前回、蔵を見に来た方の中にうちのやり方に抵抗を感じる方がいる(特にプロ)とお話しましたが、おそらく一番大きな反発は「伝統的な手法を踏襲しない」ことにあるんじゃないかと思います。
たとえば、一番驚かれることは、製造石数から換算すれば信じられないほど貯蔵タンクの少ないことです。
通常、杜氏と蔵人により冬の間に寒造りで仕込まれた酒は、いろんな酒の本にあるように、春、杜氏達が帰る直前に摂氏65度以上で低温熱殺菌されタンクに貯蔵されて酒蔵の主人側に引き渡されます。この酒を酒蔵は売り上げに合わせて適当な数量だけそのつどタンクから引き出して(普通は)炭素濾過して瓶詰します。ですから、次の年のそれも新酒の荒さの消えると言われる秋まで貯蔵しなければいけませんから年間製造数量分のタンクが要る計算になります。
ところが、旭酒造では年間製造数量の七分の一程度しか貯蔵タンクがありません。ここで、前回お話したような若い蔵人の方たちの中には、「うちの杜氏(尊敬する)のやり方と違う」と反発する人が時々いるようです。だからその酒蔵の社長の推薦なしではお見せすることを躊躇するんです。
話を変えて、全国の酒蔵が金賞をとることに血道を上げる鑑評会。その出品酒はどういう貯蔵過程を経て出品されるのでしょう。
しぼられた吟醸酒は20リットルの斗ビンに詰められ、杜氏さんや蔵元が一つ一つ個別にチェックしながら、1~2週間掛けてオリ引きといって搾った酒の中に残る不純物を沈殿させて上澄みだけを別の斗ビンに移し変えた後、その上澄みは熟成過程に入ります。この過程は熟成による味の丸みや香りの華が開くことを促進させると共に、行き過ぎると「生老ね」(なまひね)と言ういやな香りを出しますからそれを出さないように細心の注意を払って1~3週間熟成管理をされます。その後、炭素濾過などはせず(濾過しなければいけないということ自体が出品酒の場合は失敗作とみなされますから)、冷酒のまま瓶詰され、瓶燗方式で熱殺菌され、即座に冷やされます。その後、瓶燗で狂った味と香りのバランスをもう一度1週間程度、通常は冷蔵庫で、取り直した後、コンテストに出品されます。(普通の酒は熱交換器で熱酒にされビンに詰めるホットパック方式が主流で、瓶詰後の急速冷却もされません。この方式が一番コスト的にも有利と思われます)
実は旭酒造の生酒を除く全商品はこの出品酒と同じやり方で熟成され、瓶燗方式で瓶詰され、急速冷却され、冷蔵貯蔵され、出荷されます。ですから、貯蔵タンクが極端に少ないんです。(また、ここに旭酒造に「冷やおろし」商品が無い理由があるんです。販売上は痛いなぁ・・・)
ま、鑑評会のやり方やその金賞酒の酒質にいろいろ批判があるのは存じてますが、今のところこのやり方が、もっとも良い酒を提供できる最善のやり方と信じています。つまり、特別な酒を造るときだけに使う手法を、「良いものなら全てに」使っているんです。
これ以外にも、たとえば、話題の米など使わず、山田錦しか使いません。「磨き二割三分」に代表されるように50%以下の精米歩合の米しか使いません(ある酔った飲食店さんや業界紙の編集長からは「だからお前のところは云々~。大向こう受けすることばかりして」と噛み付かれたこともありますが)。通常は蔵人3~4人程度で造る数量の1千石ちょっとの酒を10人の製造スタッフが付きっきりで造ります。日本初と言われる機械設備もいくつか蔵の中にあるようになりました。実は、顧問税理士から「原価のかけすぎ」「人件費の掛けすぎ」「過大設備投資」「つまりお前のところはロング倒産状態」など等の指摘を受けなくなったのはこの数年です。(実際、それがいやで社長就任後の最初の10数年は顧問税理士を置きませんでしたから)
つまり、旭酒造は、「金を掛けなけりゃ良い酒を造れないよ」と言う身も蓋も無いストレートな考えを身上としています。
「旭酒造はストレートでなければならない」と考えていますが、そのことが一部には抵抗を感じる方がいるようですね。でも、わたしたちはお客様に最良の酒をお届けする責務を負っていると思います。これからもこの目的のためには摩擦も一般的な酒造りの慣習から外れることも恐れず行くつもりです。