自然というものはきっちりしたもので盆の声を聞くとこの辺りは朝晩めっきり涼しくなります。だけど日中はやっぱり猛暑。

しかも酒蔵の中はあっちでトントン、こっちでカンカン、そっちでガリガリ、うるさい事この上ない。ただいま蔵内の改造や改修作業の真っ最中です。作業の遅れから計画通り新酒の瓶燗火入れが済まず、とうとう八月前半までずれ込んだので、それがやっと済んだ今、九月の新年度の仕込開始までに一気に懸案の改修工事のいくつかを仕上げてしまおうということで、取り掛かっているからです。

朝数えてみたら、配管設備工事、冷蔵工事設備、電気工事、鉄工屋、土建屋、都合5業種の業者が蔵内に入っていて、その内ほかの工事の件の打ち合わせに来たまったく関係のない業者まで現れて、うるさい事おびただしい。だけど一部築230年の骨董的価値しかつきそうにない酒蔵を現役バリバリの三季醸造の吟醸蔵として酷使しようというわけですから、少々の改造をしなければ持たない、というか私どもが期待する酒蔵としての最低限の性能を発揮しないから少々うるさいのは仕方ないところです。

それで今回のメインテーマは酒造り上の過程毎に理想とされる様々な数値目指して、微妙なコントロールのできる酒蔵。

さしむきは、浸漬タンクの除去と大吟の仕込室の氷温室化。浸漬タンクは昔の機械洗米時代の名残で、精白60%クラスの酒の原料処理までなら、非常に省力化できて便利なものなんですが、浸漬米の微妙な吸水パーセンテージまではコントロールできず、今の旭酒造にとっては必要ない。

仕込室の冷房は、これも長年の課題の解決策として期待しているもので、室温を氷温に下げて、その室内全体の冷気でもろみの品温をコントロールしようというものです。熱カロリーのロスや蔵内作業する人間の作業環境という面からいうと室温はもっと高くして、もろみタンクだけを冷水や冷媒などを使ってコントロールするのが一般的なんですが、これだとコンマ何度以下という吟醸仕込で必要になる微妙なもろみの品温コントロールが出来ない。また、従来は冷水を回す時間ともろみの現在品温との相関関係の経験上の勘に頼って冷水バルブの開閉タイミングでもろみの品温をコントロールしていたんですが、勘は勘にしかすぎませんから、それだとあまり面白くない。何より、もろみの現在温度と極端に開きのある温度の冷水でコントロールをせざるを得ず、もろみのバランスを崩してしまいます。

それと忘れていました、瓶詰場の改装。百パーセント瓶燗処理によって瓶詰するはずが、処理能力が間に合わず、一部冷詰方式も今年度試したんですが、やっぱり香りの点でうちの酒と合わない。それで瓶燗処理能力を上げるための前処理の設備とそれに伴う新しい王冠とその打栓設備をいれることにしました。

これを入れるために、広島西空港からコミューター・ジェットのセスナで会津二本松の「奥の松」の酒蔵まで瓶詰システムを日帰りで見せてもらいに行きました。「奥の松」は瓶燗システムと理屈は一緒のパストライズシステムを全製品の瓶詰に導入している日本でも珍しい蔵です。本社は二本松市内にあるんですが酒蔵は杉木立に囲まれた静かなところにあるきれいな蔵ですよ。

だけど今回の「奥の松」といい、以前見せてもらった「栄川」といい、どちらも会津の酒蔵で、山口県の旭酒造は、マスコミに言わせると戊辰戦争・白虎隊以来の遺恨の相手となるところで、見せていただけなくても仕方の無いところです。勿論どちらも万石蔵で旭酒造とは規模も違うんですが、同業他社に気持ちよく門戸を開放して見せてくれた。会津の魂というか会津人の懐の深さを見せられた気がしました。ついでに言えば、旭酒造が杜氏蔵人による酒造りから社員による酒造りに変えるとき、先達として色々ご指示いただいたのは会津喜多方の「大和川」の佐藤社長でした。

それと最後にセスナのジェット、良いですよ。何より、ちょっと小ぶりの革張りのシートに座って、スチュワーデスのサーヴィスを受けていると、自分がVIPになったみたいな気がして。

こういう地方空港から地方空港へのコミューター便、経営は大変だけどがんばってもらいたいですね。地方の人間として。


▼お知らせ

旭酒造のホームページ http://asahishuzo.ne.jp/ に「獺祭の飲める宿」のコーナーが出来ました。今現在は山口県内の宿だけですが、以前奥多摩の宿でおいてあると聞いた事があります。他県や首都圏でも情報が合ったら教えてください。