フランスで「獺祭」を卸として扱ってみたいという声が掛かって「こりゃ、とにかく一度会ってみるしかない」とパリに行ってきました。パリだけ5泊の滞在でしたが、いや、フランスって面白い。

(フランス中華思想)

フランス人は国際標準なんて気にしません。最近はどこの国へ行ってもそこそこのホテルに泊まれば高速LANケーブルが入っていて一発でインターネットがつながるんですが、フランスは違います。電話線のモジュラージャックに特殊なコンセントを差し込んでこちらのパソコンをセットし直さなきゃなりません。当然おじさんはそんなことは出来ません。パリにいた5日間はメールにまったくアクセスできませんでした。

(パリのマダムは気合が入ってます)

パリの街角の駐車は仁義なき無法地帯の観を呈しています。モンパルナス駅近くの交差点に珍しくピカピカの赤いシトローエンが停めてありました。(車なんて買ったときと下取りに出すときだけ磨きゃいいんだとパリジャンは思ってるんじゃないかと思うほど埃だらけの車が多いんです)  しかも、駐車違反のステッカーがはってあります。

傍のカフェでちびちびと生ビールを飲みながら見ていると(これがおいしくありません。パリのビールは概して渋い、苦味が足りない、ビールに美味しさを求めてないんでしょうか)40過ぎぐらいのマダムがしゃなりしゃなりとやって来ました。周囲をチラッと見渡した後、ヒョイとチケットを摘み上げるとクシャクシャと丸めて道端にポイ。そのまま車に乗り込むなり逆方向の割り込みへの抗議のクラクションも物ともせず強引に発進して去って行きました。

(車の運転は度胸が要ります)

パリジャンは小さい車を好むようで、日本で言えば軽ぐらいの大きさの車がほとんどです。その車が結構なスピードでかっとんで行きます。その上少しでも隙間があれば平気で割り込んできます。言えば、バイクのない台北の町の運転と思っていただければいいと思います。(つまり、無法地帯ということ)ガイドブックにレンタカーで走るフランスも楽しいなんて書いてありましたが、とてもじゃないけどやめたほうがいいというのが感想です。

(フランス人はスリム)

「その小さな車に良く入るなぁ」というほど背の高いフランス人が多いんですが、概してスリムです。太ってるのはたいていアメリカ人なんかの観光客です。ところが彼らの食べる量たるやものすごい量です。16歳の頃のシルヴィ・バルタンみたいな少女が(古いねぇ)30センチはあろうかという皿一杯のステーキを平気で平らげていました。

なぜ太らないかというのが不思議なんですが、おそらく伝統的な食習慣を捨てていないのが一つの要因ではないでしょうか。たとえば、ファーストフードの店舗はパリでまったく見ません。また食事時以外にジャンクフードなどを食べるという習慣もないようです。

ちなみに私はその少女と出会ったカフェで、まったくチンプンカンプンのメニューと格闘の結果、”ワンプラット”15ユーロなりという文字が目に入って「これなら一皿の定食ものだろう」とグラスワインの赤と共に頼みました。

やってきた料理はジャガイモとにんじんのクリーム煮の上に酢漬けの鰊ののった一皿でした。それと山盛りのフランスパン。「味は良いけどこれで15ユーロは高いな」と思いながらそれを平らげた私の前に現れたのは・・・・・大人の拳ほどもある子牛のすね肉の煮込み、しかも付け合せにそれよりさらに高くそびえるマッシュポテトの山・・・・・ナイフで切るまでもなくほろほろと崩れるすね肉は美味いけどなんとも量が多い・・・・・半分食べてギブアップした私の前にさらに現れたのは直径10センチはあろうかという容器に一杯に盛られたチョコレートムース。いや、私なんかこんなものを一ヶ月も食べた日にゃ一発で糖尿病が悪化して担当の井上先生から「もう、アルコールは禁止」なんて宣告を受けそうな代物です。

(フランスは美味しい)

ほんとに美味しいです。最初の朝ホテルの朝食のハムを口に入れた途端「これは他の国と違うんだ」とよく分かりました。その後も外れたのはベトナム人経営のすし屋で食べたときだけ。それだってこれがロンドンだったら水準以上。

ハイライトは、着いた翌々日に招待されたミシュランの星付きのレストラン。こちらが酒蔵だと知らせて予約してあったらしく、レストランが気を使って純米大吟醸にあう一皿をサービスしてくれました。ピザ生地の上に薄くわさびを塗ってその上にマグロを敷いた一品でしたが、口に入れると不思議な甘さがある、よく見るとピザの間にジャムが挟んである。不思議な取り合わせなんですが見事に調和して・・・・・ちょっとない経験をしました。他の料理も美味しくて・・・・・もう、満足。

(和食店も美味しい)

中国や韓国の経営者の和食店は「これはちょっと」という店も多いみたいですが「眉山」とか「衣川」とかここぞという店は流石に美味しいです。おそらく他の国の和食店と比べてもトップランクです。実は「花輪」という店がちょうどパリにいたときオープンしまして輝く第一号の客になってしまいました。ここも美味しい。もちろん価格もそれなりではあるんですが。

(そのわりにワインは)

ところがワインはそれほどピンと来ませんでした。流石に前述の星付きのレストランで出てきたワインは見事でしたけど、普通に黙ってグラスワインを頼むとあまりたいしたものは出てきません。(当たり前ですか?)乏しい経験なんであまり断定的なことは言い難いんですが、どうも蒸れ香のするワインが多くて発酵がうまく行かなかったんじゃないかなぁという感じです。日本酒でいえばパックの低価格酒の少しグレードの上のやつぐらいというところでしょうか。当たり前のことですが、フランス人も普通に飲むワインはたいしたものは飲んでないということですかね。

(で、日本酒は売れそうか)

市場は狭いと思いますが有望な市場に感じました。ただ、本醸造や純米クラスを持ち込んだんじゃワインの中に埋没しますから勝負にならないと思います。出すなら純米大吟醸。フランス人が「おぉ!!」という酒を出さないと市場は開けそうにありません。当然価格も高くなりますが覚悟していくしかないようです。

それとフランス人は自国のワインにものすごいプライドを持っています。下手にやるとフランスのワインのはるか下のものと同格として扱われます。実際そういう扱いをされている先発の日本酒を見て情けない思いもしました。

フランス料理に合わせて紹興酒まがいに品質を変えたり、欧米に媚びて造りを変えたりする必要はまったくないと思います。今私たちがいいと思っている酒をそのまま持ち込めばいいと思います。そして、まったく違う価値観の上に立脚する酒としてフランスに入っていかないと、「獺祭」の売り上げ云々じゃなくて、フランスにおける日本酒の将来を台無しにしてしまいかねないとも思っています。

どちらにしても覚悟を決めてやらなくちゃいけない市場で、その覚悟がないなら下手に手出しをするべきではない市場と思います。

(蛇足)

カフェのギャルソンが誰かに似ているんです。ちょっといい男なんですが鼻っ柱の強そうな、一緒に酒飲むとちょっとおっかないけど面白そうな・・・・・思い出しました、広島の「美和桜」の坂田社長。なんか一人でおかしくなって、見るところチップの相場は0.5~6ユーロぐらいのようですが、知り合いに良く似ていることのご祝儀のつもりで、ワイン込みで18ユーロのとこ20ユーロ渡して、「つりは要らない」と日本語!!で見得を切って出てきました。

(本文とまったく無関係な個人的トピックス)

大体お分かりのように個人的に車好きなんですが、なんと今月発売の新潮社の車雑誌の「ENGINE」六月号にアメリカでの酒についての私の談話が載っています。ついでに「カーグラフィック」や「NAVI」の発行する二玄社が和にこだわる雑誌「助六」を発刊したことから編集長の谷山さんやアルファロメオの大御所の鈴木さんとも知り合いになりました。車好きのミーハーとしてはちょっと喜んでいます。