「申し訳ないけど、一時間待っていただいたら間に合いそうです。」 小籠包(ショウロンポウ)で有名な鼎泰豊(ティンタイフォン)の順番待ち客でごった返す店前の通りに着いた私達に、台湾における獺祭のディストリビューターK社のオーナーSさんの伝言。
「一時間かぁ。何しようかなぁ。」 突如思い出しました。「あぁ、あれ、行きましょうよ。あれ。この辺りにマンゴー・アイスのうまい店があるでしょ。」 こんなときでなきゃいけませんからねぇ。いつも、横目で見ながら、通り過ぎていました。いいおっさんが一人で、まさかマンゴー・アイスというわけには行きませんから。
アテンドしてくれてるK社のHさんから「桜井さん良く知ってますねぇ」とお褒めの言葉をいただきながら、かくて、おっさん一人・おっさんなりかけ三人・おねぇさん(年齢不詳、ただし美人)二人とHさんの都合7人のいかにもマンゴー・アイスの似合いそうにない集団は、鼎泰豊の左横の路地を一ブロック歩いたところにあるその店までぞろぞろと歩いていきました。
立ち食いも覚悟していたんですが、幸い空いてて、何とか座ることができました。とはいっても狭くて硬いプラスチックのベンチに肩をすり合わせながら三人がけ。木とプラスチックが違うぐらいで神田のマツヤ(注)の椅子に座ってるのと変わりない状態。
「皆さん、マンゴー・アイスでいいですか」「はぁーい」 Hさんは店の奥に注文しに入っていきました。
しばし待っていた私達の前に運ばれてきたのは・・・・・日本だったら定食屋のカレーライスが盛ってありそうな大きさの皿にこんもり盛り上がった氷の山。その山の全幅を覆うように載せられたマンゴー、頂上にはこれも直径5cmぐらいのアイスクリーム。見るからに戦意を喪失させる代物です。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと、こんなもの一人で一つづつ食べられるわけないでしょ。何個頼んだの。」「ハイ、6個頼みました」「それで、あなたのは」「ハイ、私はちょっと」「そりゃ、ないだろう、Hさん。僕達も二人で一個ぐらいでいいよ。」 福島の酒蔵Tさんからあまりの巨大さに泣きが入りました。もちろんそれにうなづくみんな。
結局何とかキャンセルが二つできましたので、都合4個を6人で食べることになりました。Hさんはというと「僕、この前、胃潰瘍やりましたので食べられません」と無情な返事。まるで大学の学食のカレーライスのカレーとライスを混ぜ合わせるようにスプーンをアイスに突き刺してかき混ぜるTさんを目の前にしながら恐る恐る食べ始めました。
「だけど・・、美味しい・・!! これって」 最初に感嘆の声をあげたのはフードコーディネーターのFさん。「うん、確かに美味しいね」さっきまで半分逃げ腰だったTさんもうなずいてる。
だけど、どんなに美味しかろうと暴力的なほど量の多い現実は変わりません。隣を見れば一つの皿を挟んで台湾人のカップルが食べています。日本人よりはるかに大食家の彼らが二人で一皿で十分なんですから、われわれの試みが如何に無謀かわかろうというものです。
結局かなりの量を残してギブアップした私達の中で、唯一完食した山形の酒蔵Sさんは、哀れ、その後行った鼎泰豊の小籠包を前にほとんど手をつけられず青い顔をしてうなっていました。
私? 私はグループ最年長の特権を生かして三分の一ぐらいしか手をつけず、後はみんなに押し付けて、奇跡のように薄い皮に包まれた鼎泰豊の小籠包も最後の紫芋の餡入りまで全種類、ついでにウコッケイのスープも美味しくいただきました。
この事件の後、私達の間では「マンゴー」というとなんとなく罰ゲームのごとき扱われ方をされ始めたのです。だけど美味しいですよ。一度は是非