ある女性のお客様から問い合わせのメールを頂きました。「獺祭の小瓶の栓が開け難くて爪が割れそうになるんですが、最近変わったこの栓は何か意味があるんでしょうか?」というものです。
ご存知の方も多いかと思いますが、旭酒造では最近小瓶の栓を良くあるねじ式の栓から一升瓶と同じ打ち込み栓に変更しました。それについてのお問い合わせです。早速お答えさせていただきました。大事なお話なので以下に一部転載させていただきます。
―――○○○○様
すいません。ご迷惑をかけます。
理由は、瓶口のねじ山の破損から逃れられないからです。ねじタイプの瓶詰めは瓶のねじ山に沿ってアルミニウムのキャップを打栓機のローラーで整形することによって密栓します。このとき、ローラーの圧力や微妙な位置の問題により瓶口のねじ山が破損する事があります。この破片は通常瓶の内部には入らないといわれますが、100%そうであるとはいえませんし、破損した瓶口を発見したお客様にとって全く不安の無いものとはいえません。
最近、某大手飲料メーカーがアメリカで破損した瓶口の破片がお客様の口を切り、14万本のジュースの回収に発展したとの記事がありました。小瓶のねじ山はこの危険を抱えており、大塚製薬がオロナミンCをプルトップ栓に変えたのもこの理由ではないかと愚考します。
もちろん徹底的に打栓時に打栓機を調整すれば理論的には破損をなくすることは可能のはずです。また、他社がそのようにされていることも理解しております。
しかし、そのためには通算すれば調整に膨大な時間が掛かり、結果として表に出ない膨大なコストが発生しているわけです。これは最終的にはお客様にご負担いただくことになります。
このことを嫌って私どもはこのタイプの栓に切り替えたのです。
私どもで、「調整を要はきちんとすれば解決できる問題で、調整する人間の意識の問題だ」という議論もありました。しかし、この論はそれに掛かる労力が結局お客様に負棚頂くコストだということを無視した上で成り立っています。
私たちの全ての努力は酒質に向けられるもので、コマーシャルベースの垣根の低さ(一部大手酒類メーカーなどがチューハイやビール風飲料で追及しているような)に向けられるものであってはならないと考えております。
以上のような考えからこのような栓を開発しました。
出来ますれば、栓抜きを使っていただければ簡易にあくのではと思っております。よろしくお願いします。
旭酒造株式会社 櫻井博志―――
以上です。しかし、日頃、独身の男性社員に「女性に理屈っぽいことを言ってるともてないぞ」と言ってる割には自分の話は理屈ばっかりの内容で、言うことと実際の違いが透けて見えるような話ですが、これがそのお客様にお答えしたご返事です。
この中にも書いておりますが、私たちは実際のお酒の酒質に寄与するものに全ての努力を集中することが、山奥の小さな酒蔵に出来る唯一最高の生き残り戦略と思っております。ですから、栓の調整など実際のお酒の美味しさに関係ないものに神経や労力を費やすことは極力減らそうとしています。
その考え方から、こういった小瓶を開発しました。
私どもは自分で決断したことですから自らがリスクを背負うのは当然と考えていますからビンの金型代も旭酒造で負担しております。しかし、私どもだけで使うのでは数に限りがあり、将来的にスケールメリットを追求できる数にはならないと考えております。ですから、ビンメーカーには「旭酒造の留型にはしない。このビンを使いたいという酒蔵があったらどんどん使っていただいて最終的に瓶コストを下げたい。それがお客様の利益につながるから」と話しています。
この瓶に興味のある酒蔵をご存知の方がいらっしゃったら私どもへ声をかけてください。