いま、新幹線の中。
本日、新宿の京王プラザホテルで行われた、お取引先のお酒屋さんのご長男の結婚披露宴に出席した帰りです。披露宴の一時間前にホテルに到着して、ティールームでお茶を飲んでたら、どうも隣で生ビールを飲んでる式服軍団は同じ宴の出席者みたい。
「見てみな、今日の出席者は酒蔵ばっかりだね。オイ、「菊姫」もいるよ。「八海山」も。(ごめんなさい発言の通り書いています)おい、あの「アサヒシュゾウ!?」も来てるぜ。」舞上がったら、良く聞いてみると、あの「久保田」で有名な新潟の朝日酒造のことで、私ども「獺祭」の旭酒造じゃなかった、ガクッ!!
だけど、会場はあの山形の「くどき上手」の今井さんや「南部美人」の久慈さん(今度パリで日本酒のセールスプロモーションをやるって張り切ってましたね)、フルネットの中野社長、カメラマンの那智さんなど旧知の方ばかりで、すでにはじまる前から宴会モード。
ばらしちゃいますと、お取引先のお酒屋さんって、あの多摩の「小山商店」です。ご存知の方はわかるでしょうけどメチャクチャ明るくって、だけど真面目、だけど、常にグルメ雑誌なんかで地酒というと必ず名前の出るまさに日本を代表するお酒屋さん。
まったくお父さんそっくりの明るい息子さんの結婚式で、これなら21世紀の小山商店も大丈夫よ。という息子さんでした。
しかも披露宴は隣の席が、広島の「富久長」の今田美穂さん。
えっへっへっへ、日本酒好きは美人が多いだけじゃ無しに日本酒を造る女性も美人が多い。隣で得した。
美人の蔵元もいいですけど、私はここの酒ほんとは好きな酒がありまして、それは富久長「白美」と名づけられた純米のにごり酒です。もう何年も前に飲んだとき、私どもで当時造っていた甘いけど重くてえぐいにごり酒とまったく違うさわやかさに、「何でこの酒はこんなに美味しいのにうちの酒はひどいんだろう。」と落ち込んだ思い出があります。
尤も、当時はそんな酒を探して来ちゃー飲んで落ち込んでたんです。ま、これは今も変わらない病気ですが。
さて、披露宴に戻りまして、最後の新郎の父の挨拶も通り一遍の紋切り型じゃなく、勿論美辞麗句でもなく、小山さんらしい率直な挨拶でよかったねぇ。感動しました。
て、わけで楽しい3時間でしたが、帰って女房に「花嫁さんはどんな服を着ていた」なんて聞かれて「さぁー?」、「何回お色直しした」『さぁー?』、美人だったことは覚えているんですが。
男と女の間には暗くて深い淵がある・・・・・、尤も隣の美人蔵元が原因かも。
この小山さんに限らず、私どもにとって取引先の酒販店さんは非常に大事な存在です。そりゃ当たり前だといわれるでしょうが、通常の言われる意味と少し違うんです。
先日ある酒造組合若手蔵元の会の勉強会に講師で呼んでいただきました。えらい私のようなものが、場違いでとんでもない話ですが、どうやら杜氏が居らず、社員と私だけで、それも機械化になじみやすい普通酒なんかじゃなくて純米吟醸を中心に造っている事が面白がられて、呼んでいただいたようです。
お話の内容はともかくとして、大体話し終わった後で「獺祭は安いけどどうしてですか」という質問。少し質問者のこめかみがぴくぴくして非難の調子入り。
ま、業界ですから、同業他社の酒が通常同内容の酒が構成する価格帯より安いと面白くないのは当たり前ですから、無理もないんですが。だけどこれいつも旭酒造の酒は高いといって飲んでる悪友の動物病院の院長先生に聞かせてやりたかったなー。きっと、あんたの診察料のほうが高いぞ。
で、そのときお答えしたのはうちの蔵は営業がいないから。と言うもの。これで必ずしも納得はしていただけなかったようですが。
つまり、酒の販売価格を構成するものとして、米代などの原料費、直接製造に関わる社員の人件費、ビン代などの資材費と共に、俗に言う販管費、営業経費があるわけですけど、うちの蔵はこの販管費や営業経費を掛けないんです。
通常は販売員がいて、得意先のお酒屋さんに取引の増強のお願いや、ご機嫌伺いのご挨拶回りなどするのが普通ですが、私どもには誰もいなくて、取引先から注文の電話が来るのを待つだけ。それさえもそのうち電話だと聞いた聞かないが起こるからFAXでくださいなんて云う始末。
新規のお取引も開始時に一応お酒屋さんの考え方を聞かせていただいて、私どもの考え方も御納得いただいてからはじめています。商売という点からいえば、「もっと真剣に拡売の努力をしろよ、通常はもっと営業部員が汗をかきながら努力してるぞ。」というところでしょうが。
先日も、ある方から「もっときちんとマーケティングのわかる営業をつけて宣伝して拡販したら、もっと売れるだろうになぁー」なんて、いかにも私が商売に背を向けて頑固一徹良い物を造ってこつこつ地道に売ってる人みたいに持ち上げていただいたんですが、そんなわけないじゃないですか。第一下心が大事だったりミーハーなのが一番なんて言ってるようじゃ実態はそれから遠い。
だけど、ほんとにここにこそミソがあるわけですよね。
つまり、うちの取引先は、酒販免許があればいいんじゃなくて、考え方や商品管理や売り方がプロである酒屋さんに限定されているわけです。どう云う事かといいますと、蔵元は良い酒を造る、酒屋さんはそれを売る。古典的な原則に非常に単純に特化している、ということです。
リテールサポートなんて言葉があって、メーカーは流通の末端まで把握して、小売業の販売支援をするのが当たり前になっています。テレビのニュースなどで「夏本番、いま流通業の現場で」なんて題して、スーパー等でビールメーカーのセールスマンが陳列方法を提案したり、すごい頻度で取引先の売り場を巡回したりして売り場の陣取り合戦をしている姿がうつされたりしますが、これが金仕事なんですよ。
最終的にはこのコストは販売価格に上乗せされて、消費者が負担するシステムになっています。これが私どもには無いんです。また、無いという事をわざわざ説明や説得しなくても意味がわかっているお酒屋さんとだけお付き合いをしているわけです。お酒屋さんに説明する時間もコストですから。
だから、そういうお酒屋さんとだけ取引しているということが、販管費や営業経費の削減につながり、同業他社からすると安すぎると思われる価格の設定できる理由なんです。決して、商業政策上品薄を演出したり、売り惜しみをしているわけじゃないんです。老舗を気取って一見さんに売らないとか門戸を高くしているわけでもないんです。
要はこのやり方が一番流通経費が削減できるんです。
物を作って、届けて、売る、この単純化されたシステムに、マーケティングだ、リサーチだ、営業の折衝だ、いわんや政治力を使って酒を売ろうとする等、現場以外の仕事が入れば入るだけ結局コスト高になるから、これをできるだけ最小限に抑えよう、できるだけものづくりに特化しようというのが私どもの考え方です。ものづくりなんて云うと例の大学を思い出しますが。
東京が政治の町で、大阪が商人の町といわれるとしたら、意外なことに京都は職人の町といわれます。この職人の町であることこそ京都千年の知恵じゃないかなぁー。