■来訪者その一 小売酒販組合婦人部の皆さん
近くの小売酒販組合婦人部の皆さんが「獺祭の酒蔵を見たい」という事で酒蔵見学に来られました。お一人を除いて他のメンバーのお店では「獺祭」を扱って頂いておりません。また、新たに扱って頂くという事も先方と当方のお互いの事情で少し無理があります。と、いうことはご案内したから酒が売れるわけではない。ところが悪いことにこのお客様達は酒の業界人ですから、もし粗が見えれば恥をかくだけでなく皆に広まってしまうということです。どちらかと言うと気の重たいお客様です。
だけど、敵に後ろを見せるわけには行きません。また、こんな時期だからこそオープンに酒蔵の中をお見せして、マイナスイメージばかり目立つ日本酒のイメージを少しでも払拭したい。そんな気負いもあってお受けしました。
おかげさまで、途中「何で獺祭を扱わせないのよ!」と言う雰囲気に微妙になりかけたりはしましたが、全体には満足していただきました。ご案内している途中で皆さんから「日本酒は若い人に飲まれない」と言うご意見も頂きましたが、絵に書いたようなグッドタイミングで、若いファッショナブルなカップルが「ここが獺祭なんですね」と尋ねて来られて、大いに気を良くしました。
■来訪者その二 藤田千恵子さん
ある先生に言わせると「日本酒業界にかかわるライターに二人美人がいる。その一人が藤田千恵子(注)だ!」そうです。(二人かどうかは別にして美人と言う点は同感です)
その藤田さんから「蔵が見たい」と言う申し入れがありました。自他ともに許す「女性に弱い旭酒造の社長」ですからもちろん「どうぞ、どうぞ」
で、当日。私には下心がありました。「ほんとに優れたお酒ってどんなお酒。ねぇ、教えて!!」と言うことを聞きたい。
酒を造るということは、どんな酒を造りたいかというイメージというか目標が何より大事と考えています。その目標があれば、下手なら下手なりに、アホはアホなりに、時間をかけて、失敗しても恥をかいてもめげずその目標に寄せていけばいいからです。反対にどんなに技術があっても目標のないところに良い酒はできないと思います。
だから、ここぞと言う人にはみんな投げかけてその人の意見を聞きたいんです。自分の持っているイメージがおかしくないか、どんな欠陥があるか他人の目を通して炙り出すために。ですからうるさく聞くくせに、頂いた意見を聞きいれるかどうかは別です。(すいません。うるさく議論を吹きかけ質問してご迷惑をかけた皆様。伏してお詫びいたします。)
と言う、高邁(?)な下心を持って、藤田さんの来訪に臨みました。にもかかわらず、藤田さんの質問力のほうが上で私が答えるばかり、このお話まで及ばず終わってしまいました。
ちょっとおだてられると、ペラペラ自分だけ話す癖は直さなければいけないと痛切に感じたところです。藤田さん、また来てください。美人の来訪は大歓迎ですから。
■来訪者その三 「○○○○○」一行(藤田さんの三日後)
なんで伏字かといいますと、マスコミなどの取材拒否の店だからです。場所は池尻で良い店なんです。店の外見はちょっとゴージャス系なのに店内に入るとまったくおじさん系居酒屋の乗り。しかるに客層は若く女性客も目立つ。なぜなら、有名無名にかかわらず店員の○○○さんが選んだ酒の選択が良い。およそ160種類。常連客に聞くとその酒が目に見えて減って回転しているのが分かるそうです。私の経験から言っても変な酒にこの店で出会った事がありません。で、もちろん勘定が安い。
ここまでくれば客筋が良いのも分かるでしょう。(常連客が徒党を組んで、居心地の悪くなりそうな客は入れないんだね。あれはきっと。)
そのお店が、山口・広島見物方々、「獺祭」の蔵を見たいと来られたんです。最初お客さんを入れても10名ぐらいと聞いていました。ふたを開けてみると、仲の良い酒屋さんとそこと仲の良い酒蔵まで8軒ついて来る事になり、25名になっていました。
こうなりゃ、悪乗りして、来る酒蔵に提案しました。「どうせ来るなら獺祭だけ飲んで、お仁義に「へぇー」なんて言っても面白くないでしょ。各自自分とこの酒を持ってきて夜はそれで宴会しましょう」ということにしました。
で、昼の酒蔵のご案内は一応まともに済んで、夜の部はどうだったかと言うと・・・・・、「狂瀾怒涛・抱腹絶倒・空いた口がふさがらないもの」でした。(詳しい内容は酒造業界及び酒販業界の名誉のため差し控えさせていただきます) 前回のメルマガで「異様に盛り上がる宴会」を批判していたはずの獺祭の社長も大笑い。(この乗りで昼の酒屋稼業も行きましょう。絶対成功します。)
だけどこのお店の凄さを実感しました。慰安旅行方々の酒蔵訪問に酒販店5軒、酒蔵8軒がついてくるんですから。
そうそう、前述の藤田さんも今回のメンバーの一人に電話を入れて「○ウ○さんちのツァーで獺祭に来るんだって。私もこのまま待ってようかなぁー」と、かなり真剣に話したそうです。
旭酒造の新しい仲間と小心蔵元の言い分け今度入社した木下君が、一週間研修目的で製造の各部門をまわった後「旭酒造のみんなって真面目ですよねぇー。真面目に造ってるんですねぇー。」と感心してくれました。
でも、臍の曲がっている蔵元の、それを受けての朝礼での一言。
「真面目とほめてくれたのはうれしい。確かにこれだけ真面目に造っていれば日本酒通と言うか日本酒マニアの人は納得してくれるだろう。だけど一般のお客さんは別よ。一般のお客さんにとって真面目に造ってあるとか一生懸命なんて何の価値も無いんだから。うちのお客の大多数を占めるいわゆる普通のお客さんにとっての価値って、美味しいか美味しくないか、価格と比べて適正か、それだけなんだから。だから結果しかない。」
「結果を求めて、それに対する最適な選択肢として真面目と言われる方法でやっているんだから、真面目とほめられてそれで満足しちゃあいけない。そっから先があるから。」えらい発言がかっこいいでしょ?だけど、本当は前日ある製造担当者にうまくいかなかった結果についてグチグチ文句を言ったんでその言い分け半分だったんです。
■来訪者番外編
この夏は早くも台風に二度御出でいただきました。なんせ、当方は築230年のボロ家ですから、大変です。例の西を向いて進んだ台風により水タンク横の土壁と屋根が崩れてしまいました。
麹室と検査室の改修工事の真っ最中で大工さんが入っていましたので、話は早かったんですが。「時々はこんな事故があったほうが良い。生き物でも適度なストレスが無いと長生きしないと言うから」なんて、憎まれ口をたたいておりましたら、今度は台風16号の猛烈な雨により、前の川が増水し、地ビール工場の方へ浸水してしまい肝を冷やしました。
酒の冷蔵庫のほうへ侵入しなかったのでまだすくわれたんですが、それもあと5メートルと言うところで間一髪でした。
おかげさまで地ビール工場のほうもせいぜい10センチの浸水でしたからビールそのものには被害はありませんでした。また、泥と水を取り除けば機械も正常に動きました。騒いだほどにはたいした被害ではなかったわけです。
お見舞いを頂いた皆様にはこの場を借りまして再度お礼申し上げたいと思います。ありがとうございます。
ただ、おかげで、改修工事のほうが予定通り進まず、麹室は一部来年回し、検査室もこの蔵元日記を書いている時点ではまだ出来上がっておりま
せん。
■番外編その二
ここまで書いて、あの台風18号が山口を直撃しました。まいりました。昼にこちら山口を直撃したんですが、それからずっと停電です。まったくFAX駄目。メールが駄目(モデムがダウンして)。電話も非常用一つを残して後は全部駄目。その上ここは携帯の全く通じない地域なんです。(26時間後に復旧しました。)
それより困ったのは、日本最小の純米吟醸専門の四季醸造蔵として、この日も初添えの仕込みと麹の引き込みがあったんです。
蒸上がりの直後だったんで間一髪でした。だけど全ての空調や機械設備、もちろん明かりもダウンしている状態で、担当者の勘だけを頼りに、掛米の冷却も麹米の床揉みもせざるを得ませんでした。何とか添えの仕込みも麹もどちらも目標温度より一度の誤差のところまで持ち込みました。
ちょっとよくやったと担当者達を褒めたくなりました。だけど、流石に、まいった。
注〈藤田千恵子さんとは〉最近では能登杜氏の四天王と呼ばれる天保正一さんの単行本を出したり、「ダンチュー」や「旅」などに寄稿したりしている売れっ子ライター。