この前からご案内しておりました「かわうそ寄席」が一昨日の5月3日に無事終わりましたことを報告します。
今回の寄席は反省することが一杯あって、五月とはいえないほど冷え込んだにもかかわらず、車のお迎えをお待ちのお客様の居場所が暖かくなかったり、最後まで残って社員がご案内するはずが指示ミスでみんな帰ってしまっていたり、来場者の人数が飛び入りのお客様の予測違いで大幅に多く、落語に付き物と準備した蕎麦が途中で足りなくなってしまい、急遽代わりのもので我慢していただいたお客様が出るなど、凡ミスが続出しました。
サービス業ではないので気がつかないわけですからこそ、もっと事前に問題点を把握していなければならなかったのです。つい、二回目ということで気が緩んでいました。ご迷惑を掛けたお客様にはこの場を借りてお詫びしますと共に次回の反省点といたします。申し訳ありません。
もちろん、三遊亭鳳楽師匠の噺は見事なものでした。ご満足いただけたろうと、それだけは喜んでいただけたろうと、ちょっとだけ安心しております。
ところで、当日、せっかくの落語の会ですから「おらも一丁、着物を着てやろう」と着物を着ましたら、そのあまりの男振りの良さ(ムムム?????? こういうときは自分の姿は真剣に鏡を見ないようにしています。楽観と都合の良いとこだけ見るようにしていますから)に鳳楽師匠と司会の江口さん(注)から「よく似合ってるねぇ。社長も立って挨拶するんじゃなしに高座に上がって、座布団の上に座ってご挨拶しなさいよ」おだてられました。
なんせ、「何とかもおだてりゃ木に登る」といわれるほどおだてとくすぐりに弱い私は、早速、仰せのとおりに、高座で座ってごあいさつをさせていただきました。ところが、やっぱり勝手が違って、ご挨拶をしたかったことの半分も話せませんでした。
ここで何を話したかったか話させてください。大要こんなところです。
落語の会だから、今回着物で皆様の前に出させていただこうと、実は30年ぶりに着物を作りました。私は着物にあまり良い思い出がなくて、なんとなく不細工なもんだと思っておりました。若いときに着物を作ってもらったことがあります。田舎のことですから、近くで着物の仕立てをしている方に親が頼んでくれました。ところがその頃、着物を体に合わせて仕立てるということは私らのような田舎にはありませんでした。
当時、私は身長は175cmと高いほうでその代わり体重は55kgとガリガリでした。そこに標準体型の縦横比のままで身長だけ合わせた着物を作るんですから、幅が余っちゃってバスタオルを何枚巻いてもなんかおかしい。「これおかしくない?」と聞いても「着物というのはこんなもんだ」と取り付く島がない。もちろん柄もお仕着せで、「これなら一生もん」と言って、あらかじめ先方が決めた生地で有無を言わせない。
そんなもんだと思って、長いこと着物を着ることになんとなく抵抗がありました。だけど、今回、縁あって作っていただいたところは寸法も体型にきちんと合わせてくれて、こちらの素人なりの要望や疑問にも丁寧に教えてくれて、羽織と着物の色もコンビネーションをいくつか見本で見せてくれる、そうすると本当に良いんですね。とにかく「大島だから良いんだ」とか、「結城だから良い」とか、「伝統だから良いんだ」とか、「業界で良いものと評価してきたんだからお前らみたいな素人には分からないだろうが良いんだ」というそんな玄人的な話は一切ないところで新鮮でした。
結局、こげ茶に見えるような濃いグレーの羽織と明るいブルーがかったグレーの着物にしましたが、結構気に入っています。
だから着物も伝統文化だから良いんじゃなしに「かっこいい」から良いという方向に入り込まないと、いくら着物業界が「着物を着よう」と宣伝しても、一部の好事家を除いて誰も着ないし、あちこちで着物業者の倒産がニュースになるんだと思います。
お酒も一緒と思います。いくら伝統産業だからといっても、いくら地元の酒だからといっても、いくら昔どおりの杜氏の技法を伝承した手作りでといっても、優れていなければ生き残る価値がないと思ってここまでやってきました。それも、忘れてはいけないのは普遍的な価値を持つということ。決して一部業界やマニアの間だけのマスターベーションじゃなしに。普通の「物言わぬお客様」こそ大事。
今回の落語も同じことで、ただ伝統芸能だから良いんじゃなしに芸が優れていなければ生き残る価値はない。だからこそ、鳳楽師匠の落語を聴く会を山口の片隅でも開催するんです。優れた噺家なのにほとんどテレビにも出ない。だけどよく聞いてみると本当に良いし、聴く気の無い人にも聞いてもらおうと下世話なところでくすぐることは無いけれど、聴く姿勢がある人に対しては感動させるものを持っている。
まあ、そんな話をご挨拶でしたかったんです。だけど、そんなすばらしい落語だからこそ、もっときちんと設営しなければいけなかったんです。次回から心を入れ替えて設営いたします。これで懲りないように、皆様よろしくお願いします。
(注)山口放送の総務部長(!!)です。偉い人なんですが手弁当で、その上、機材も持参していただいて、しかも手の空いている間はお客様への蕎麦の給仕までしていただくという大変!!!大変!!!お世話になっています。山口県の方は現役のアナウンサー時代にテレビを通してご存知の方も多いんではないでしょうか。毎年、手弁当で蕎麦を売っていただいている原田さんと共にこの会になくてはならない縁の下の力持ちです。