前回予告だけで失礼しました。今回は、「成城石井」の石井社長編です。

何でお会いしたかというと全国の中堅の酒蔵十数社(?)(うちは中堅じゃないですね、零細かな?)で造っている勉強会の講師として来ていただいたんです。

高級食品スーパーとして今をときめく「成城石井」、何せあの「龍力」の本田会長をして「私、あの店好きなんですわ。美味しいモンが一杯あって」と言わせた店です。

何より、「獺祭」を日頃成城の本店で扱っていただいているお取引先でもあります。また、ワインの取り扱いでも有力な店です。

で、そのお話の報告ですが、なんと言っても成城駅前の酒屋兼果物屋から、都内の百貨店がデパ地下の目玉に誘致したがるほどの成功店である今の成城石井に育て上げた人です。それは石井社長のお話は魅力的で面白かったんですが、私が特に興味があったのは石井社長から見たワインに対する消費者の嗜好の移り変わりでした。

と、いうのは、前回の話にも一脈通じる話ですが、はたして消費者の嗜好は進化するのかという疑問です。(このメルマガを読んでいる皆さん、えらそうに言うなと怒らずに、今回は自分が供給者側に立っているつもりで読んでみて下さい、お願いします)

私どもは、「山口の山奥の小さな酒蔵」である零細酒蔵としての旭酒造の利点を生かして「自分が信じるモノ」だけを蔵から出すという姿勢でやってきました。それはそれで良いと思っていますが、「お客様は本質的に何を求めているんだろう」と言う疑問は常にあります。

また、分っていてあえてするのと、分っていないのではまったく違う話です。

たとえばワインで言えば、最近の世界的に見ても異例な日本国内のボジョレ・ヌーボーの大ブレークを見たとき、日本の消費者がワインの品質に対して嗜好が進化しているとはいい難いものがあるように感じます。

つまり、製造者側の理想からいえば、そろそろワインもぶどうのジュースが醗酵したものから脱して、複雑なもの・より洗練されたものへ消費者の嗜好が移行するはずです。実際、日本のワインの識者は現在のワインブームはその現象の現れであるといってるわけですが、このヌーボーブームを見ていると残念ながらより表面的な魅力だけに消費者の目が行っているように思えます。

やっぱり悪貨は良貨を駆逐するんだろうか?それとも、まだワインの裾野が広がっている過渡期現象なんだろうか?

その辺りの疑問を石井社長にぶつけたかったんですが、こちらの聞き方が悪かったのか意図が伝わらず不発でした。

と、いうより答えづらい質問だったかもしれませんね。下手にこの質問に答えて誤解されてもというところもある質問ですから。

この話はせっかくお取引をいただいているお得意先ですから、また何らかの折に違う形で石井社長のご意見をお聞かせいただくことにして、その折にはご報告することをお約束してこの話をしめたいと思います。

(サントリー山崎工場)
前回から今回にお話を引っ張っている間に、もう一つ面白いところに行って来ました。それはサントリーの京都山崎工場。これも旭酒造が所属しているある団体にサントリーが特別会員で入っておられる関係で、実現しました。

一緒に訪問したのは新潟の「北雪」の羽豆社長や前出の「龍力」の本田会長はじめ酒蔵の経営者達10人。

このいわばサントリーからしたら商売敵の集団を、洋酒業界の王者の貫禄か、本社からわざわざお出でいただいた鳥井専務始め工場の幹部総出でご案内いただきました。

ガックリ来たのは日本最小の設備だと自称されていた工場内のウイスキーの試験プラントが旭酒造のビールの製造プラントの二倍の規模だったこと。(単純に言えばウイスキーはビールを蒸留したものですから、ビールの醸造プラントに蒸留システムを加えたものがウイスキーの製造プラントになるんです。)

ま、その話はさておきまして、感銘深かったのは最後のテイスティングの時です。

醗酵前の麦什・醗酵終了後のウイスキーもろみ(?)・蒸留後のウイスキー原液・50年にわたるその原液の経時変化・シェリー樽やオーク樽による品質変化の違い等など輿水チーフブレンダーに丁寧にご説明いただきながら教えていただきました。

その結論はやっぱり美味いものは美味い。

だけど特にびっくりしたのは蒸留直後の粗いとしか言いようの無い原液と樽に貯蔵して5年経ったウイスキー原液の違いです。まさに醜いアヒルの子が白鳥になったようでした。

実を言うと、ここで疑問がわいてきたんです。サントリーのことだから、貯蔵したらこういう品質になるということもある程度相関関係も分った上でこういう荒い原液を造っている事は想像がつくんですが、「それでもなぜこんなに粗くなければいけないんだろう」ということです。

たとえば焼酎とウイスキーは同じ蒸留酒のジャンルで、麦焼酎なんて理屈から言えばどこがウイスキーと違うのか、EUからその酒税額の違いを関税障壁としてクレームがついたことでも分るように、国際的には理解できないようなモンです。ところがまったく違うのがその蒸留直後。「ハナタレ」なんていう言葉があるがごとく初留から珍重されるように最初から焼酎は美味しいんです。(だそうです。すいません。あまり焼酎は経験がないもので)ところが同じ麦が原料でもウイスキーのこの蒸留直後の粗さは何なんだろう。

その辺り無遠慮に聞いてみました。

「技術的には最初から美味しい原液を造ることは可能ですよ。だけどウイスキーとはこういうものなんです。」いささかプライドを傷つけられてムッとしたサントリーの輿水チーフブレンダーの返事でした。もちろんサントリーの技術力からしたらそんなことはかなり容易にできそうなことは私にも分っています。また、それをやらない「洋酒屋」としてのプライドもわかっているつもりですが、だからこそ、どんなものか素人としては興味ありますよね。サントリーさんやってみてくれないかなぁ。最初から美味くて、それが歳月とともに更に洗練されていく、これぞ日本的ウイスキーと思うんですがね。