何をいまさらという表題ですが、ちょっと深刻です。中でも、最近顕著なのは飲食店の売り上げにおける日本酒のシェア減です。前にも書きましたが、業界に詳しい方の意見をまとめると今の都内飲食店における日本酒のシェアは6%以下に過ぎないという観測です。特に都内の飲食店というのは全国に対するショールーム効果もありますから、これは大きな問題になってきています。
実はミシュランの星が付くとか付かないとかの超高級和食店から超大衆的(?)な店まで押しなべて日本酒が相手にされてない現実があります。
以前、うちの常務がブログに書いております「アメリカで日本酒の魅力に目覚めたアメリカ人が日本に来るとかなりの割合で日本酒は自分たちの考えていたよりつまらないものだという印象を抱えて帰ってくる」という話があります。ちょっと、カリカチュア化していますが、いえば、こんな感じじゃないでしょうか?
まず、日本酒を飲むために日本に来るぐらいですからお金に不自由はしていないでしょう。まず銀座の超有名なすし屋さんに行きます。さすがお寿司は見事なものでした。でも、お酒は・・・・? とても寿司に対抗するグレードのものではありません。でも聞くと、「うちはすし屋ですから、寿司の邪魔をしない酒を置いています」とつれない返事。
気を取り直して、翌日は京都の高名な和食店に行きます。このお店は大事なお客さんには主人自ら自分の料理に合うワインを選ぶそうです。ワインの品揃えは自信があるようで、ワインの説明はしてもらえても日本酒の説明はしてもらえません。周囲を見渡してもお刺身にワインを合わせて楽しんでいる日本人の姿ばかりなのを見ると、それが正しい今の姿かと思ってしまいます。
次の日はまた東京に帰って、もっと大衆的な普通の居酒屋に行きました。周囲の日本人客はお刺身ととりあえずのビールのあとはチューハイや焼酎のロックという蒸留酒を楽しんでいます。やっぱり、日本酒を飲んでいるお客さんはいません。やっとの思いで特別メニューに見つけたニューヨークでもよく飲んでいた銘柄を頼むと、「品切れです」という無情な返事。
それでも頼んだ他の日本酒は枡の中にグラスが入っていて、しかもそのグラスの酒は枡の中にこぼれています。おかげで連れの女性のスカートはホテルに帰ってクリーニングを頼む羽目になりました。
後で日本人の知り合いに聞くと、「注ぎこぼしは男のロマン」なんだそうです。でも、何がロマンなのか分かりません。第一、どこまでが正規の一杯の量で、どこからはサービスか分かりません。それに一合ってメニューに書いてあるけどこぼさなければとても180mlには見えない。
これってダブルスタンダードじゃないの?
とにかく、三日間の経験で懲りた「ガイジン」の彼は次はちゃんと調査して、地酒がそろっているといわれる「地酒居酒屋」に行くことにしました。今度は確かにメニューにたくさん載っていますが多すぎて分かりません。それに、ニューヨークで親しんだ銘柄は余りありません。
でも、期待して飲んでみました。「ん? 美味しい! でも、微妙!?」しかし、周囲の客は「あっ、あそこの杜氏さんが生酛(キモト)を造るとこうなるんだ」「へえー、面白い酸が出ているねぇ」など等、内輪でしか分からない会話を交わしながら楽しそうに飲んでいます。
決して嫌いではなかったんですが、でも彼が好きだった銘柄の評判を聞いてみると、「あんなに有名になってあちこちに出始めたら酒質が落ちたに違いない」と一刀両断。結局、彼が好きだった日本酒は日本では楽しまれていなかったんです。
かくして、彼は日本では彼の信じていた日本酒は陳腐でつまらないものと思われているという感想を抱いて帰国の途に着くわけです。
以上の話は完全な創作で、しかも各業態のお店とも膨らませて書いています。でも、単独のお話は体験したことばかりです。これずらっと並べてみると、問題あるでしょう?
実は、超高級店ではワインとシャンパンに競り負けて相手にされず、大衆店では供給側の酒蔵とか酒販店が「幻」戦略で供給を絞るため実際には物が無く、頼みの綱の地酒こだわり市場はあまりにマニアックすぎるのとこだわりが行き過ぎて一般のお客には入り込めない、という現状があります。これで日本酒が売れたら奇跡のような話です。
◆感謝◆
こんな現状を見るにつけ、「うちの酒って、これだけのお酒がいったいどこに売れてるんだろう?」と不思議になることがあります。「ここに獺祭がある」とメニューで見つけて飲んでくださるお客様、店頭で黙って購入してくださるお客様、もちろん一声かけてくださるお客様、ありがとうございます。
でも、この状態何とかしたい。自分たちの国の生んだ酒を信じることのできない国民は不幸だと思います。皆様、ご支援とご理解よろしくお願いします。