先日台湾へ行って来ました。二泊三日の台北だけの駆け足出張でした。国内の酒蔵、北は岩手県から南は福岡県まで9社の酒蔵がスクラムを組んで台湾輸出に取り組んでいるんですが、台北のお店(飲食店)で日本酒の会を開くと言うことでうち「奥の松」「杜の蔵」「獺祭」の三社が蔵元として参加することになり、行ってまいりました。
台湾というところは長いこと国家統制のもとに輸入公社が日本酒を輸入してきた経緯があります。結果として、選ばれた数社の大手メーカーの酒だけが輸出されてきました。結果として、世界で日本についで二番目に清酒の消費量は多いにもかかわらず販売金額は三番目の消費量のアメリカより低いと言う残念な市場になっていました。つまり安い酒しか売れてなかったと言うことです。
そのあたりも昨年の中国のWTO加盟と共に解禁になり一気に色々な地酒が台湾市場に参入し、それなりに市場もまともな形になってきたところです。そんな中で台湾側で開いてくれるお客様のための地酒の会です。李さんというフォーシーズンの和食店で修行された台湾人の経営する「松憙」と言うお店で開催していただきました。
40人の出席者は日本人4割・台湾人6割といったところでした。色々な方に例によって日本酒が如何に美味しいか、ビールやワインなどの他の醸造酒と比べて何が違うのか、その日本酒のどこまでも繊細な酒質は日本人の民族性のどの部分が大きく投影されているのか、徹底的に演説してきました。(台湾の人は話についてくるのが大変だったと思います。相手が日本人でも台湾人でも話に熱が入ってくると区別無しにこのメルマガでもお分かりのように理屈っぽく話すんですから。勿論、私は日本語しか話せません。反省!!)
だけど私の長い話に辟易としている出席者の影で「奥の松」の遊佐さんと「杜の蔵」の森永さんは「カンペイ」の嵐に引き込まれてイッキイッキの連続だったようです。話の長いのも良いもんですね。さすがの台湾の方達も毒気を飲まれて例の中国独特の飲酒スタイルの「カンペイ」に私を引き込めなかったようです。もっとも蔵元三人の中で一番年上ですから手加減してくれたのかも?
そんな中で日本の方に私が特に話したことは、「私達地酒の蔵元は、大手メーカーのように大量生産によるスケールメリットは望んでも得られない、必然的にこだわりのお酒(少し高価)に特化せざるを得ない、ということは小さな酒蔵と言えど全国の広いマーケットでお酒を出していかないと酒蔵としての経営基盤を維持できないという経験をしてきた。と言うことは早晩国内マーケットだけだと閉塞的状況に陥る。広く市場は海外まで求めなければならない。これはフランスでワインメーカーが、国内はアルジェリア産等の安い大量生産のテーブルワインに市場を任せながら、高級品として海外にマーケットを求めて生き残っている現状と同じなんだ。」と、ま、こんなことです。
いつもの私の持論です。何せ酒蔵の中でみんなに話していることは「20年前に全国を市場とする現在の旭酒造が想像できなかった様に、今はとても想像できないだろうけど、20年先に世界をマーケットとして相手できなければ旭酒造に明日はない。」と話しているんですから。
ところが隣のテーブルで「カンペイ」の嵐に真っ赤な顔になりながら話す「奥の松」の遊佐さんの話が聞こえてきました。切れ切れに聞いた彼の話はこうです。「何十年もかかるだろうが、台湾で若い人を中心に日本酒と共に日本の文化を紹介していきたい。」と熱く語っているんです。
いや、感動しました。ほんとにそのとおり。日本酒と言うのは日本民族固有の酒ですから良くも悪くも民族の個性の投影されたものです。だから日本酒を売るということは日本の文化を売ると言うことなんですね。やっぱり、若いって、いいなあ・・・・。最近の『奥の松』の勢いを見てもわかるように彼は若さに力が加わっていますからね。さらに良いですね。
ところで、二次会でとんでもない店に行って来ました。「千文正」(ジバンシー)と言うSake Barです。台湾と日本のハーフの嵐さんと言う店長の下スタッフは身長175cm以上の美形の男性スタッフばかりです。そして日本酒は全て720mlか300mlのボトル売り。必ず売りきりです。キープはなしです。それをデカンタにフラッシングしてお洒落なカクテルグラスで飲ます。これ日本好きな台湾の20代の女の子ははまりますよ。事実店はちょっとお洒落な女の子のお客さんとその連れの男の子で一杯でした。
それを見た私のいかにもオッサンらしいぶち壊しの一言。「これ、新宿のホストクラブでやってるドンペリのイッキ飲みじゃん。」だけどすぐ反省しました。「この売り方って有るんだ。これは背景に日本の高いイメージがあって、日本酒が『カッコ良いもの』として認知されつつあるからこれがいけるんだ。勿論この提供の仕方だけではいびつだけど、片っ方に今日の松熹や石膳(注1)のような美味しい日本料理と共に日本酒を出してくれる店があってそれがカッコ良いものとして認知されつつあるからなんだ」と思い直しました。「素晴らしい」ちょうど顔を出したオーナーに絶賛の嵐を伝えて帰りました。(ちょっと凄みのある台湾美女。但し、私と同年代?)
台湾にいかれる方があったら梅子(注2)も良いですけど一度話の種に寄って見て下さい。
注1 石膳 李登輝さんもお勧め
注2 梅子 ご存知台湾海鮮の老舗
最後に台湾で獺祭の飲める店をのせておきます。
石膳 日本料理 台北市忠孝東路4段28巷17号 tel.02‐2778‐5119
一心 日本料理 台北市中山北路1段121巷36‐1 tel.02‐2560‐5801
吉庵 寿司 台北市大安路1段19巷8号1F tel.02‐2740‐7776
栄松 日本料理 台北市新生北路1段27号 tel.02‐2567‐8835
松熹 日本料理 台北市敦化南路2段265巷5号 tel.02‐2737‐2436
千文正 Bar 台北市永康街91号 tel.02‐2357‐8826
東丸 寿司 台北市光複南路308巷31号 tel.02‐2776‐6066
この他にも山花(敦化南路)に行ったら獺祭があったそうです。但しハンドキャリーで持ち込みのようです。だけどこれ見たらご理解いただけると思いますが、台湾に行っても私は朝食以外は日本酒の売れそうな店以外行かないんです。皆にあほかと思われているかもしれません。
それから最後にもう一つだけ、上にあげたお店の獺祭の価格はおおむね日本の飲食店の倍と考えてください。海外だから仕方ないと言えるかもしれませんがこの価格には台湾の高い関税が影響しています。なぜワインが10%で日本酒は40%なんでしょう。なぜこんな不平等を日本政府は受け入れるんでしょう。フランス政府に出来て日本政府が出来ないのはなぜなんでしょう。業界団体がらみの変な酒税の減免処置なんかいりませんから、このあたり政府に頑張って欲しい。それと国際的に見て馬鹿高い米価格と。
要は国内市場も国際化の波に洗われていますが、平等な条件で戦わせてもらえるなら決して日本酒も負け戦ばかりじゃないと思っています。