純米ファンのお客様から「一升1400円でそこそこの品質で満足できる純米酒なんて出来ないの」というお手紙を頂きまして、その返事をさせていただきました。個人の方に送らせていただいた手紙ですが、酒蔵の主人が日頃どんな風に考えているかわかりやすいと思いますので、差し支えの無いところだけ、一部転載させていただきます。
以下、返事の文章です。
ところで、お燗酒に合う安価な純米酒の件、本当に大事な話なんで、少し私が日頃考えていることを説明させてください。
結論を言えば国産で可能です。
但しいくつか条件があります。戦後日本酒の主原料である米は十倍以上になりました。ところが日本酒の価格は、戦後大工さんの一日の日当でも一本買えなかった時代から、下手をすると五十本ぐらい買えそうな現在まで、あまり価格に大きな変動はありません。つまり、国内産に偏った、というよりも既得権を持った団体の利害に偏った、原料米問題に手を突っ込めば十分対処できる話です。
現状オーストラリアで生産される米と、日本の米に最大十何倍の開きがあります。しかもそのオーストリア米を日本に輸入するとすれば日本政府が立ちはだかって、関税と閉鎖的特権流通ですぐ五倍程度になります。
もう一つは流通問題。流通の秩序ある正常取引の美名のもと、本来リスクをとってなければ取れるはずの無いマージンが卸し小売など流通業界に無原則に垂れ流されてきました。その辺りの矛盾をついての最近のコンビニやスーパーの酒販売への参入・ディスカウントの台頭も、結局フランチャイズの本部や本社バイヤー部門などの、ロイヤリティなどの名目でマージン要求をする部門を増やす結果になったにすぎません。
この二つを整理すれば出来ないことはありません。
中略 (送った酒―寒造早槽48―の説明)
この酒は残念ながら一升1400円でなしに四合1500円ですが、48%精白の山田錦を使用した純米吟醸です。
米の購入には一切地元の経済連や酒造組合を通しません。直接やる気のある農家と契約栽培するか、それで間に合わない量はビジネスライクに商社を通しますから、従来の農政の感覚からすれば秩序を破壊するやり方と取られているかもしれませんが、その結果として米の品質と価格のバランスは15%程度改善されていると考えています。
また、全使用量4000俵のうち90%以上を山田錦で賄う予定ですが、これも品種をなるべく単一化することによる原料処理担当者の負担減を狙ったものです。私どもは今年全ての仕込を純米吟醸と純米大吟醸だけとし、仕上がりの結果を見て普通酒やアル添の吟醸に製品を変更する方式を取っておりますが、これも仕込の合理化で製造担当者の負担を軽くすることができ大きな意味でコストダウンになります。
「獺祭」の取扱店はリテールサポートを必要としないいわゆるプロの酒販店に限定しており、結果として一般の流通ルートに出荷するより15%程度価格を安くすることが可能になっています。
私どもは9月から6月まで酒を製造しても高々年間千石を造るのがやっとの蔵ですから、蔵の規模から考えて、送らせていただきましたこのランクの酒(注;純米吟醸酒のこと)に特化することが社会的使命と思っていますが、これが五千石以上のいわゆる地方大手に条件を置き換えればおっしゃっておられるお燗にむく純米酒を造ることも決して無理ではないと思います。
一つは酒蔵がどんな選択をするかで決まると思います。
それと、どの部分を海外に渡してどの部分を国内に残すかも重要です。原料は外国で、生産は国内でという形がいいと思いますが。たとえば、全て中国に渡せばオール純米酒のオール手造り(!)のスペック的には素晴らしい酒が出来ると思いますが、品質的には越えるべき障害が大きすぎるように感じます。
勿論、そのときに国が、保護や指導の美名の下、邪魔をしないことは必要なことです。その意味では私どものようないわゆる衰退業種と見られているしかも小さな企業は国が見捨てていますから、その環境が快適でここまで生き延びることが出来たともいえます。
以上のような返事を書かせていただきました。
ただ、この後私はこれを書いた時点で知らなかったんですが、米の輸入も裏道があるみたいで、現在大手メーカーは外国産米を現地価格の二倍程度で手に入れているという情報も入ってきました。そのあたりの米が最近スーパー等に並んでいる「米だけの酒」などの低価格パック酒の原料米になっているのかもしれませんね。ただ、この質問をされたお客様の意図は、日本酒の好きなお客様に許容できるある一定の品質を満たしたものという基準の上の話で、原料が安い=品質よりも『価格』『増量』となっている現在の価格競争の申し子のような大手の酒が求めているものとは違うと思いますが。
政府はこの辺り理解して、米の流通をオープンにしたほうがいいと思います。
つまり、焼酎・ビール・ワインには安い外国産原料を購入する機会を与え、または外国産の酒そのものを輸入することはオープンにしておいて、日本酒にはその機会を与えず、代わりに酒税の特例処置という形で一部酒税を私どもも含めて小さな酒蔵に減免することで業界を手なづけています。(小泉改革で発泡酒の増税と並んで廃止が検討されているようですが)これって、両手両足を縛ってプールで泳げということと一緒です。その上で溺れかけた業者には浮き輪を投げてやる。
いけない、また話が横にそれている。とにかくもっと業界に自由にやらせてくれたら、もっと多様な選択肢をお客様にお届けできると思います。たとえ、それが地方のスケールメリットを追及できない私どものような小さな酒蔵に対して荒波になるとしても仕方ないことと思いますし、(私どもの蔵の規模を考えれば私ども自身は安い外国産米にいけないと思います)それでも失うものより得るモノのほうが大きいと思います。
▼行ってきました「まちの駅」
先週の日曜、大島(山口県の東側の瀬戸内海に浮かぶ金魚のような形をした島としてきっと皆さん記憶にあるはずです)の久賀町のまちの駅のオープンに行ってまいりました。その席で隣に座っておられた今泉さんを紹介されて名詞交換をしたんですが、名刺を見るとなんとなく初対面のはずなのに前にあった人のような気がする。
話してみると、漫画家の高瀬先生という共通の知人がいて、「九州のぼせもん倶楽部代表世話人」の代表として九州の地域開発に積極的に活動されている方としてよく知られた今泉さんでした。
いや、世の中って狭いもんだなと思いながら、時々日本酒応援団長として、時にはこちらがおたおたするような突込みを入れてくる高瀬先生の人の縁に感謝。で、会の資料をめくっていると、まちの駅の一つの形として「酒蔵の駅」が上げられていて、その具体例として私どもの旭酒造が上がっていてびっくり。だけど、生来の好奇心がもたげてきて、うちの独自のスタイルでやらせてもらえるんなら引き受けよう、なんて思い始めたんですから、病は深い。
つまり、最近地方の産業起こし的な目的でオープンされている商業ベースの意味合いの深い「道の駅」と比べて人と人との交流拠点としての意味合いの強い町の駅ですが、だからこそ民間にも何かできるんじゃないかと思い出したんです。もちろん自治体のように補助金があるわけでも地方交付税があるわけでもないわけですから自治体の施設のような立派なものはできると思いませんが。ただ、行政という枠組みの中で、万人向きにしか作れない自治体主導型と比べて民間主導はよい意味でまちの駅の「純米大吟醸」を造れるんじゃないかと思っています。まだ、完全な意味で方向がまとまっているわけではないんですが、そんなことで酒蔵がお役に立てばそれもいいと思っています。
また、チャンスがあれば皆さんも私どもの酒蔵を見にきていろいろ教えてやってください。ただし、事前にご一報ください。この年末にも何人かこられたんですが、さすがに12月は聞いてないと動きが取れないんで、せっかく来られたのに酒蔵のご案内もできず、入り口をのぞいて頂いただけで帰っていただいたこともあります。野越え山越え山奥の蔵までやってきていただいているのに本当に申し訳ないんで、お願いいたします。
▼年末年始の予定
30日まで会社は開いています。31日と元旦は会社は休みですが、私はおります。2日は、造りの日直は出勤していますが、私はちょっと出かける予定ですので申し訳ありません。3.4はいる予定です。