酒は麹の持つ酵素作用がお米を溶かしてブドウ糖を造り、そのブドウ糖に酵母が取り付いてアルコールと二酸化炭素に分解するという二つの作用の結果お酒になります。そうするとそのブドウ糖を最適な量だけ適当なタイミングに合わせて酵母に提供してやる役割は麹が担うわけです。特に最近の吟醸造りのようにもろみ日数が30日をはるかに越えて35日とか40日になってくると、麹はこの長期間の醗酵期間中ずっとブドウ糖を適当に小出しすることにより酵母を半飢餓状態でしかもバランスを崩さず元気な酵母である状態を維持させ続けるという大変な役割を担っております。その大変な役割を担う麹の育成は酒造りの技術の中で最も重要で「酒造技術の華」と言える部分です。

よく酒蔵の作業を映した写真などの中に蔵人が上半身裸で米に手を入れている姿が映されていると思いますがあれです。(もっとも今のうちの連中はやっぱり時代が違いますからTシャツを着て作業していますけどね。誰が見るわけでもないんですが)

旭酒造の麹は全て鑑評会の出品酒クラスの酒と同じ、自動車レースでいえば最高峰のF1的な理想経過をたどらせようとするところに特徴があります。つまり造る酒のランク等によって麹の製造工程上の差をつけないんです。(立派そうに話していますが、本当は経験不足の若い社員ばかりなんで今回のこの麹は価格の安い酒だから手抜きしても良いからなんてできないんです。毎回全速力で走らせるしかないんです。ただそれだけのことなんですが。もっとも、それだけに成長も早いと思っています。)

ということは酒造りに詳しい方はご存知のとおり、必ず深夜の作業が毎回発生します。ここで担当者の緊張の糸が切れると一巻の終わりなんで三人の担当者がローテーションを組んで交代で深夜の作業をする様にしています。

この三人の中に私も入っております。(私自身は週に一回ぐらい休肝日があった方が良いという不純な動機も大いにあるんですが)

で、その深夜の作業が終わる時間なんですが、これが朝7時程度までかかるとさすがにもうすぐ会社も始まりますから、そのまま朝の支度というか日常の繁忙に突入してしまいます。

ところが5時前に終わってしまうと、中途半端な時間ですから仮眠をとるかどうするかと言うことになります。

ここで自身の精神状態に直面するんです。これが異様な興奮状態にあるんですね。何でもできるんじゃないかと自分自身が思える。で、こういう状態の時、酒屋はどういうわけか酒が飲みたくなるんです。何時かこれだけ高揚している気分を壊すことないと思ってわが蔵のビールを一本飲んでみたことが有りました。(何せ旭酒造はビールメーカーでもありますからね、オッターフェストビール!!)

深夜から早朝に変わる頃のビールというのはうまいんです。細胞が活性化し始めるときでもありますから、早く酔うのも酔うんですが、その分、新鮮な細胞の中にアルコールがジュンと浸透していくような感じがしてそりゃうまいんです。

その結果はご想像のとおり軽度の二日酔いと言うか、飲むときのあの昂揚感はなんだったんだろうと言う午前中を経験しました。

話が横にそれておりますが、ここでお話したいのはその麹作業がすんだ後の昂揚感です。

室温36度以上の部屋で作業をしてたっぷり汗もかいてそれと共に体内の余分な脂肪も燃やして、体内が活性化されている、その結果人間の原始的な生理作用として起きるんじゃないかと思えるんです。(原始が呼んでいる?!)昔、ジョギングをしていた頃感じた昂揚感とそっくりなんです。(ジョギングに使う事に許される時間は早朝しかないし、当時は今のように社員が造るんじゃなしに杜氏制度のもと蔵人が酒造りに来ていましたから、早朝から作業している彼らの手前優雅にジョギングしていることがはばかられて三日坊主でしたが)

つまり言うところの「ランナーズハイ」なんですね。しかも昔のように蔵人の手前と言う罪悪感も無しの、反対に仕事をした達成感付きの。しかも休肝日付き。こりゃあ気分がいいですよ。

すいません仕事で遊んでいて。だけど面白いんですよ、酒を造るという事は。一生足は洗えないですね。