ここ数ヶ月のあくまで感覚的意見ですが、あれほど猛威を振るった焼酎ブームが少しかげりをみせてきたように感じています。
たとえばお客さんの何かの拍子の発言、焼酎バーを経営している方などが酒蔵を見たいと訪ねてこられることが増えたこと、もっと意地の悪いことを言えばウィスキーの水割りを飲み次にビールを飲んで来たいわゆる「大勢追随型だけど本当は何でも良い層」が焼酎を飲みだしたこと。この層は一番ボリュームの大きなお客さんですから彼らが消費者になると売上もドンと上がるんですが彼ら自身が商品の純粋性とか先鋭的なところを壊し始めて商品としての崩壊が始まるような気がします。
焼酎は大方の日本人がある意味初めて出会った酒類ですから伸び続けるだろうとは思っていましたがそれでも最近は加熱しすぎたブームといえる状況だったと思います。(注)
「月刊酒文化」という研究誌がありますが、その2005年2月号で、無作為に抽出した20~40才台を中心にした1000人に「趣味・嗜好と酒の選択」についてアンケート調査をしています。その調査の中の「種類別飲酒頻度」を見ると清酒34%に対し焼酎44%と圧倒的な差、ところが「もっとも好きな酒」という問いに対しては清酒17%に対し焼酎11%という逆転現象がおきます。二つの問いを対比してみると価格という面もありますがブームにより追い風を受けている焼酎と逆風の清酒という構図も透けて見えます。
どちらにしても、焼酎ブームも造られたブームのような気がしていましたから来るべきものが来たのかなぁと感じています。
ところが焼酎ブームに陰りが見えているわけですから清酒はその影響でよくなりそうですが、どっこい世の中はそんなに甘くありません。単純に売上で見ることも問題ですが、旭酒造でいうと一月ぐらいから反対に厳しくなって、良い月と悪い月と半分半分の状況です。
やっぱり「夜明け前が一番寒い」というところです。
こういう実際の出荷状況が思わしくないときは旭酒造では犯人探しというか原因探しが始まります。そうすると一番に出てくる仮説は品質に何か問題があるんじゃなかろうかという問いです。「もっと自分に自信を持て」って?持てるわけないじゃありませんか。自分は自分が一番付き合いが長いんですから。
ま、冗談はともかく、品質の再度の見直しを行っています。その意味ではこんな逆風があるほうが良いんだろうと思います。動物だって適度なストレスが生きていくためには必要といいますから。
(注)熊本県が吟醸酒の発祥の地といわれ、明治年間に福岡県が全国で第三位の清酒産出県だったことからも分かるように、九州北部でさえつい最近まで日本酒の消費量が焼酎を越えていました。昭和50年代になって始めて九州北部も含めて以北の日本人は焼酎に本格的に出会ったといえます。
これは焼酎にとって、飲んだ場合の弊害のマイナスイメージもないわけですからある意味有利な条件ともなったと思います。たとえば飲酒の弊害を説くとき「日本酒○合」とは言われますが「焼酎○合」とは言われないとか。飲酒運転の交通事故の犯人の飲酒量を日本酒換算で○合と言うけど決して焼酎には換算しないとか。
父の同級生のお医者さんが大酒飲みでした。もちろんその年代ですから日本酒です。毎晩日本酒を飲んでは醜態を見せるわけです。(一緒に飲んだ限りでは醜態とまでは思わないんですが奥様が厳しすぎたんですかね) ともかくそれを見てお母様から薫陶よろしきをえて育った同じ医者の道に進んだ息子にとって他の酒は良いけど日本酒は大悪だったようです。患者にも「飲むんなら焼酎を。日本酒はいけません」ということになります。
こういうことは仕方の無いことです。人間って感情の生き物ですから。
こんな事がありますから、要は1世代経ってその酒類の持つアルコールの負の部分が見えるまではその民族にとって酒の評価は定まらないと思います。(フランスでもワインは半分まで国内消費量が落ちて社会問題になっているようです) 従ってもう少し焼酎に追い風が吹くと思います。ただ、追い風の吹き方は若干弱くなるでしょうから、個々の焼酎メーカーにとっては、当たり前のことですが、優勝劣敗がこれからは厳しく問われるでしょうけど。
(心配)
ちょっと心配なことに遭遇しました。ある店で獺祭を頼んだらかっこいい甕に入れてサーブされました。飲んだら超苦い!!!「うちの酒、こんなにひどかったら絶対売れないよな」 瞬間、めちゃくちゃ落ち込みました。
だけど良く見てみると容器に染み込んでいる焼酎の味なんです。陶器ですから少々洗っても目に染み込んでいて取り去るのは不可能なんだと思います。
少しこういう味覚に対する繊細さを我々は捨ててしまってるんでしょうか。