この10月に入って獺祭の売り上げに異変が発生しています。売り上げ単価が下がっている。 原因を調べてみると、「磨き二割三分」や「三割九分」などの上級酒の伸びと比べて純米大吟醸の「50」という弊社のもっとも低価格の商品が群を抜いて伸びています。この結果として平均単価が下がっているようです。
平均単価が下がるということは、人件費や米代は多く準備しなければならないのに売り上げはそれに比例するほどは伸びないということです。企業としてみた場合、経営的には苦しくなります。
まあ、マスコミで最近騒がれているデフレの波が日本酒の世界にも来たかという事で、「旭酒造よ。お前もか」ということですが、でも、それだけたくさんの方が獺祭の酒を楽しんでくれるということです。これって、ビジネスチャンス!!!(調子よすぎますか?でも、基本的に「お気楽蔵元」の思考形態はいつもこのようになります)
で、考えました。 と、いうことは「磨き二割三分」や「三割九分」用に準備した兵庫山田錦の特上や船形農場の山田錦の特別栽培米も「50」用にまわせるし、精米作業にも余裕が出るということです。
で、結局、何を考えたかというと・・・・・50%精白の精米を「扁平精米」にすること。
「扁平精米」というのは、少し説明しますと、米を玄米の形状に合わせて薄く細長く精米する技術です。
一般に、精米の意義は、米の脂肪やたんぱく質・カリ等の酒を造る上では雑味成分になって面白くない外側の部分を取り去って、真ん中の純粋なでん粉質だけを残して米を磨き上げる事にあります。そして、そのでん粉質以外の外側の部分は玄米の形状のままに周囲にぐるりとあると考えられます。
と、いう事は、効率よく取り去ろうとすれば玄米の形状のままにその割合で外側部分を取り去るのが理論的には正しいということです。しかし、精米機の能力上の問題もあり、従来は仁丹のように球形に精米するのが大勢でしたが、「扁平精米」という精米技術はこのあたりに着目してあの生モトで有名な「大七」が開発した技術です。
残念ながら効果のあるのは50%精白までで、それ以上のたとえば40%精米ぐらいになると、あまりに薄く細くなりすぎて、米の割れる率が高くなって効果が無いようです。(もちろん実験してみました。39%も23%も・なんでもやってみる旭酒造)
でも、50%精白までに関しては本当に効果があります。実は、昨年から麹米の一部にこの技術を導入して効果を実感していました。今年は麹米に関しては全量(つまり使用量の二割程度)、扁平精米にする計画でした。でも、今回の商品別売り上げ伸び率の変化を受けて年明けから50%は全て扁平精米とすることにしました。
もちろん、良い事ばかりではありません。精米にかかる時間がざっと1.5倍になりますから、人件費などは45%精米と同じぐらいの経費になります。それでも当たり前のことですが米代は50%のままですから、原料コスト全体としてみた場合、45%まで磨くよりは安い。原価はより掛かりますが、やってみる価値有りです。
つまり、実質的な精米歩合のアップした純米大吟醸の「50」をお届けできるわけです。これでさらにお客様には進化した獺祭を楽しんでいただけると思います。
日頃「大七のような獺祭は造らない。大七の美味しさは大七に固有のものであって、それを真似していいもんじゃない」と言っているんですが、この精米技術に関しては盗ませていただこうと思います。でも、この技術を開発された、というかこの分野に果敢に挑戦された大七の大田社長には心から敬意を表します。
◆ 余談として◆
大七さんをみていて思うんですが、生モトにこだわってこられたわけですが、本当は美味しい酒を求めて手段として生モトを使ってこられたんだなぁとおもいます。生モトを造ることが目的じゃなくってあくまで大七の求める酒を追及する上で欠かせないものとして生モトを使ってきた。そのあたりが大七の尽きせぬ魅力なんでしょうね。