本当は香港の報告をするつもりでしたけど次回に回させていただいて、緊急のお願いを。

先月二月末に広島市本通り裏の酔心本店の横に「空華」という炭火焼としゃぶしゃぶの店がオープンしました。高田さんというニューヨークの「酒蔵」(注)などで8年間修行してきた店長が自身のおばあさんが以前から経営されていた店を引き継いで開店したものです。

面白いことに店はなんとなく照明などニューヨークスタイルです。(トイレなんかも何の変わりもないはずなんですけどなぜか雰囲気があちらなんです) お料理もお肉が中心ですからボリュームたっぷり。一万円札を持っていけば二人で飲んで食っておなかを抱えながら帰るようです。そんな店ですから、お客様も多い繁盛店になると思います。

ところで、何をお願いかというと、この店に行ってほしいんです。日本酒ファンの皆さんに。それも日本酒業界のために。

この店の雰囲気がニューヨークスタイルだというのは先ほど言いましたが、お酒のメニューもニューヨークスタイルです。どういうことかというと地酒の品揃えが良い。今ニューヨークで評判の良い地酒がずらりと並んでいます。サーブの仕方もかっこいい。

ところが、この地酒を飲んでいるお客がいない。あんなに流行っている店なのに。みんな焼酎かビール。これじゃあ、店長がニューヨークの八年間で育ててきた日本の清酒への夢も誇りもなくなってしまう。

ぜひとも皆さん、「今晩どこ行こうかなぁー」と思われるときは「空華」をよろしくお願いします。

「空華」 広島市中区立町6-11  082-247-5885

だけど、愚痴混じりに言いますと、ロンドンに「祭」というはやっている和食店がありますけど、そこで見た光景がフラッシュバックしてきました。2百席くらいの大型店ですが、やっぱり超満員でした。お客は私たちともう一組の日本人三人組を除いて現地の白人達。みんな日本酒を飲んでいました。一組を除いて。

それはもう一組の日本人達がワインを飲んでいたんです。「あぁ!!」

(日本酒の海外進出の光と影)

永田町で先日開催しました「獺祭新酒の会」で漫画家の高瀬先生が「日本酒が国内で売れないものだから、海外で売って、その評判で日本で酒を建て直そうという情けない風潮がある」とおっしゃっていました。

そのときはそんなに気にもしなかったんですが、昨日ある人から「○○も海外に出すことを始めたらしいですよ」と聞きました。この蔵は低価格酒メーカーと云うかディスカウントの酒販店に専門に出すメーカーです。一升瓶入りの純米吟醸酒や吟醸酒が1500円とかそんなメーカーですね。(精白60%以下の等級米を使用すれば法的には合法で、法的に品質を問われる事はありませんから)

ちょっと、ガクっときたと云うか、自由競争で他者がやることですから私どもに言うべき権利は無いんですが、海外でも国内市場の二の舞になるのではという恐怖感を覚えました。

この件に関して、一つだけ。

海外のディストリビューターに対して、日頃、私が言っているのは「入れ替え戦を常にしてください」ということです。つまり「売れない酒はメニューから落としてください」「お客様の声をよく聞いてください」ということです。(反対に言うと落とした銘柄についてお客様から聞かれた時、「あの酒は売れてしょうがないから最近入ってこないんです」なんて言わないでください)

私たち蔵元も落とされない酒を出していく。この緊張した関係からしか日本の清酒の将来は開けないと思います。もしかすると悪貨が良貨を駆逐する事があるかもしれません。そのときは駆逐されてしまうような程度のものしか作っていなかったと反省するしかないんじゃないでしょうか?

この永遠の入れ替え戦を営業力だったり一種の政治力だったり、品質と違うところで戦う気は旭酒造にはありません。お客様の「あぁ、美味しい。また飲んでもいいな」 これに全てをかけようと思います。

(注)日本酒を飲むのは日系人に限られニューヨークにまだ全く地酒の無かった頃から地酒を置き始め、アメリカの白人系市場に対する地酒ブームの火付け役として有名。