旭酒造でも夏は酒の造りが少しはゆっくりになりますから、この期間を狙って各種の酒蔵の改修やメンテナンスを進めています。
今年もいくつか改修が進んでいますが、メインは麹室と検査分析室の拡張です。
酒造りの要点を昔から「一麹・二モト(酒母;醗酵のスターター)」と言うように、麹は酒造技術の中核をなすものです。したがって麹室の良し悪しが如何に酒蔵にとって重要か分かると思います。現在の麹室も千五百石の酒を造るのに十分な麹室をということで十何年か前に造りましたが、それを今回、倍に拡充しようと言うものです。その麹室を使って千石の酒を造ろうと言うことです。(あの当時はあれで十分な広さだったんですね)
麹室が伝統的に酒蔵で重要な施設として位置付けられているとしたら、最近重要性が増してきたものとして検査分析室があります。麹の酵素力価や水分含有量、モロミのグルコース濃度やアルコール濃度などを分析する機能を受け持ちます。それと同時に旭酒造では酒造り全体の司令塔の役割ももっています。
今までの酒造り現場ではあまりここの機能は重視されていませんでした。分析値より勘のようなものの方が重視されてきたように思います。しかし旭酒造は勘より実際の分析数値を大事にします。
これは旭酒造が、従来の酒蔵のように経験豊かな杜氏制度による酒造りでなく、若い社員達による酒造りをしているところも大きいと思いますが、別に「近年の技術革新の結果として」「旭酒造だから」という要素もあります。
こんな風に理解していただいたらと思います。ガンの治療や発見に昔は二年以内などあまりに短い期間の検査は患者に負担を強いるだけで意味がないものとされてきました。しかし、最近新しい検査方法と内視鏡とレーザーメスによる開腹手術を含まない手術方法の開発などにより、超微細なガンの初期段階に発見除去する治療法が確立されたと聞いています。
同じように酒の分析も以前と違い様々な分析をすることが可能になりました。また、この分析値と酒造りの相関関係もかなり解析されてきました。しかも、旭酒造は山田錦と雄町と言う軟質米を使った純米吟醸だけの仕込みでスタート(注)と言う超単純な製造システムです。つまり、全てがデータベースになり、それが現在のモロミの判断に使えるのです。
その判断により、成果も、そして手痛い失敗もいくつも経験してきました。それらが全て私たちの中に経験として蓄積されているんです。そんなわけで、超微細な分析値の差異も旭酒造においては酒造りの大事な判断基準になります。
こんな大事な役目を受け持つ検査室がこの一・二年容量的にギブアップ状態で新たな機材を入れようにも物理的に入らない状態になっていました。
そんなことから、検査室を2.5倍の広さに拡大することにしました。この検査室は旭酒造のこれからの10年の酒造りにおける司令塔の役割を果たしてくれると期待しています。
(反省してます)
毎週金曜日は5時20分ぐらいからこの検査室で製造関係のミーティングをしています。ここで次の週の作戦会議も今週の作業の反省も全てしています。自分でも「よく言うな」と思うほど各担当者の作業結果を、それが起こるに至った仕方の無い要素も考慮せず、えらそうに批判しています。申し訳ない。
反省は、この批判じゃ無しに、その途中に掛かってくる電話の応対です。営業部も受付も無い小さな酒蔵ですから、製造関係が全員集まると言うことは他に誰も電話番もいないと言うことです。しかも私の座る席の真ん前に電話があります。
当然会議中は私が出るようになりますが、そうすると議論が激しているときは電話番はカッカきているという事になります。「只今、ミーティング中!!後で電話ください!」とかぶっきらぼうな応対をかけてこられる皆様についしてしまいます。(しかも取引先も業者の方も無関係に)
すいません。反省しております。反省しているんですが、ついやってしまいます。これでも反省して努力していると言うことだけは理解してやってください。
(注)旭酒造では全てのモロミは純米吟醸か純米大吟醸として計画され、仕込まれます。しかし全ての酒が満足するレベルとは限りません。出来の悪いモロミは少量のアルコール添加をして普通酒に落としてしまうか、まったくしなくても商品としては普通酒に落とします。