今回の蔵元日記の小題はえらい刺激的ですが、実はあるブログから写させていただきました。お客様から教えられて、そのブログを拝見したら、この題でした。

内容は、ある百貨店の酒売り場でこのブログの作者が「獺祭は本当は蔵元で造らず、外注という形で他所で造ってもらっているのでは」という話を聞いたというものです。

とうとうここまで来たか・・・・・という感じですね。

以前、ある大学の酒造技術の分野で第一人者と目される先生が「獺祭は麹を自分のところで造っていない」という話を自分のゼミの学生にされていたそうです。これなんかも、「一度ぐらいうちの酒蔵を見に来てから、実態を見たうえで発言してほしいのよね!!」てなもんですが、同じような話ですね。知らない人間が勝手に自分の憶測で話す。

もっとも、この先生はある会合で私とエレベーターで二人だけになりそうになったとき、わざわざ向きを変えて階段で下りられましたから、何か含むものがあったのかもしれません。

でも、まあ、こんな話が出るという事は、ある意味、ありがたい。悪口を言われるという事は、「出る杭」になっているという事ですから。悪口や陰口を言う側より言われる側の方が、絶対的に楽しい。

それと、このブログの作者の名誉のために言いますと、「獺祭」の悪口として書いていたんじゃなくて、「こういう話があった」「味は安定している(中略)蔵元で造ってないから駄目であると安直に結びつけるのも控えたい」という内容です。地酒業界を取り巻く流通・飲食・マニアの方・そして何より酒蔵自身も、こういう大所高所に立った見方ができたら現在の苦境はないのではと思える、バランスの良い見方で書かれています。

でありながら、失礼を省みずこのブログの作者にメールをさし上げました。実は、この話をチャンスに私どもの考え方を少しでもわかっていただきたかったからです。

実はこんな内容をメールいたしました。( )内は分かりやすいように少し加筆したものです。

(前略)さて、「獺祭は本当に蔵元で造られているか否か」ですが、本当に造っております。私たちは「供給を減らして商品を市場において枯渇状態にし、「幻」商品化することにより商品価値を造る(販売を有利にする)」という事をしません。

ですから、既存のお取引先から入ってくる注文に対しては全てお応えするというのが私どもの考え方です。(品切れを起こさないことに対応できる製造計画・設備投資計画をリスクをとって立案することこそ蔵元の仕事と考えてきました)

この考えのもと酒蔵を続けてまいりました。

結果として、純米大吟醸しか造らないにもかかわらず、今期の製造石数は4500石。おそらく純米大吟醸の出荷量としては日本最大と思います。今年度完成いたしました新蔵の製造能力が6500石。すでに次の蔵の設計図も引き始めています。また、今夏に着工いたします精米工場の拡大が完成しますと中国地区でもトップクラスの規模となる予定です。(平均40%まで精米するとして年間4万俵の精米能力)

一部には、大きくなることに対する抵抗があることは確かです。また、同業の方、また関係の先生方が色々話されていますのも耳に届いております。私どもも、そんな評判が気にならないかと言われれば、正直なところ小人としては大いに気にはなりますが・・・・・。

ただ、巷間言われるように、ただ単純に小さければいいかといわれると、違うと考えています。

品質的には、スケールメリットがないが故に起こる経営資金の枯渇から生み出される品質の劣化の方が起こりやすいと考えています。

私どもにとって何より大事なのは「獺祭」の品質であり、一部の噂ではありません。

現在、製造スタッフが17名、瓶詰とか出荷の人員を入れますと40数名。「心をこめる」とか「一生懸命」とか言わなくて良いから、本当に技術を積み上げて結果を出した酒をお客様にお届けしたいと思います。

また、「獺祭」に対し過分な高い評価をいただきましてありがとうございます。(中略)と、同時に、これからもこのような高いご評価がいただける「獺祭」であるよう努力いたします。(後略)

以上のような話です。最後にしつこいようですが、このような「出る杭」という立場に立てることは幸いと感じております。

その上で、、、

先ほどもちょっと触れましたが、地酒の世界は悪口で成り立っているような気がします。誰よりも早く、詳しく、何んとなく本当らしく、悪口を知っている・喋ることが業界の情報通と認められる社会のように感じてきました。(非常に日本的ですね)

そんな中で一部の声の大きな方たちに引っ張られて地酒が矮小化していった。(いえば縮み志向・これも日本的ですね)

これこそが、昭和48年の950万石以来、出荷量が落ち続け、今年は340万石という体たらくに日本酒業界が落ち込んだ原因と思います。よく「大手が品質の悪い酒を造るから」と言う方がいますが、そうではなくて、地酒業界に落ち込みの主原因があると考えています。その証拠に、大手より地酒メーカーの売り上げの低落化がひどい。

私たちから変わらなくては。