南アで開かれたワールドカップ、日頃サッカー音痴の蔵元も結果が気に なります。残念ながら、スペインに負けて三位に終わりましたが、ドイツの安定的な強さが印象的でした。

ドイツのサッカーチームについてスポーツライターの金子達仁さんが、 こんなことを話されていました。「世界大会におけるドイツの強さは、彼らが自分の祖国ドイツと、そしてメルセデス・ベンツがありベートー ベンもワグナーも輩出した祖国と文化に対して絶対的な自信と誇りを持っているから」というものです。

その同じ話で日本代表の話に及んで、「世界で日本の代表が互角に戦うためには大きな問題はメンタルだろう」「世界に対して自分の国に自信を持っていないことが大きな問題」と話していました。

それで思い出すのはあの中田が日本代表に帰ってきて最初の試合で、試合前の国歌斉唱時に胸に手を当てて「君が代」を歌ったこと。あの頃の中田の発言はとがっていて、物議をかもすことが多かったんですが、おそらくそういう事を自らの振る舞いを通してチームメンバーに「勝つためには何が必要か」示したかったんだと思います。

野球のイチローの言動を見ても同じものを感じます。

「自分達の祖国日本を尊敬できないものが世界で勝てるわけない」

同じことを40年ぐらい前に感じたことがあります。フランスの学生チームとオールジャパンのラグビーのテストマッチ。試合前の国歌斉唱時に、 おそらく数百人のフランス人たちの歌う「ラ・マルセイエーズ」に数万人規模の私たちの歌う「君が代」が歌声で圧倒されたこと。

実は、海外に獺祭を輸出するあたり、獺祭のスタイルにこだわるのはそんな気持ちがあります。日本の食の文化に自信を持って、大事にしながら、獺祭を広めていきたい。ですから、海外の嗜好や国内の一部の嗜好に合わせて酒を変えたくない。あくまで日本の酒の本質を追究し、日本の食文化の代表として誇りを持って海外に輸出したいと思います。

近い将来に私たちが中田やイチローから励まされたと同じように世界に出て行こうとする若者に私たちが受けた励ましをお返しすることができたら。いや、是非そうなりたいと考えています。

◇海外ネタその二 モナコ◇

モナコに行ってきました。目的はモナコで「京都―東京 侍から漫画まで」と題して行われた日本展示会に日本酒を協賛する一環です。まだま だモナコに入っている日本酒は数少なく、獺祭もロブション経営の和食店『よし』(モナコ屈指のホテルであるメトロポールホテル内!!) にしか入っていませんから、ビジネスとしては今回の出張がペイするかは、まだまだ将来性にかけてという段階ですが、南仏とパリを絡めて一週間で出張してきました。

モナコというのは人口34000の小さな町に、所得税ゼロという事が成功して、世界の富裕層が国籍を置いており、ビーチを見れば豪華クルーザ ーで満杯。まるでフェラリがカローラ、ベントレーがアコードに見えてしまうような町です。実際、ニースの空港からタクシーでモナコに入る高速道路で私の乗ったタクシー(女性ドライバー)がフェラリの最新型スパイダーを抜いてしまいました!!

そんな町で、モナコ国王アルベール二世・日本から常陸宮も列席されたガラ・ディナーに招待され、翌日は王宮でアルベール二世に私どもの酒を献上するという栄誉に属しました。(行くまでは、「なんで酒をタダ で贈呈するのに嬉しそうに行かなきゃならないんだ」なんて憎まれ口を叩いていたんですが、自分が俗人だという事がよくわかります)

でも、直接お会いした殿下は、日本の今の今上天皇にも一部通じる細かな気配りの中に凛としたものを持ったさすがという人物でした。しかも グレース・ケリー譲りの美男。

実は、その気配りの一環か、お話の中で前日のガラ・ディナーで日本酒のスパークリングとして供された「獺祭発泡にごり酒39」にいたく興味を示していただいて大いに気を良くしました。

◇海外ネタその三 プロヴァンス◇

モナコの次は南仏プロヴァンスのアルルという町にあるシャサニェット という二つ星のレストランをたずねました。ここは「真澄」と「獺祭」を扱ってくれていて、数町歩はありそうな自前の農園(栽培スタッフ4 人)で作っている有機野菜の料理が売り物のレストランです。我が畏友にしてビオ大好き純米酒応援団長・旦那は「ダッサイ蔵元のご挨拶シナリオライター」を自認するY・Mご夫妻なんか大感激して「拍手ダッサ イ」するに違いない店です。

オーナーのミシェルさんは昨年一週間、旭酒造に泊まり込みで日本酒の 研修に来ていました。シェフのアンマンさんの料理も素晴らしい。その日も「獺祭」に合わせてその場で胡瓜のジュースをかけてくれる野菜の冷製の一品・びっくりするほど軽やかな味わいの仔豚のローストなど、うーんとうなる料理の連続。

しかも、ミシェルさんが準備してくれたホテルが素晴らしい。旧家を改造したホテルでローマ時代の名残を残す街中の中心部にあります。 (最近も、世界で二体しかないシーザーの像がアルルの市内で発掘され たそうです。アルルってパリよりはるかに古い町なんですねぇ)

翌日早朝、千年以上の歴史を持つというホテルの周囲を散歩していると、男性の歌う民謡のような哀調を帯びたメロディーに合わせて女性が踊りながら歩いてくる情景に出くわしました。朝帰り(おそらく)のその幸せそうな若いカップルと対照的に古い歴史を誇る街並みの美しさ。ちょっと、一枚の絵のようでした。

さっきの話にも一脈通じますが、彼らが自分達の生まれ育った町と暮らし に誇りを持ち信じているのが姿に見えたようで、うらやましく感じました。

◇海外ネタその四 パリ◇

最後のパリはレストラン情報。良い店ができました。イチローよりも中田よりももっと早く世界で有名になった日本人、ケンゾー・タカダ。 デザイナーの高田賢三氏ですね。彼の専属料理人を長らく務めた中山さんが昨秋パリ市内に開いたレストラン「トヨ」です。

17, Rue Jules Chaplain - 75006 PARIS Tel +33 (0)1 43 54 28 03

今はパリ随一という人もいる二つ星レストランのビガラッドがまだ星無しの頃に感じたような称号はなくても気合の入った力をびりびり感じることのできるフレンチの店です。 あゆみさんというソムリエがいますから、是非、お料理は「獺祭」にはどれが合うか相談してみてください。きっと、素晴らしい感動があると思います。

でも、「獺祭よりこちらが良いですよ」って他の酒を勧められたらどうし よう。

とにかく情けない蔵元の心配はやめて、新しい才能に乾杯。