今年も、2月12日(金)と14日(日)の二日にかけて東京永田町の都市センターホテルで新酒の会を開催させていただきました。あいにくの寒波の襲来で小雪の舞い散る寒い中の開催になりました。しかしそれにもめげず、合計で六百名ものお客様にお出でいただきました。本当に感謝しております。

毎年、この会の挨拶は、少々の摩擦があっても本音の話をするようにしております。以下に挨拶の原稿を掲載させてください。(もちろん、私のことですから、本番では言い忘れたり、横道にそれたり、必ずしもこのとおり全く違わず話しているわけではありませんが)

◆挨拶原稿◆

皆さん、こんばんは。

まず、第一に、このお寒い中この会にご参集いただきましてありがとうございます。通常、こういう会での社長の挨拶は「儀礼的な」「早く飲みたいお客さんのためになるべく短く」というものが一般的です。しかし、私は毎年、そのとき本当に思っていることを、少々の抵抗を感じても、直裁に皆様にお伝えしようとしてきました。一昨年には、あろ
うことか、値上げのお願いまで、この場でしてしまいました。

今年も、二つのお話をさせていただこうと思います。

さて、ご案内のリーフレットにも載せておりますが、この2月末に、新しい酒蔵の第二期工事が完成します。完成後は6千石(一升瓶換算で60万本です)の製造能力を持ちます。山田錦を使った純米大吟醸しか創らない旭酒造ですから大規模化による合理化を求めるのでなく、あくまで、小規模な仕込を積み上げて6千石を醸造する、従来の日本酒の業界から見たとき非常に異端の製造方式の酒蔵です。

純米で大吟醸しか造らない蔵は、私の知る限り、現在日本で一社ですから、異端な製造方式をとることは当たり前のことではありますが。

現在でこそ、前期の販売実績で3170石、今期の販売予想が4000石ですからそんなにとんでもない規模ではありません。しかし、この蔵を計画した当初、まだ1500石足らずでした。私たちにとっては一大事業だったのです。

ただ、私どもはこの蔵を、あくまで道具にしか過ぎないと考えております。たとえば、私どもの蔵の中で、一番中枢的な機能を持つ建物である木造の母屋は240年の歴史を持っております。その各所を見ておりますと、改造が随所に見受けられます。つまり、そのときそのときに、少しでも良い酒にする目的のために、改造されてきたわけです。

同じように、新蔵も、機能が低ければ即座に改造するつもりです。ただ、ただ、私どもは少しでも良いお酒を皆様にお届けしたい。そのためにはなんでもする覚悟です。この新蔵もその一つです。ぜひ、この新蔵を使って醸し出す「獺祭」。期待してください。

そしてもう一つのお話です。私はこの酒蔵を引き継ぎまして24年になります。この間に数量で4倍強。金額で10倍強になりました。30年以上の縮小の続く日本酒市場で、この間の皆様の獺祭へのご愛顧は本当に得がたいありがたいものと感謝しております。

この皆様のご恩に報いるのは少しでも「あぁ、美味しい」と言っていただけるお酒を造ることしかないと考えてきました。その少しでも美味しいお酒をお届けするために、私どもは技術の標準化、つまりマニュアル化を進めてきました。

それは、ともすると、とんでもない低レベルのところで酒造りの心とか伝統の匠の技とかを情緒的なことばかりを標榜し、技術をブラックボックス化することにより自分たちの立場を守ろうとする日本酒業界の製造部門へのアンチテーゼでも有りました。

最初は70%の酒を狙うのがせいぜいのマニュアル化システム化でしたが、現在は、清酒として95%の完成度が狙えるところまで来たと自負しています。

しかし、だからこそ、あと5%を求めて。これは神の領域と思いますが、神業の世界に挑戦しなければならないと考えています。つまり、匠の世界といいますか、私たちが批判してきた個人技を中心とした技の世界へ。ブラックボックス化させずに、日本的な技の世界を旭酒造に持ち込む。今こそ、挑戦しなければいけないと考えております。

どうか、皆さん、私どもの挑戦を見守ってやってください。そして、出来が悪いときのお叱りの言葉、厳しいご批判、お待ちしております。どうかよろしくお願いします。

繰り返しになりますが、本日は本当にありがとうございます。ぜひ、本年の新酒をゆっくりと楽しんでいただければと思います。それではありがとうございました。

◆そして◆

以上のようなことを話しました。実は、誤解も覚悟して話してるんですから当たり前のことですが、短絡的にとられる方もいます。今回でも、売り上げ至上主義に走っているようにとられた方もいますし、「もっと、酒に心をこめなさい」と会場でもお叱りを受けました。なかなか、このような方に説明するのは難しい作業ですが、しかし、常に本音で話す蔵元でありたいと思います。

◆乾杯のご挨拶◆

毎回、乾杯のご挨拶も、酒造組合や卸屋さんなどの業界の人とか、監督官庁の偉い人、政治家の先生とかに背を向けて普通のお客様というかお酒のファンの方にお話しいただいてきました。昨年も、NHKの綱紀粛正委員長をされた、「反骨」と「ド派手な衣装」で鳴る、弁護士の久保利先生に日本酒一ファンとしての乾杯のご挨拶をお願いしたりしました。

今年も、12日は「ボクラノ七日間戦争」などで知られる映画監督の菅原浩志さん、14日は辛口コメントで鳴るジャーナリストの勝谷誠彦さんにお願いしました。どちらも、お二人らしい、獺祭へのエールをいただきました。

菅原さんは映画監督らしく、あたる映画の4要素、「愛」と「生」と「死」とそして「戦い」のすべての要素が「獺祭」にあるとの話から、ご自身自体が今月から映画のプレゼンでハリウッドに乗り込む事と絡めて「獺祭をハリウッド映画に売り込まなければいけない」と力強い応援の言葉をいただきました。

勝谷さんはご自身のブログに私が感想を投稿した話から、「「機械に任せていい部分」が増えれば、逆に「人が関与しなくてはいけない部分」に割ける時間が増える。「機械に任せる」ことは人がズルするためではなく、より一層、人が額に汗する時間を作るためであるという発想なのである。それでもつい「機械に任せる」ことが人にとって楽をするという方に流れがちであるということへの警鐘を、桜井さんはトヨタのケースから汲み取って敏感に反応したのである」と、過分の褒め言葉をいただきました。しかも、まず乾杯。で、お腹に酒が収まったところで以上の話をしていただきました。勝谷さんらしい、型破りですけど気合の入った楽しいご挨拶をいただきました。まさに、主催者冥利に尽きますね。