お客様から賞味期限についてお問い合わせがあり、それについての私のお答えです。(一部言葉足らずのところを分かりやすく加筆修正しました)
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○○様、お問い合わせありがとうございます。まず、これはあくまで旭酒造の見解であることをご理解ください。
良い日本酒に一般的に言われるような賞味期限はありません。まず、日本酒はワインや紹興酒と同様、醸造酒に属します。醸造酒は基本的にはどんなに時間がたっても体に害を与える成分にはなりません。時間とともに熟成が進行し(これは見方を変えると劣化になりますが)古酒となって行きます。ワインや紹興酒に賞味期限がないことはご理解いただけると思います。
醸造酒の味と香りは刻々と変化します。どの時点の酒質が優れているかと言うことは個人の味覚と、もしかすると価値観の領域に入ります。
従いまして、旭酒造としては出荷してすぐ(できますれば一ヶ月以内)が一番私どもの意図した酒質であり美味しいと思いますが、お客様や飲食店のなかにはもっと熟成させたほうが良いんだと言う方もおられ、それはそれで皆様の個別の判断にお任せしているのが現状です。
取扱店にはお取り扱いの開始時期に「出荷したてのほうが獺祭らしい酒質」と説明しておりますが、前述のようなご意見とともに実際には長期間在庫されているところもあります。また、飲食店ですともっとお店の意思が反映した貯蔵期間となります。折に触れて獺祭らしい酒質という事の再確認としてのご説明はしますが、最終的にはお店の判断にお任せしております。
また、厳密に言うと、「獺祭らしい」ということと、「品質が優れている」ということは必ずしも完璧に一致しているとは言い切れません。少なくとも強制することはできないと考えています。つまり、個人の味覚と価値観の領域であるという事はほかの異なる意見を否定することはできないと言うことです。
そのような前提で「獺祭」が5度以下で光の当たらない冷暗所に保存された場合、3ヶ月以内でしたらおおむね私どもの意図した酒質であると考えられます。また、一年以内ですと、通常の一般的な純米大吟醸の熟度のレベルにあると思われます。それ以上になりますと、古酒化してきますので爽やかさという面では期待できないと思いますが、熟成することによる面白さは出てくると思います。
以上のようなことで、スパッと割り切って説明できないことをお許しください。基本的に酒はその国や個人の食文化と密接に結びついているところがあり、どれが正しいと言えないものなのでこのようなお答えになります。よろしくお願いします。
最後に、あくまでこれは一定レベル以上のものに限った意見ということをご理解ください。ワインもテーブルワインクラスで通常、熟成は求めません。スーパーなどで一山いくらで大量陳列されている紙パック入りの日本酒の場合も一般的な意味では熟成は無意味と思います。ですからこのあたりの商品は新しければ新しいほどいいと思います。
(ここからは本文ではありません。熟成酒に対する私見です)
実はヴィンテージを貴ぶワイン的な感覚や最後の章の紙パック酒等の例を拡大解釈して「熟成しなければ良い酒で無い」ような話をする方もいます。私はこの意見にくみしません。しかし、新しいものが絶対良いとも思っていません。あくまで、現状の「獺祭」を見たとき、弊社が出荷しているタイミングの酒の状態の方が「より私の理想とするお酒に近い」と考えているからにすぎません。
実際には蔵内で、20年に渡り純米大吟醸の貯蔵テストを続けています。しかし、貯蔵期間を正当化するような品質が現状ではまだ得られていません。たとえば20年貯蔵し続けている純米吟醸古酒がありますが、これは三年古酒とブレンドすることにより、やっと「獺祭が出す古酒」と言える品質になっています。(つまり「年月」より「技術」という結果になっています)
一部からは、「もったいない」「このままブレンドせず、20年古酒をうたって、売り出せばもっと高く売れるのに」という意見もありますが、残念ながらどうもしっくりせず、ブレンドしてただの古酒として出しています。
結局、旭酒造にとって大事なのは、「熟成」でも「新しさ」でもなく、美味しさなのです。