今年の蔵元日記はかっこよく八カ国目のドバイに輸出したという話から始まりましたが、最初の頃は恥ずかしい話が一杯ありました。(今もそんな恥ずかしい話は順調に増えてますけど・・・・)
と、言うわけで、海外恥かき日記をひとつ。以下は書くのは書いたんですが実際には配信せずお蔵入りしていた三年前の香港での私の話です。
「わっかんねぇよ!!そんなに早口でしゃべったって!!もっとゆっくり話しなよ!!」日頃天然山口弁の私が何で江戸っ子みたいな話し方をしてるかって言うと、相手の中国人の広東語と英語の猛烈な早口のチャンポンに対抗していなすのになんとなくふさわしい気がするんですよね。尤も、自慢じゃないけど、これでも大学の4年間英語の成績が不可・不可・不可・可で4年もかけて英語の単位をとった学歴(?)を持つ私は、たとえ相手がゆっくり話してくれても分るわけ無いんですが。
とりあえず、相手も「この日本人は中国語も英語もわかんないんだな」と気がついて、英国人がよくやるような「ア、ハーン!」という鼻にかかるため息とともに私にわかりやすいように単語の羅列に変えてくれる。
何で、ここで、広東語と英語のチャンポンに対決しなくちゃいけないかというと、香港に来ているんです。「獺祭」が香港で売れるかどうか小当たりに当ってみようと言うわけです。
初めての香港、それを聞いてコリャ危ないと思った娘から「お父さん、空港からホテルまでは旅行社差し回しのハイヤーで往復したほうが良いよ。地理分んないでしょ。タクシーだってかなりかかるし、ぼられても困るでしょ。」とありがたいご提案をいただきました。
出張の割引航空券やホテルのチケットをいつも取ってもらう○○旅行に航空券とホテルのほかに追加で頼んだら、これも心配になったうちの会社担当のM君がチケットを届けてきて「社長、いいですか、このワッペンを胸に貼って、通関を済まして皆について行けば出口に出ますから、そこにこうやって(両腕を差し上げながら)「MRサクライ」と書いたボードを持ってドライバーが待っていますから、その車に乗ってください。もしいないからといって、決して自分で探すような事しちゃ駄目ですよ。ますますわかんなくなりますから。帰りはホテルの正面で待っていたらピックアップしてくれますからね。」と懇切丁寧にレクチャーつきで手渡してくれました。
実を言うとこれがトラブルの始まりだったんです。ええかっこしいの私は、勿論、ワッペンを胸につけるなんてしません。手に持って相手に分るようにかざして出ることにしました。
ところが出口にたどり着いた私を待っているはずのドライバーはいない。いるのはツァーの添乗員や他の旅行社の係員ばかり。待てど暮らせどこない。よく見ると香港空港は出口がAとBの二つあるんですよ。「二つあるということは二つの出口にドライバーともう一人係りの人がいるんじゃなくて一人のドライバーが両方を行ったりきたりして探してくれるんだろう。だから時間がかかるんだ。もう少し待ってみよう。」なんて考えていたんですが、それでもこない。そのうち動いちゃいけないという禁を破ってあの広い香港空港の中をA出口から反対側のB出口まで行ってみてもそれらしき人物はいない。そのうち、こりゃもう一つ先の車に乗る出口かと思い「旅行社専車」と書いてある外まで出てみるがそこにもいない。
これ簡単そうに書いてますが、荷物は段々重くなるし大変でした。
ここにいたって事の重大性に気付いた私は、いまさらのようにワッペンを胸に貼って待つんですが、やっぱり誰も声をかけてこない。「こりゃ、動いちゃいけないという禁を破って、動いたから、その間にすれ違いになって、帰っちゃったのかなあ。きっと、ドライバーは「メイ・ファーズ」の中国人ドライバーだろうからありそうだよなぁ。」なんて不安になっていきます。
とうとう、一時間たって、とにかく旅行社の現地事務所に電話してみようと決心した私は、やっとの思いで通貨交換所を探し出し、その焦りのわりに「きっと小銭よりこの方が安いだろう」とせこさも発揮して香港ドルと一緒にテレフォンカードもそこで購入して、いざ、使おうと思ったら日本のテレフォンカードと違って、最初一枚一枚登録がいるようなことが書いてある。またそれが、いくら見てもよく理解できない。
悪戦苦闘しているうちに、ハイヤーチケットの綴りからA4の紙が一枚ひらりと落ちました。
見るとハイヤーチケットをお使いのお客様は必ず目を通してくださいと書いてある。一読してみると、マカオは出口で待っているが、香港は「ホテルトランスポートカウンター」まで自分で行ってチケットを提示しろと書いてある。目を上げると目の前にそのカウンターが。
M君が親切が行き過ぎて間違った説明をしてくれたらしく、それを頭から信じて説明書もまったく読まないこちらも非が会ったんですが、とにかく手違いで会えなかったんでもなんでもない、当方がその目の前のデスクに行かなかっただけのことなんです。
だけど、カウンターの係員は一時間も遅れて到着した私に疑問を感じて冒頭の早口の広東語と英語のチャンポンになったわけです。で、さらに私の冒頭の返事です。
熱いのと何よりストレス(日頃偉そうなこと言っててもこの程度でカリカリ来るようじゃ人間が小さな証拠ですね)からどうしても言葉も乱暴になる。しかも、この態度のでっかいオッサンは日本語しかしゃべらない。(当たり前です。日本語しかしゃべれないんですから。)
だけど、この「でかい態度」が一応は功を奏して(奏してないかもしれませんが)係員が別の車を準備して一時間半遅れでホテルまで送ってくれました。
ところで、この私の恥ずかしい体験から言えるのは、香港に行くならエアポートエクスプレスが空港からすぐ出てますし、何より連絡の地下鉄も分りやすくて便利です。第一、自分の運命は自分で握っていると言う安心感があります。最初にガイドブックをよく読んで、安全な地域なら時間に余裕を持って、公共機関と自分の足を使って自分で移動するほうが安心です。と、言うものです。
(ここまでが三年前に書いた蔵元日記です)
と、言うような、恥ずかしい香港到着譚があって、さらにこの後無謀にもめぼしをつけていた現地の販売代理店候補のバイヤーの秘書(もちろんバイヤーも秘書も香港人)に変な片言の英語交じりの日本語(!!!)で電話をかけてアポを取り付けるなんぞという離れ業というか先方にとっては本当に迷惑な一幕もあって・・・。
しかも、やっと会ったバイヤーからは二回目の訪問時に「このお酒の酒質は香港の市場に合いませんから、少し変えていただけますか。それとこの「獺祭」という言葉は広東語にはなくて香港人には読めません。これも変える必要があります。」なんて言われて・・・・。
「分かっていただけないんじゃ、仕方ありませんね。せっかくこんなに日本で評判のいい純米吟醸酒を持ってきて、きっと御社の販売の大きな手助けになると確信しておりますが。残念です。」と席を立って帰ってきちゃいました。(自分ながら、偉そうによく言ったもんですよね。)
ま、何とかその後、香港の販売も軌道に乗りましてこのバイヤーとも関係を修復しました。今では笑い話になっていますが、結果がうまく行ってなけりゃ、悔やむでしょうね。 私は。 大体、外見は割り切っているように見えるみたいですが、執念深くて、優柔不断で、その上嫉妬深くて、人が成功しているのを見るとすぐ羨ましがるどうしようもない性格ですから。
ここまで後日談を書いてご理解いただけたでしょうが、この香港編をお蔵入りさせていたのは香港がうまく行きそうになかったからです。やっと、少し日も射してきて蔵から出すことが出来ました。まだまだですが、努力しております。よろしくお願いします。