

この時期になると「この前頼んだ酒は品切れという話だったけど何時詰めるんだ」「しぼりたての寒造早槽は何時搾るんだ。」「遠心分離の50はもう一月待ってるぞ」「にごり酒は何時なんだ」という身の縮むようなお叱りをたくさん受けます。これに対してなかなか正確な日にちをご返事できないんです。(これで電話の矢面に立つうちの嫁はんと毎日のように夫婦喧嘩に発展します)これはもったいぶって言わないんじゃなしに理由があります。少しでも良い状態の酒を良いタイミングで効率よくできるだけ大ロットで(少しでも良い酒をローコストで提供しようとすればこれは必要不可欠です)詰めるためには、単品の瓶詰め日や単品の搾りの日程に拘泥したくないんです。申し訳ありません。忘れたり、無視してるんじゃないですから勘弁してください。