先日お盆開けの次の週、仙台に行ってまいりました。東北の州都仙台。博多がアジアンテイスト溢れるなんとも活気に満ちた街とするなら、北のロマンあふれる抒情詩人の街。様々な街路樹に彩られた「杜の都」と言う言葉がぴったりの美しい街でした。しかも、ちょうど当日から土地の人に聞いても涼しくなったそうで、蒸し暑い中国地方から飛んできたものからすれば、八月なのに上着を着て外を歩いている人が半数を占めるという、夢のような爽やかさ。
何で来たかは置いといて、せっかく仙台まで来たんですから、着いた日に早速日本三景の松島を見に行きました。自慢じゃないけど行ったことなかったんです。仙石線の松島海岸駅に着いたらちょうどお昼。駅を出てちょっと行ったとこにある「まぐろ茶屋」という寿司屋さんでお昼にすることにしました。観光地の食事処にしてこの名前、一寸ひいてしまいそうな名前と立地の寿司屋さんですが、これが大当たり。瀬戸内の小味な魚に慣れた舌からしても、まったく違って脂が乗ってしかも大味なとは言えない迫力があって美味い。それと良かったのが酒。冷酒を頼みますと、さすが宮城、ご当地塩釜の「浦霞」が出てきました。一寸ヘビーだったけど美味い。
だけどこれ観光客からしたらうれしいことですね。観光地に行って頼む酒はたいてい大手の無個性な酒だったり、珍しく地の酒が出るとこれだから地方の酒が馬鹿にされるんだよといいたくなるようなひどい酒が多い。
酒好きの客の立場からしたとき、何も「ナントカ」の純米吟醸なんて特別に銘柄指定しなくても(尤も大抵の観光地の店は酒を選べない飲食店のほうが多いですから)そこそこの酒が出てくることはありがたいことです。
宣伝かたがた言いますと、私どもの地元岩国はこの点及第点です。大体黙って冷酒といいますと「五橋」の生酒か「黒松」の旬麗(だったかな?すいません村重さん憶えて無くて)の300mlが出てきます。どっちもさらりと造ってあって良いんです。「獺祭」はどうかって?痛い所つきますね。どうもうちの様な酒蔵にとって主戦場は東京のような大市場にあるようで、地元は弱いんです。と、言うか、千人で千人のお客さんをターゲットにするんじゃなくて千人で三人のお客さんに認めていただければ良いと言う私どものようなタイプの酒蔵にとって地元はなかなか受け入れてもらえない土地なんですよね。
ある知り合いの女性が私にしみじみと述懐してくれたことがあります。
「私、秋田の酒が好きなのよね。それで知り合いも誘って秋田居酒屋ツァーまでしたんだけど・・・・、私の好きな秋田の酒は秋田県には無かったのよ。あるのは普通のお酒ばかりだった。私の好きな秋田の酒は勤めのある神保町界隈や住まいのある東急線界隈のほうがたくさんあることに気付いたの」と、言うことなんですね。
尤も、「獺祭」も岩国にまったく無いんじゃないですから、禁断症状があらわれたら(?)言ってください、お教えします。
で、美味い昼飯を食った後、塩釜の大山さんというお酒屋さんに一寸寄って仙台に帰りました。地酒の世界ではこの店も有名な店ですが、隣と道路を隔てて対面に酒屋が並んで、向こう三軒両隣の隣組に酒屋が三軒あるという立地条件です。こんな立地だからこそ失礼ですけど塩釜の片田舎から全国にも名前の響く酒屋が生まれたんでしょうね。
それで仙台市内まで戻っての夕食は地方でも地方の美味しい酒が飲める店、青葉区一番町の海鮮料理「絆」に行ってきました。広島の大和屋さんというお酒屋さんの紹介でひょっこりご主人が酒蔵に遊びに来られたのがご縁の始まりのお店です。聞いてみると大和屋さんとは広島の酒を中心とした付き合いで私どものお酒は上野のサンワさんというお酒屋さんから行ってるそうです。それも勿論知ってて大和屋さんも私どもに「絆」のご主人を紹介してくれたんですね。地酒の世界のつながりの広さと地酒専門店と言う業態の商売の厳しさの中に地酒とかナントカだけでなしに地域一番店が特有に持つおおらかさを感じさせる出会いでした。
魚は絶品で表現力の無い者としてはマグロもサンマも海胆も美味かったとしか言いようのない料理(ご主人の大胆で繊細な包丁捌きを見るだけで一見の価値あり!)だったんですが、料理にこだわるご主人のため早く食べてしまった客の皿が空いたと見たとき目の前で寡黙にかつら剥きをしていた職人さんが泉州の水茄子より美味いんじゃないかと言いたくなるような茄子の一夜漬けを絶妙のタイミングで出してくれました(もしやと思って後で聞いてみると息子さんでした。納得)。
酒は東北の「日高見」「日和佐」「弁天」「くどき上手」次の日専務に会うので敬意を表して「神亀」を飲んで大満足。
勘定はご主人がまともな勘定で取ってくれなかったのでどの程度かはっきりしたことは分らないんですが、飲食店街から外れた立地でしかも水曜日にもかかわらず約50席の店のあの混み様、あのお客さんたちの食べっぷりと飲みっぷりを見ていたらリーズナブルであることは間違いありません。
とにかく、掃除の行き届いた店内と従業員の態度を見たとき、「あぁ、美味しい店だろうな」と感じさせる店でした(こういう店を見ると旭酒造もまだまだだなぁと感じます)。
と、言うような調子で仙台の夜は更けて、明けて翌日仙台へ来た目的の要件の日になるんですが、話があまりに長くなりすぎるのでその顛末は次回としたいと思います。
▼ディスカウント店
最近少し気になることがあります。それは県内のディスカウント店に「獺祭」が並んでいることです。それも正価の130%から最大200%の価格がつけられて。この価格から考えて「獺祭」の取扱店の店頭から客を装って買ってきて自分の店に並べているんだと思われます。私どもは「獺祭」を商品管理と商品の情報伝達が出来ると思える店にだけにお取り扱いをお願いするスタイルをとってきました。数年前にあるディスカウント店から「自分の店に売らないのはおかしい。再販価格を維持しようとしているんだろう。公取に告発するぞ」と脅かされたことがあります。
消費者の利便に背を向ける酒造業者というレッテルだったわけですが、今回のこの事態を見るとあの言葉はなんだったんだろうと思われます。
少なくともいかにして販売管理費を削って出来るだけ原価の高い酒を安くお客様にお届けできるかを目的に、セールスも満足な電話番も置かず、いつも電話でご注文いただくお取引先には手の掛からないようにファクスでご注文いただくことをお願いするような罰当たりな販売方法を取っているんですから正規の取扱店が一番安いと思われます。
「獺祭」の通常小売価格と正規取扱店は私どものホームページ(http://asahishuzo.ne.jp/)に記載しておりますので価格がおかしいと思われる方はご一覧ください。