この日記を読んでいる方の中には、私が文中で「日本酒」と呼んだり「清酒」と呼んだり、時には「お酒」と呼んだり呼び方に一貫性がない事に気がついておられる方がいると思います。

何でこんなことになるかと言うと私は「日本酒」という呼び名に抵抗を感じているからです。にもかかわらず、なかなか日本酒と言う名称以外を使うと説明しづらかったりして使わざるを得ないことが多いんです。それが色々呼び方が変わる原因です。

日本国内だけでなく、世界に広く売らないと将来的に日本酒は生き残れないと私が思っていることは何度かこの蔵元日記の中でもお話したと思います。その世界に出て行くとき、「日本」と言う固有の国家名が日本酒についていることが障害になる可能性があります。

ワインは世界に広く受け入れられているアルコール飲料ですが、あれがもし「フランス酒」と言う名称だったらはたして広く受け入れられたでしょうか。

日本酒と言うものはことさら日本酒と言わなくても日本民族固有のものです。同じ米と麹を使いながら紹興酒とのあの違いは日本民族が造る酒の固有の個性を色濃く表していると言えます。

さらに日本酒と言う名称への個人的な抵抗感を決定的にしたのは「国産の米を使った酒だけを日本酒と呼ぼう」という酒造組合の運動です。これに毎年退潮を続ける日本酒を何とか米にすがって有利な立場に位置付けようと言う情けなさを感じたんです。

日本酒は確かに日本の食文化の一翼を担うものだと言うことは私のそのとおりと思います。しかしだからと言って「日本人なら自動的に日本酒を飲んでもらいたい」的な言い方に抵抗を感じています。あくまで日本酒も商品です。商品である限りお客様の選択という自然淘汰から逃れることは出来ません。

お客様の選択に選ばれ・残る商品にしようと言う覚悟を上記の決定から感じられないんです。また日本の米なら何でも良いのか。なんとなく農協と酒造組合が心理的にもたれあっている構図が見えるようです。(それも本音部分では酒造組合が農協に馬鹿にされている)

そんな「国酒」とか「国産米使用」とかと言う商品力以外のファクターに頼らず、商品として如何にお客様に美味しさを届けることが出来るか、感動を届けることが出来るかに努力を傾注すべきではないでしょうか。

こんなことから日本酒と言う言葉に抵抗を抱くんです。だからと言って、現実に「日本酒」と言う呼称以外適当な言葉が現在出てこないんです。それどころか10年前の私自身の名刺を見ると裏面に「酒造りは夢創り、拓こう日本酒新時代」なんて書いてあるんです。

ええい、もどかしい。なんか良い言葉無いでしょうか。


▼車買いました

とうとう「あのホンダ」の後継車を買いました。何を買ったって?ホンダの走行距離26万8千キロと同じ26万8千円(!)のアルファロメオ164L。あの壊れるので有名なイタリア車。それもなんと26万8千円。すでにドラマが約束されているようなもんです。

ちなみにホンダの前に乗っていたマセラティ、目茶苦茶壊れました。娘なんか車は壊れるもんだというトラウマから未だに抜け出せないぐらい。

服でもそうですよね。いつか買いかねて買ったアルマーニのネクタイ。(ネクタイに6千円以上払うと罪悪感を感じるんです) なんともいえないカシミアの柔らかさのあるカジュアルだけど洒落ている茶のネクタイ。買って3回締めたらよれてしまって型が崩れてしまいました。

つまりかっこいいけど耐久性はない。これがイタリアモノの印象と経験です。

すでにドラマは始まっていまして、濃紺のボディにあわせて赤い本皮のシートがインターネットのオークションに出ていましたのでよく似合うだろうと思って買ったんですが、付け替えようにもパワーシートが壊れていて動かないから外せない。(どうせ電気に弱いんならパワーシートなんてやめてよ。イタリア人の皆さん) また、パワーステアリングが異常に渋いから取替えの必要あり。勿論タイミングベルトも要交換。Etc,etc,未だに二週間たっても修理工場に入ったまま手元に来ません。

ちなみにうちの上槽担当のNは最近新車を買いました。堅実な彼は勿論ドイツ車。シルバーのアウディのTT。価格は私の車の20倍するそうです。(この車、戦前のアウトユニオンのF1みたいでかっこいいんです)ついでに包装作業の田中さんが最近買った軽の新車もアルファロメオの5倍!!

だけど、価格は別にして、こんなイタリア車ですけど好きなんですね。なぜ好きかと言うと、たまさか調子の良い時のあの何とも言えない官能的な所作。それとカッコだけは抜群。ドイツ車に抜かれようと、新車価格で半分以下の日本車にはるかに遅れをとっても楽しい。(皆から馬鹿にされますけどね)

それと、もう一つイタリア車に乗って思うのは、イタリア人って自分を信じているんだろうということです。自分達が快適なことがそのまま商品につながると考えている節があります。マセラティだってあのハンドルの遠さ。つまりシートをペダル位置に合わせますとハンドルに手が届かないんです。(口の悪いイギリス人が「イタリアの猿」と形容しているようにイタリア人は腕が長くて足が短いようです。) イタリア人の体型にしか合わせてないんですね。

このあたり国産車ならこんなことは絶対に無いはずです。輸出先の市場は綿密に調査してぴったり市場の事情にあった車を企画するはずです。それどころじゃない、国内で売らず、アメリカでしか売らない日本車とかヨーロッパでしか売らない日本車を作っていたこともあります。反対にクラウンのように国内向けだけで絶対海外に売らない車もあります。要は日本人と外国人を明確にマーケティング上で分けているんだろうと思います。

これは勿論日本企業の持つマーケティング能力の優秀性を現しているといえます。でも寂しいことは無いですか。ある雑誌で日本車に乗っているイタリア人に「なぜ日本車を選んだか」インタビューした記事を読んだことがあります。その記事の結びは概要こんなことが書いてありました。「イタリア車に乗っている日本人はイタリアそのものが好きな人が多い。ところが日本車に乗っているイタリア人は道具としてただその車を選んだだけで日本そのものに興味をもっている人はいない。」とまあこんなことでした。

実を言うと私どもも似たような体験を今しています。少しづつですがここ数年海外に輸出しようと試みてきました。色々な意見が市場から帰ってきます。たとえば香港なんかですと「北京語で「獺祭」は読めても広東語では読めないからしたがって広東語圏の香港人は読めない。だから読めるような名前に変えろ。」ヨーロッパですと「ヨーロッパ人にとって今の純米吟醸の酒質は繊細すぎて分らない。酒質を変えろ。」こんな話がしょっちゅう入ってきます。

「獺祭はどこでも同じ顔でなければいけない。どこで飲んでも同じ獺祭でなければいけない」とお断りし続けてきました。したがって、なかなか海外市場が上手くいきません。

「あんた、そんなこと大した事じゃないじゃない。それで売れるんだったら変えたら」こんな忠告も受けました。

だけど変える気になれないんです。「獺祭」と言うよりも旭酒造の酒はどこで飲んでも同じでありたいんです。私どもがいいと思っている酒質も商品のスタイルも変えたくないんです。

そんな経験を今しつつあるんで、余計イタリア人の脳天気かもしれないけど自分達の民族の個性を大事にする姿が好きなんだと思います。(と言うより何も考えてないんでは?)

最後に早稲田大学の桜井先生(私と同姓!違えば違うもんだ!)がイタリアの高級スポーツカーメーカーのフェラーリについて話しておられました。その話を聞いてください。「イタリアの高級スポーツカーメーカーであるフェラーリは高級スポーツカーが好きだから作っているんであって商売が目的でしているんじゃない。だから彼らは高級スポーツカーが売れなくなったら生産する車の種類を変えてでもフェラーリと言う企業を存続させるんじゃなくてメーカーをやめるだろう。」


▼台北エロオヤジ事件

香港と台北に駆け足で四泊五日の出張に行って来ました。香港JETLO主催の試飲会と、日本酒輸出機構(このメルマガを読まれた方はお分かりのとおり、抵抗を感じながら使わざるを得ないんです)の松崎さんの台湾での著書の出版パーティに出席してきました。勿論空いた時間にもう少し台湾と香港の販路を整理したいという事もかねています。

この一年海外が目鼻が付くまで駆け足でもなんでも必要な時は出て行く積りでおります。勿論、もろみ担当の西田君が成長著しく、数日間なら任せても何とかなるところまで来た事も私が海外出張に出て行ける理由です。

と、言うことで海外携帯を買いました。これは韓国と日本国内以外は使えると言う優れモノで、価格も本体が約五千円。月々の使用料も五百円程度と安価なところも気に入っています。

今回のドラマはこの携帯が原因で起こりました。それは自分の携帯番号の080を090と私が見間違ったのが原因です。(やっぱり老眼なんですよねぇ。小さい字が見栄を張っても読めなくなっているんです。)

この件で実害を受けた人は何人かいて、まず会社の連中。朝のもろみの状況を電話するように頼んでいたのに、まったくかかってこない。当たり前です。いくら電話しても電話番号が違うんですから。「何で、電話してこんのや?ずぅーっと待っとったのに!!」ときつい文句の私。自分が電話番号を間違えて教えておいていい気なもんです。

もう一人はある関東の蔵元。「台北に着いたら手伝いますよ」と言う私の安請け合いを信じて私より一便早く香港から飛んだ彼は、私と連絡がつかず、結局その日の仕事を全て自分ひとりでやる羽目になりました。

勿論、その大変な仕事が終わったころやっと連絡がついた私は楽しくその夜の食事をご一緒させていただきました。(○○蔵元さんありがとう!!)

もう一人被害を受けたのがデリカネットワークのNさん。彼女は日本酒輸出協会の会長である松崎さんの命を受けて頼りない私をサポートする役を引き受けてくれていました。私より一時間遅く台北に入る彼女には着いたら私の携帯に電話をくれるようメールしておきました。勿論彼女も電話はつながりません。とうとう彼女は出版記念会会場のアンバサダーホテルで三時間どこにもいけず連絡の取れない私を探して待つことに成りました。

ここでとうとう最大の被害者が発生しました。それは奇しくも私と携帯番号が一番違いの090の持ち主(女性だった由)。かくて、みんなから連絡の嵐となったのです。それもわけのわからない。一番のクライマックスはNさんが彼女の携帯の留守電に入れた内容です。「社長!!どこにいるんですか!!私はどうしたらいいんですか!!三時間もズーっとホテルで待ってるんですよ!!!!」

これは想像してみてください。電話の受け手も女性です。Nさんも結婚はされていますが20代後半のちょっとした美人です(電話じゃ見えないか?)。さぞかし受け手の女性は私のことをエロオヤジと考えたんじゃないでしょうか。

かくて、私の恥じ多い香港・台北の出張は終わりを告げたんです。