獺祭の発泡にごり酒の小瓶シリーズがすべてシャンパンボトルになりました。「何で日本酒がシャンパンボトルにならなきゃいけないんだ」ということですが、「ガス圧のある酒」ということの認知性の向上が一番の目的です。
生のにごり酒は瓶内に少数ですが、酵母が残っていますから瓶詰め後もシャンパンのように炭酸が生産されます。この爽やかな発泡性は魅力の一つですが、キャップをあけた時に酒が噴出して周囲を汚したり、ガス圧で中栓が飛び出したりする危険があります。
最初は私どもの出荷量も少なく取引先も限定されていましたから「この説明がお客様にできる酒販店だけの限定、その先も理解できるお客様だけへの販売をお願いする」とさせていただいておりました。
しかし、取引先も増え、それと同時にご主人に理解されていても奥様は知らずに販売されていたり、店のスタッフにそこまで一々徹底できなかったり、ギフトでやり取りされる状況も生まれ、お客様に私どもが直接この危険性を告知する必要と義務が、当たり前のことで、生まれてきました。
まず、昔使っていた穴あきキャップの名残でにごり酒は頭に掛け紙がかかっていましたので、そこに開栓の注意書きを印刷しました。しかし、それだと入荷した時点で外してしまう店があったりするので更に中に注意書きつきの封緘シールを付けました。
それでも、見ない人がいるということで更に今度は外側に一瞥したら見えるようすべての瓶に図入りの開栓注意の札を首から下げました。次に、このような白黒の図では分かりにくいとカラー写真の注意札に変えました。さらに先ほどの封緘シールも読まないということで、外栓を開けるときに邪魔になっていやでも見るように「開栓注意」という表示つきシールでキャップの切り口を覆いました。
これでも不完全に思えましたので、漫画サンデーに「ホロ酔い酒房」を連載中の長尾先生に、不用意にキャップをあけておたおたするユーモラスな漫画を書いてもらい、それをすべての発泡にごり酒の瓶に不細工でしたけど輪ゴム止めしました。(とめ方がです。漫画はすばらしい出来で決して不細工ではありません)
と、同時に名称をただの「にごり酒」から「”発泡”にごり酒」に変更しました。発泡する酒だとより認知しやすくしたんですね。それでも不完全でしたので、何で敵性語!?を使わなきゃならないんだと内心抵抗もあったんですが、掛け紙に「スパークリング」の文字を入れました。とにかく、思いつく限りのありとあらゆる手を尽くしました。(ほんとは一番この「スパークリング」の記載が効果がありました。日本人は横文字に弱い!!)
もちろん、その上で取り扱い酒販店様に少しでも「お客様への商品説明で弱いのでは」と疑念を感じるお店には出荷を止めました。(「なぜ注文してるのに出さない」と取引先から怒られる出荷担当者からするとまた社長の横暴と映ったかもしれません)
しかし、これで何とかなったかと言うと、なりませんでした。先日もある女性のお客様から「せっかく吹かないように自分は静かに開栓したのに、店の方が「こんなんじゃ駄目です」とシャカシャカ振ってしまい、噴出させて半分テーブルに飲ませてしまいました。せっかくの獺祭だったのに悲しい(注1)」というお便りをいただきました。
実は、これが大問題でして、なまじっか酒のことを知ってる人が危ない。飲食店の人や日本酒を良く知ってると思ってる人に限って表示を読まずに開けて事故を起こす。表示は一杯付いていますが、「どうせ宣伝だろう。自分はにごり酒のことは良く知ってる」と読まない。
と、いうことで、特に酒をある程度知っている人への発泡性の認知度を上げるという意味で、とうとうシャンパンボトルの導入ということになったんです。それと、機能的にいうと、通常の栓と比べると開けにくいので中栓の飛び出し事故はまず考えられない。また、通常の瓶と比べて液面が低くヘッドスペースが大きいので噴出し防止にかなり効果的。(注2)
ただ、簡単になったんじゃなくて、まず第一に、何で日本酒をシャンパンボトルに入れなきゃなんないんだという心理的抵抗がこちらにありました。
それに、瓶形の変更に合わせてラベル等も変更を指示したんですが、デザイナーが作ってくるデザインはまるでシャンパンか洋酒のよう。「あのねぇ・・・・・。うちはシャンパンや洋酒を造りたいとは思ってないし憧れてもいないんだから・・・・・、日本酒を造りたいと思ってんのに・・・・・、このデザインは駄目!!! 日本人でしょ!!!」なんて一幕もあったりして。とにかく「獺祭」に見えるデザインにこだわりました。
それと、やはり原価アップは頭の痛いところ。当然普通の瓶より高価な瓶代もさることながら特殊なキャップ代、その打栓機、シール代とシール機、それによる瓶詰めライン変更など等、コストアップ要因に困りません。 たとえば、獺祭発泡にごり酒50の720mlで1418円を1680円に上げさせていただきましたがこれでもすべてのコストを吸収しているわけではありません。
(最初にコスト積上げ方式で計算したら妥当な小売価格が2000円を越しました。この件で脅かしたりすかしたりして泣いてもらった業者の皆さん申し訳ありません。私どもも皆さん以上に泣いておりますのでお許しください)
もちろん、この価格変更によるお客様の離反が最も怖いところです。それでも万が一の不幸な事故に備えて「たとえ売り上げが半減してもいいからこの瓶に変更する」と社内に宣言して変更しました。少し皆様の財布に痛い値上げですが、伏してご理解のほどよろしくお願いいたします。
(注1)お知らせのあった和食店、「なんだったら今度行って遠回しに説明しよう」と思って、ネットで調べたらお一人様2万5千円からの表示が!!そんな高い店なら商品知識ぐらい持ってよ。プロでしょ。
それと、振らなくてもキャップを開けてちょっと置いておきますと、空気と触れて酒の温度がある程度上がり勝手に対流を起こして澄んだところとにごり部分が混ざり始めます。また、澄んだところだけ先に飲んでシャープな味わいを楽しみ、そのあとにごり部分のボディのあるところを楽しむという手もあります。
(注2)ところで、ガス圧は液面の広さに分散されます。たとえばあまり冷えてない(炭酸は冷えると収まりますので良く冷やすのが第一条件です)のに不用意に開けてしまったりした時、酒がこぼれない限度で瓶を傾けてできるだけ液面を広く取るとかなり収まります。もちろん、一番良いのは手近なコップか何かに手早く一杯分ぐらい注いでしまうのが一番ベターです。とにかく「冷やす」「振らない」が一番効果ありです。
◆最後に不満◆
実は栓がプラスチックでしかも半透明の白い材質でなんともグレード感が無いんです。日本のマーケットは案外実質的なんですが、海外は見た目勝負のところがあります。
こんな不細工な栓じゃ国辱モノなんでコルクで行きたいところですが、コルクを使うとコルク臭が気になります。ワインなんかでもコルク臭のあるものがありますが、日本酒のような繊細なタイプだとまず100%見えてしまいます。
せめて、プラスチックのままでももう少し良い物がないか探しているんですがなかなかありません。もう少し、あのプラスチックの栓で我慢してやってください。