今月から工事にかかるんですが、精米工場を新設することにしました。
旭酒造の欠点は酒蔵が山間の谷間にあるため平地がなく、酒蔵の増設がほとんど不可能なことです。ところがより良い酒を造ろうとするなら、余裕のあるスペースと優れた設備に負うところ大ですから、この「土地が無い」ということは致命的な欠陥でした。
今までもその無い土地を求めて、裏の山を削る計画を立てて調査が進むにつれ最初の計画の倍の金額になった見積もりとともに断念したり、五階建ての酒蔵の設計図を引いてみて階段とエレベーターが平面のほとんどを占めるその図面を見てあきらめたりと、やりかけちゃ諦めることの繰り返しでした。
ところがその土地が手に入ったんです。酒蔵から6kmほど離れた町の中心部ですが、約1千坪の面積の精米工場だけではもったいない広さです。(おかげで、周東町のみなさんから「酒蔵を移転するのか」と聞かれました。ご安心ください。酒蔵を移す気はありません)
ある自動車会社が持っていた土地で、遊んでいたのを譲っていただきました。買いたいという話は数社からあったそうです。旭酒造のような貧乏酒蔵が出した金額より高い値を提示していた会社もあったようですが、「酒蔵なら、この土地を景観や環境を破壊することなく使ってくれるだろう」ということで、破格の金額で譲っていただきました。
この気持に応える事のできるような工場にしたいと思います。また、何よりお客様から長年に渡って酒代金としていただいたお金を使って購入させていただきそこへ建てるんですから、素晴らしいものにしたいと思います。
最後に、少し議論が分かれるところかもしれませんが、旭酒造の設備や設備投資に対しての考え方を。
設備や投資はその費用を酒代金の形でお客様からいただく事により酒蔵の経営が成り立ちます。ですから、私個人や一部のマニアの自己満足のようなものではいけないと考えています。全てはお客様の幸せのために追求されるものです。
私たちが追及できるお客様の幸せとは「あぁ、美味しい」というお客様の一言で現されます。ですから「あぁ、美味しい」という一言を求めて私たちは努力します。しかし芸術品を造っているんではありませんからコストにつながる無駄な設備をすることを許されるものじゃありません。(一部のワインのように「超」高価な酒がこれから日本の清酒にとって必要なものと考えていますが、そのためにはその価格を正当化させる「何か」を清酒が持たなければいけないと思います) (その何かは単純に品質だけではないと思います)
そんな思いで今まで精米工場を自前で持たずにきました。そして今、持とうとしております。(私はある一定以下の規模だと自前の精米工場を持つことはその不要なコスト分をお客様に負担させるだけのものと思ってきました。ですから「精米をアウトソーシングすることは当然」と発言もしてきました。しかし、お蔭様で20年前に7百石以下の生産量だった酒蔵は1.7倍に成長し、7百俵だった米の使用量は6倍の4千2百俵に増加しました。ありがとうございます。やっと自前の精米工場が持てる環境が整ったと思います。)
秋には完成して皆様にご披露できる予定です。
(ご冥福をお祈り申し上げます)
JR福知山線で悲惨な事故がありました。
犠牲者のご冥福をお祈り申し上げます。このような事故はいくつもの悪条件が重なっておきたはずです。私たちにとっても他人事ではありません。重なる悪条件のどれか一つが無ければこんな大きな事故は回避できたはず。そのためにも日頃から「できる事」「すべき事」は必ずする・つめておく。そんなことを社員に話し自ら肝に銘じました。
それと同時に感銘したこともあります。
地元の人たちがニュースでご存知のとおり、事故後いち早く現場で被害を受けた方の救出にあたったそうです。
簡単そうに言ってますけど、なかなかできません。工場なら「操業を停止するという事はどれだけのコストがかかるか分かってるのか」商店なら「商売どないすんの」それ以外にも「油の匂いしてるというのに爆発したらどうするの」「レスキュー隊が来るまでまっとったらええ」「危ないことすな」いろんなことがあったはずです。
こういう無名の勇気ある人たちと同じ国に住んでいるということは誇らしいことですね。