酒蔵の蔵元という立場で同年代の男性を見たとき痛感している事があります。それは私と同年代の中高年男性は「獺祭」のような純米吟醸酒の客になりにくい層だということです。デフレ社会の日本で忍び寄るリストラと成人病におびえながら日本経済を支える(支えているつもりであがいている)オジサン層は日本酒の支持層と考えられ、反対にそれ以外の若者や女性が日本酒にそっぽを向いていると一般に考えられているにもかかわらず、中高年男性が弊社の酒の客になり難いと私が感じてしまうのは以下のようなわけがあります。
この層を観察していますと、日本酒の好きな人と嫌いな人に分かれます。残念ながらこの年齢まで来て未だに日本酒が嫌いな人で、真実に目覚めて(?)日本酒が好きになる人は非常に少ないんです。と、言うよりすでに頭が固まってしまっていて、いまさら自分の経験したことのない新しい日本酒の美味しさが理解できない、理解しようとしない人が大部分のように感じます。また、好きな方は一見好ましい客のように見えますが、結局日本酒なら何でも良いという方が多くて「俺は何でもいいんだから安いんでいいよ」ということになって結局「獺祭」の客にはならないことが多いんです。中には「あまり美味すぎると量を飲み過ぎてしまうから、のどを通るとき引っかかるほうが飲み応えがあって良い」等と気の抜けることを言う人もいます。
その点一般に日本酒と最も遠い層のように言われる若者や女性はいったん日本酒の美味しさに目覚めると、上得意なんです。特に女性は美味しいと感じると周囲の知り合いに誰彼と無く宣伝してくれますから、その意味でも最高のお客様です。そうでしょ。たとえば美味しい店があったとして、女性はその店で如何に美味しい体験をしたか、翌朝早速周囲のきっと10人ぐらいには話してくれます。ところが、男は「そういう店は隠れた店にして次にあいつを連れて行ったとき自慢しよう」と、決して人に話しません。
そのうえ女性はものに対する要求も厳しいですから、案外男が情念的なところで品質上傷のある商品でも許してしまうのに比べ、少しでも自分にとって不愉快なところがあると決して許さないという恐ろしいお客様でもあります。
また、またもやのセクハラ発言という批判も覚悟で言えば、男は大体下心で生きておりますから、「魅力的な女性が日本酒を好きだ」と言うことになると当然そっちへついていきます。何時か赤坂見附の居酒屋をはしごした時も、日本酒を飲んでいるのは女性かまたはアベック。男同士だと大体ビールかチューハイ。つまり男で日本酒を飲んでいる客は女性と一緒の客ばかりなんです。参っちゃいました。ということは男性客を開拓するためにも女性客は大事なんですね。
このように酒蔵から見たとき女性客というのは大変大事なお客さんなんです。
ところで、「美酔」(副題:日本酒を楽しむ女性の会)と言う会があって、しっかり旭酒造も会員になっております(もっとも私は女性ではありませんし旭酒造は法人ですから賛助会員ということになります)この会のホームページ中に「美酒ここにあり・蔵元」という欄があり、そこに「特に女性にお勧めのお酒」という項があります。会の運営事務局から私どもにも女性にお勧めの酒はどれかという質問があって、女性客の大切さを痛感しているものですから、当然のように「旭酒造の全商品は全てお勧めです」と答えさせて頂きました。
ここで止めときゃ良いのについ口が滑ってもう一つ日頃感じていることを答えてしまいました。それは「私が女性に弱いのは自他共に許していることですが」という一言です。当然あまりの阿呆らしさに笑って聞き流していただけると思っておりましたら、しっかりそれがそのままホームページに掲載されているじゃありませんか。女房殿に見つかったらまたなんと怒られるやら。というかからかわれるか。
さらにやめときゃいいのに「あくまで美味しい酒・高質な生活の方のお酒を目指しています。但しその条件に当てはまる女性という前提ですが」と結んでいます。本人はこれ「女性も男性も同じお客様として見ますよ」というつもりで書いていますが、だけどこういう言い方しなくてもいいですよねぇ。これを言わなきゃもてるのに・・・・・。
各々方、お互いに口には気をつけましょう。
興味のある方は上記「美酔」のホームページを、どんなことが書いてあるか、検証(?)してみてください。 他にも高瀬斉先生の「呑斉の酒々日記」なんか連載中で面白いですよ。