「なぜ売れる?」えらい刺激的な副題ですが、先月からうちの会社の中で異常な売れ行きを見せる商品がみんなの疑問の種になっていました。その商品とは「獺祭純米吟醸50」の720mlです。平常月の売り上げより数千本多い二倍程度の売り上げが続くんです。
こりゃあ、量販店の店頭に並べるためにブローカーが買ってるんだろうか? それとも、例の「幻の名酒」のようにどっかで怪しげな業者がプレミアムを付けて転売してるんだろうか? 変な形で酒が動いていても困るなぁ。頭の中で警戒警報が鳴り響きます。
取り扱いの酒販店さんたちに聞いてもいろんなところから普通に注文が入ってそれに応えているだけという話。みんな普通の価格で売れて、支払いもきちんと入ってくるとの話。聞けば聞くほどわけが分からなくなりました。
その理由を発見したのは、例によって寺田君。「社長、○○○のメニューに獺祭が入ってますよ!! これじゃないですかねぇ」との報告。早速、調べてみると、確かに入ってます。しかも価格は、通常「獺祭純米吟醸50」が料飲店で普通に付けると考えられる価格より高め。
「なるほど、酒販店の店頭で小売価格で購入して、転送運賃なんかが乗るからこの価格かぁ」と納得しました。どうも、その居酒屋チェーンから「獺祭を使いたい」と指名が入った納入業者がうちに取引を申し込んでも「間に合わない」と断られると踏んで他社の小売店頭から仕入れることを選択したようです。
だけど、今の居酒屋チェーンのスケールに脱帽しました。その店はチェーングループ内の個室スタイルを売り物にする上級バージョン居酒屋で、数千店という規模じゃなしにまだ百店程度の店舗展開と思われるんですが、そこにしてすでにうちの商品が倍売れてしまう。じゃ、本体だったらどのくらい売れるんだろう。
ばらしてしまいますと、その居酒屋の名は「座和民」「和民市場」です。ご存知渡邊美樹氏率いるワタミフードサービスグループ内の上級に位置する居酒屋です。「経営者は夢を持たなければいけない」とはよく言われることですが、渡邊美樹さんはさらに「夢に日付を付けて、計画通り実行し、夢を実現してしまった」という、私なんかに言わせると「参った!!降参!!」という経営者です。そんなチェーンのメニューに選んでいただいたことを素直に喜びたいと思います。
「さすが」と感じたのは小瓶の720ml入りを選択していること。地酒専門居酒屋ならいざ知らず、あまり酒の売れない居酒屋でも少しでも単価の安いことを理由に一升瓶入りを仕入れ、開封してもすぐに売り切れず、すでに酸化して劣化してしまった酒を平気で売っている店が多い中で、少々高く付いても小瓶を選択したワタミの仕入れの見識に感服しました。
企業規模の拡大とか利益追求だけじゃない、ワタミのお客様や社会に対する良心というものを感じますね。ここらあたりに、ワタミの伸びる理由があるんでしょうね。当たり前のことを当たり前に努力するものが成功する。当たり前のことですが、なかなか実行できないことです。
最後に、私の言い訳もひとつ。おそらく先に述べたような変則的な仕入れルートを通っていますから、獺祭純米吟醸50を普通に獺祭取扱店のどこかから仕入れたときにワタミが付けるだろう価格の1.5倍以上の価格が付いています。獺祭より高い北国の某吟醸酒より高い価格がついていますから。しかし、この価格でも決して価格に比べて品質が劣っているだろうとは考えていません。
純米吟醸と純米大吟醸しか造らない旭酒造にとって、この獺祭純米吟醸50は最も低価格に位置する商品で、最もたくさん造っている商品ですから、いわば普通の酒蔵だったら二級に位置する商品です。しかし、「決して価格に品質を妥協させていません」と言い続けています。たとえばこの商品は1250円(税抜き)の価格を付けさせていただいていますが、市中の同価格ラインの製品と比べて優劣を見ていません。同じ50%精白の山田錦を使った純米吟醸や純米大吟醸と比べてどうかということしか見ていません。たとえ対象が2000円以上の価格がついてる純米大吟醸だとしても、それと比べて劣っていれば「なぜ劣っているんだ? 何が原因なんだ? 何か改善するところがあるだろう」と造りを追求してきました。その意味では安心して「座和民」「和民市場」でも楽しんでください。