このメルマガを以前から読んでいただいた方は、以前私が横綱の「旭富士」の結婚式に関取と同じ酒銘の旭富士という酒を出荷している縁で呼ばれたときのエピソードを覚えておられる方もいると思います。

あの話の結末が、披露宴会場である帝国ホテルで飲んだ某大メーカー製の超特級酒が冷やでも燗でも美味いことに感銘を受けると同時に、両面作戦を取らざるを得ない大メーカーのとしての面子と立場の苦しさを感じ取り、冷やで美味しい酒質にすべてをかけることが小さな酒蔵の生きる道と思い至ることで話を終わったと思います。

まさに、その後「お燗して飲みたいんならうちの酒飲む必要無いですよ。」と色んなとこで話してきました。

ところが自分が四十という年齢を越した辺りから、やっぱりお燗は美味しい。特に秋の深まるにつれ中秋の名月辺り、夏の暑さと冷たい飲み物に疲れた体にお燗酒がすっと馴染む。「あぁ、お燗は体にやさしいなぁ・・・・」

お燗に合う酒はいくつかタイプがあると思います。たとえば漫画家の高瀬先生がこの春辺りからよく言われている香りのあるしぼりたてやにごり酒などの酒も意外と燗すると美味しい。私も純米大吟のしぼりたてをぬる燗で飲むのは大好きです。(尤もあくまでぬる燗ですよ。他人に任せずお燗徳利の前に座り込んで燗がつくのと飲み終わってしまうのとどちらが早いんだろうという位で飲むと二月・三月の大寒の時期はたまりませんよ。但しちょっと危なそうに見えますからお相手に愛想尽かしされませんように。)

尤も基本的には以下の二つのタイプに収束されると思います。まず山廃等の酸のあるどっしりしたタイプの酒。もう一つ、私どもで「温め酒」の名前で出しているもう少し軽い酸と穏やかな香りで燗したとき純米吟醸特有の味の丸みが引き立つタイプ。私どもの出荷する酒としてどれも一生懸命造るのは当たり前なんですが、特に今年はこの酒に気合が入っています。

と、言うのはこの春の椿山荘の純米酒フェスティバル、この会の最後の蔵元とスタッフや関係者の打ち上げで例によってドラマが起こりました。

私も折につけ相談し、著書は常に手元に置いて困ったときは開いてみる、清酒の技術関係では国内でもトップクラスのS先生の出品者の酒蔵達を前にしての本日の出品酒の講評。

「今日皆さんの純米酒を見せていただいて感じたのは香りに走りすぎている云々・・・」それは無いでしょ。先生。アル添酒と比べて香りの出にくい純米で香りを出すためにどれだけ苦労しているというの。

同じテーブルに座っていた香りもあってふくらみもある非常に魅力のある無濾過純米を造るわが尊敬するある蔵元は憮然。きれいな香りと丸い味の純米を造る美人の奥さんが自慢の蔵元は納得できない顔。私は呆然。

これ私の偏見かもしれませんけど、香りに対して酒造業界にはぬきがたい偏見がある。

香りのある酒はガキの酒みたいな。それって若いときから三増のお燗酒しか飲んでこなかった先輩たちの飲酒体験によるものじゃないの。

よーし、やってやろうじゃないの。旭酒造が香りの助けが無きゃ魅力のある酒が造れないと思っているなら、やって見せましょうよ。その上でなおかつ香りのある酒を選択していることを。

気合が入るの当たり前でしょ。

ありがたいことに社員が造るようになって造りの期間が長くなって、仕込まなきゃいけないもろみがまだある。て、ことで造ったのが今年の温め酒。

お燗の楽しみを語るはずが変な方向に話が行っちゃいましたけど機会があったら飲んでみてやってください。好みの酒杯で楽しむお燗酒。友と語るも良し、一人も良し、連れ合いと一緒ならなお良し。


▼読売新聞

9月27日朝刊の読売新聞一面の編集手帳に「獺祭」の字句の由来が載っていました。日頃「獺祭」ってどんな意味だとお客様から聞かれて、怪しげな怪説をしているんですが、さすがわかりやすく解説してありますんで、以下に全文を掲載させていただきます。

『カワウソ(獺)は、捕った魚をすぐには食べないで、岸辺に並べる習慣があるという。その様子が供え物をしているように見えることから、中国では「獺祭」と呼んだ。

今月19日に百回忌を迎えた正岡子規は、その若い晩年、「獺祭書屋主人」とも号した。病床にあって、身の回りの品々を手の届く所に並べている。そんな自分を俳味をこめてカワウソになぞらえた。

死の前年、1901年(明治34年)の正月、まくらべに地球儀が置かれる。同郷の友、寒川鼠骨の贈り物で「直径3寸」、ミカンほどの小さな地球儀である。日本は赤色に、朝鮮半島や満州(中国東北部)は紫色に塗られていた。「二十世紀末の地球儀はこの赤き色と紫色との如何に変りてあらんか、そは二十世紀初の地球儀の知る所に非ず」(「墨汁一滴」)。病床の子規の目は、戦争と革命が塗り替えていく百年後の地球儀を、遠く見つめていたらしい。

異なる色に塗り分けられた国家同士が相争う二十世紀の地球儀。見えない国際テロ組織が不気味に広がる二十一世紀の地球儀。「9月11日」を境に、色彩豊かな地形が映し出す像も、一変したのだろう。

中東や西南アジアの地図、各種言語の辞書、外電の束…。同僚がめいめい「獺祭」の輪の中で仕事をする深夜の職場を歩きながら、そんなことを思った。』


▼お知らせ

従来単独の商品として出していた「温め酒」を「獺祭」のバリエーションとしてリニューアルしました。「獺祭」ブランドということになりますと別注以外は箱もつきませんし、取り扱いの酒販店も特定の店に限られるんですが、それらの配送・営業コストの削減効果を価格に反映させて、「獺祭」ブランドらしくぎりぎりの価格設定まで引き下げています。まだ、写真等の関係でホームページの商品案内の変更が遅れると思いますのでご案内しておきます。

  獺祭 温め酒 50
  純米吟醸 山田錦 50%精米 日本酒度+6 酸度1.6
  価格1.8リットル 2500円  0.72リットル 1250円

  商品のご注文は shop@asahishuzo.ne.jp