昨日甑倒し(その年の蒸米作業の全日程の終了すること)でした。

とはいっても、また9月に入ると始まるんですから、以前のように冬だけの造りのときのような感慨は無いんですが。

そうです、私どもの酒造り期間は通常の酒蔵と比べても特別長いんです。

これは杜氏蔵人によらず、社員と私だけで酒を造っている関係上、日曜日が休みになっているからです。杜氏蔵人による酒造りのよいところはここにあって、造り期間中は酒蔵に合宿状態で泊り込み、日曜日も休まず仕込みます。

ですから一週間単位で見ると以前蔵人が仕込んでいたときと比べて6割程度の仕込能力なんです。しかも私たちの造りはほとんどが純米吟醸です。つまり出来た酒をアルコールで伸ばすことが出来ませんから、造っても造っても酒の量が行かない。

私どもで最大に酒を造ったのは昭和48年の2000石です(当時は俗に言う三増添加酒ばかりでしたが)。この当時の記録を見ますと、これを1000俵の米を使って57本のタンクに仕込んでいます。ところが今年はたった900石の酒を仕込むのに3600俵の米を使って89本仕込んでいます。ですから長期間かかるわけです。

だけど、このゆっくりゆっくり造る造り方には良い点があります。

それは一度仕込んだら次の仕込までインターバルがありますので、反省しながら次の仕込みができる点。前の仕込みで改善点が見つかったらすぐ次の仕込で直すことが出来るわけです。

じゃあすべて解決済みで今のところ問題点は無いのかといわれますと、これがお恥ずかしいことに問題山積。昨日の最後の留仕込みでも、高温の蒸米を冷やして予定の温度まで冷却しても今度はその蒸米と温度交換して温度上昇した空気が蒸米と共に仕込室に送り込まれて、結果として留の温度を押し上げてしまう。先週のように気温が15度以下だとこたえないんですが、昨日のようにこえてくると二乗三乗でこたえて来る。このような設備的な問題だけでなく技法的な問題も山積しています。

たとえば、私どもの仕込み方だと、もろみ内の糖化と醗酵のバランスの大きなファクターを麹が背負っていて、本当に理想的な吟醸用の突きはぜ麹が造れないとうまくいかないんです。これ、簡単にいってますけど、通常の酒蔵だと一年に何本かしか吟醸を仕込まないからいいですけど、私どものようにほとんどが純米吟醸だと、常に緊張の続く吟醸麹を続けることになるんだから大変なことなんです。

尤も麹担当の小野田君はその辺りを踏まえてすでに来期の造りについて腹案があるらしく、酒蔵内で一番手先の器用な林さんに麹箱の改造を相談しているようです。今年から仕込担当になった西田君はとにかく無我夢中で何とか大過なくやり遂げてほっとしてるみたいですが、これはもう少しそっとしときましょう。

どうせ、悩みは星の数ほど出てくるに決まってるんですから。

なんせ、理想的な仕込とそれによる結果を要求する社長と、常に理想的な条件は整わない現実とに挟まれているんですから。知れば知るほど、わかればわかるほど情況は過酷になるんですよねぇ。

もちろん私も設備のこと、米のこと、人事のこと、大学ノート一杯に書き出した問題点と改善点を前に造りの休み期間中に何から手をつけるべきか、薄い財布と相談しながら、頭の痛いところです。ま、薄い財布問題はどんなにそれが厚くても、それ以上に夢はとめどないんだから、厚さで解決はしないんですが。

だけど毎朝もろみの醗酵状況を観察しながら感謝しています。

酒を造る。より納得できる酒に挑戦できる。本当に感謝してます。