先日ある方から「日本国内を忘れないでくださいよ」と冗談めかして言われましたが、先月・今月の出荷を見ていますと海外のウェイトが量はともかく金額だけをとってみれば無視できない額になってきました。
まぁ、フランスのワイナリーの現在の姿を考えたとき、あれをフランス一国の経済力というか購買力だけで支えるのは不可能なのは誰が見ても明らかなように、日本の清酒も世界をお客様にしない限り生き残るのは不可能ですから、国内で今の酒蔵の姿を維持するためにも仕方が無いんだろうと思います。
そんな中で、酒蔵と同じように酒販店さんの段階でも国際化が進んでいるようです。特に東京の酒屋さんなんかの場合「時々、外人さんがやってきて日本酒選びについて質問されるが何をお勧めしたら良いんだろう」とか「先日、中国人のお客さんがやってきて「この店で一番高い日本酒を一ケースくれ」と言われたがそんなときはどうしたらいいんだろう」なんて現実があるようです。
「そんな酒屋さんにサジェスチョンになるようなものを出せ」という要望があって、以下のレポートを出しました。業務用レポートですが、その分実情も感じていただけるのではと思い、蔵元日記に転載させていただきます。
「獺祭」の海外進出と海外の日本酒事情について(特に米国)
量の市場から質の市場へ
フランスのワインが安いテーブルワインなどの国内市場をチリやアルゼンチンなどの海外産ワインに侵食されながら、高級ワインとしての地位を固めることにより広く世界を市場とすることにより生き残っているように、「獺祭」のような一部の地酒にとっても世界を市場としなければ生き残れない時代が来ようとしています。
お客様はグローバル化しています
皆様のお店でも、店頭で「先月までロンドン駐在だったの」とか「来週からニューヨーク出張なの」などというお客様の話を聞く人が増えているはずです。地酒はその性質上、どうしてもこだわり方のお客様が多く、そのようなお客様は概して高学歴者や高所得者層が多く、海外経験が豊富なことは当たり前となります。
海外で「獺祭」に出会う
そういうお客様にとって、海外も名古屋も違いはありません。もしかするとニューヨークで「獺祭」を覚えてくるお客様もいるかもしれません。いえ、積極的にそういうお客様を作っていかなければいけないと思います。
海外で「獺祭」の販売を強化するということは皆様に育てていただいている「獺祭」のブランド力の強化につながり、皆様の販売の手助けになります。
海外での価格
基本的になるべく手ごろな国内と変わらない価格で提供したいと努力していますが、不平等な関税等の問題(この辺りは外務省に少しがんばってもらわないと酒蔵にはなんとも出来ません)で少し高めにはなります。大体国内の50%増しは当たり前で、国によっては三倍(!)ということもあります。そうすると「獺祭磨き二割三分」なんかはドンペリと同じ価格レンジでレストランなどに並ぶことになります。そういう状況で海外で戦っていることも理解してやってください。
和食ブーム
基本的には海外は今物凄い寿司ブームです。ニューヨークの回転寿司に入ってみると満席のどこにも日本人はいないということもありました。箸が器用に使えることは彼らにとって当たり前で、一種ステータス性も持っているように感じます。(日本の若者よりよほど上手)また、寿司だけでなく和食のヘルシーなところが受けているようです。
ニューヨーク
そんな流れの中で日本酒も順調に伸びているようです。特に、ニューヨークでは、和食への追い風とともにMATHURIやMEGUなど5百席クラスの「和」テイストを打ち出したレストランが多数開店したことにより、良質な地酒への理解と需要が一気に高まりました。
世界の情報の発信地であるニューヨークのこの状況は地酒にとっては非常にありがたい現象で、ロサンゼルスのKATANA(注)などもこの流れの中で生まれてきたといえます。
(注)KATANA;サンセットストリート沿いの寿司と焼き物をメインにした200席程度の高級店。
日本酒を飲む客層
総じて、日本酒は外国人にとって新しいテイストですので、客単価100ドル以上の高級店でもお客様は若い方が多いようです。印象としては若い高所得層(ですからアメリカ人としては珍しくみんなスリム)のようです。
外国人に好まれる酒質(特にアメリカ)
やはり香りの高い吟醸タイプが好まれるようです。ただ、香りだけや淡麗なだけの吟醸は飽きが来やすいようで、やはり味とのバランスが良いものが好まれるようです。この辺りは日本と一緒です。外国人の方に日本酒を勧めるうえで何にしようかというときは迷わず皆様が日頃お客様に勧めている酒をお勧めすれば間違いないと思います。
以上のようなレポートです。ところで、先日ラスベガスに今鳴り物入りで建設中のMGMホテルに「獺祭」が採用されたという知らせが入りました。「社長は遊びに行った事はあっても商品が行く事は無い会社がほとんどの中で、お酒は行っても未だに社長が行った事がないというのは問題だから、ラスベガスに出張しなければならない」とただいま社内と家内(!!!)に宣伝中です。(もっとも、一番の強敵は自分で、この出張旅費を正当化できるほどの売上が見込めるかどうか・そういう販売戦略を組むかどうかですけど)