前回のメルマガで超妙齢の女性(つまりオバサマ)が言いたかったのは「日本酒はあくまで日本酒らしく、ワインみたいな日本酒を造ってもワインに勝てませんよ」「やるなら小手先勝負じゃなしに本道で勝負してよ」ということだったろうと思います。

それを「あなた、このワイン酵母のお酒って本当に2000円のワインより美味しいの?」という価格価値の問題で言われたんだろうと思います。

これは本当に私たちにとってもショックな言葉でこれ以後「話題性」や「物語性」「非日常性」で酒を売ろうとするのを極力避け、自分たちの信じる酒を世に問うことにより製品を売ろうとするようになりました。

もっとも、「物語性」や「非日常性」で売ろうとする勢力は相変わらず大勢を占めていて、弊社に届くF総研などの経営コンサルタントのDMを見てもこのあたりを切り口に酒蔵の指導をしているようです。

経営コンサルタントといえば大御所、大前研一が、近著「日本の真実」の中でも、「経営学の常識を覆す不可解な国内需要」と題して焼酎ブームの不思議についてふれていますが、彼に言わせれば、焼酎メーカーが戦略として打ち出した、「非日常性」と「物語性」が日本人の弱いところをついて成功したと分析しています。

焼酎がすべてそれで売ったとは思いません。実力で売った焼酎も多かったと思います。また、「物語性」が必ずしも悪いとは思いません。しかし商品が物語を帯びるときというのは、それはもっと「スケールのでかい」「なるべくしてならざるを得なかった」話にしてはじめて許されることじゃないかと思います。

たとえばワインで有名なムートンは、オーナーがユダヤ人のロスチャイルド家ですから第一次大戦前の当時のフランス社会で嫌われて、どうしても格付け一等に上がれない。それをフィリップ男爵があらゆる努力をして格付け一等を獲得する。そのときの言葉が「われ一等たり。されどムートンは変わらず」

このぐらいの物語が始めて物語なんだと思います。200年たったら旭酒造もこのぐらいのことは言いたいですね。


▼発泡にごり酒

ところで前の話とともに、私が如何に女性の一言に影響されるかという話をひとつ。

ある日、弊社に一本の電話が若い(?)女性から入ってきました。それは「もう発泡酒を造るのはやめたのか?」というものでした。最初は「キリンやサッポロじゃあるまいし、何でうちが発泡酒を造らなきゃなんないんだ」と思ったものですが、よく聞いてみると「にごり酒」のことです。つまり生の「にごり酒」が通常持つ炭酸ガスのことを「発泡酒」と称していたのです。

それまで私どもにとって、ともすれば「にごり酒」が自然に持つ炭酸ガスは「開栓時に噴出」して「ジュータンを汚したり」「こぼれた酒を人間でなく家の猫が飲んで酔っ払ったり」とかく邪魔者でした。なるべく炭酸ガスがおとなしくなるよう苦労していました。

しかし、このころから発泡するにごり酒の魅力に目覚めた私たちは積極的にビン内二次醗酵が作る炭酸ガスを残す方向に変わり始めました。

ただ、注意書きをつけ、代え栓をつけて注意を喚起しましたが相変わらず噴出事故は続き、とうとう名称もはっきり発泡と謳って「発泡にごり酒」としました。

そんな私たちにとって「鬼っこ」のような存在でありながらもなんともかわいい「発泡にごり酒」ですが最近評価していただけるところもぽつぽつ出てきました。

オレンジページムックから今月7月12日に出版された「心地いい暮らしがしたい・特別版」を見ていたら、なんと発泡にごり酒が特集されているじゃありませんか。

夏こそ本番「発泡にごり酒」だそうです。

オレンジページといえば「暮らしを楽しむ魅力的な30代から上の女性」が読む本のイメージがあります。(やっぱり良い女にはわかるんだなあー。獺祭の発泡にごり酒を飲むのは良い女しかいないもんなぁー。うん。)(こら!!)

とにかくこれを読んでいる「良い女」と思われる女性はぜひ本屋で手にとって見てください。男性はぜひ奥様か○○に買ってあげてはいかがでしょう。

今回のメルマガのテーマは「身びいき」です。