先月から蔵元日記の更新が遅いなあとお思いの方も多いのではと思います。言い訳をしますと、二月初めにフランスに出張し、帰ってきて前回の蔵元日記でご報告しましたように東京の「獺祭の会」を三日間開催し、すぐその足でドイツに立ちまして三月一日に帰ってまいりました。

その間、例によって、失敗やら面白いことやら色々ありました。少し、ご報告をさせてください。初めのフランスは置いておいて、まず初めて訪問したドイツから。

ドイツ訪問の目的は、白ワインの産地として知られるラインガウで開催された「ラインガウ・ワイン・グルメ・フェスティバル」に参加するためです。今年は日独修好150年ということで始めて日本料理が取り上げられ、徳島の「古今青柳」(東京の方には「虎ノ門青柳」のほうがとおりが良いでしょうか)の小山さんがこのフェスティバルのグランドシェフとして招待されました。(他のドイツやオーストリアの招待シェフだってミシュランの星ぐらいは付いてる様なのばっかり)(オープニングパーティでいくつか味見しましたけど美味かったですよ)

で、私どもはこの「小山さんの、日本料理に合わせるなら、地元の白ワインにも敬意は表すけど、やっぱり日本酒よ」ということで一緒に呼んでいただいたものです。

おかげさまで滞在中の五日間の足は、メインスポンサーがBMWですから最新型の12気筒の7シリーズが運転手付であてがわれました。しかも、この運転手がコックコートを着ているので聞いてみると、、、なんと、、、チェコ・ヒルトンの総料理長!! 彼は「勉強になるから」と無給で云わばパシリを勤めているわけです。わざわざ、自費で、チェコからやってきて。

これをもってしても、このフェスティバルもですが、如何にヨーロッパのレストラン文化の奥が深いかを感じました。日本でこのクラスの料理長になるとそろそろ秘書付で秘書を通さないとアポも取れない人がいるのに。

この主催者側の厚遇に答えて、小山さんも近石さん溝渕さんなど他所なら星つきシェフで通用するスタッフを日本から5人連れて数日前から乗り込んでいて、オープニングパーティ・ガラディナー・翌日の料理講習・ランチと盛りだくさんの催しに出す料理の下拵えを現地スタッフもフルに使ってしていました。当たり前のことですが。聞いてると、ドイツ人スタッフたちにもおかしなことがあると日本人スタッフ同様に怒りとばしながら準備を進めていました。

小山さんにとっても出す料理が成功することが主催者に対する唯一の恩返しですから、わけのわからないドイツ人は怒りとばしても大事な目的の前には当たり前のことなわけです。後述しますが、私も体験しましたが変なのもいるんです。このあたり日本でも一緒ですね。

それで気になるお客様たちの参加費ですが、ガラディナーを例にとりますと一人300ユーロ(日本円で3万5千円位)。そのチケット150人分が発売一週間で売切れてしまい、キャンセル待ちがディナーもランチも席数と同じだけいたそうです。もちろん、この会期中ランチもディナーも連日ドイツ・オーストリア連合の豪華版のシェフ総動員でこれ以外にも、もう少し手の出しやすい価格であるわけですから、その中でこの反響はすごいわけです。

まあ、そんなすごい会に参加したわけですが、こちらはあいも変わらず珍道中で、面白いことがいっぱいありました。

まずパリに入り、ドイツへの移動はカッコよく旅なれた出張者を気取ってパリからTGV(新幹線)で移動することを選択しました。これが大変。途中の駅でなんか分からないけどみんな降り始めた。こちらは訳が分かんないから電車の中で待っていると車掌が来てどうやら「降りろ」と言っている。

とにかく、分からないままに降りて日本人らしき人に声をかけると、マシントラブル!!で電車を乗り換えるらしい。ところが途端にトイレに行きたくなって、、、悩んだんですが、元の列車に戻って用を足した(すいません下ネタで)。気が気じゃありませんでした。だって、もしも、そのまま走り出したらフランスともベルギーともドイツともわからないところに行っちゃうわけですから。(操車場の中で、なぜ自分がここにいるか説明しなくちゃならなくなったらどうしたでしょうね)

まあ、何とか時間内に用を足して無事に迎えの電車に乗り換えました。ところがこれがなんとも嬉しい事にICE(ドイツの新幹線)車両だったんです。ドイツ・フランスは相互乗り入れなんですね。

面白かったのはドイツのICEの車両のほうがトイレも含めてフランスの誇るTGVよりはるかに清潔できれいなんです。さすが世界に冠たるドイツ帝国。ところで、どっちが好きかと言いますと、、、実はフランスのTGVなんです。とにかくICEはシートなんかも解剖学的に正しい形できちっとできていて、すばらしいんですが、なんとなく落ち着かない。

その点TGVは薄汚れていて、シートなんかも小汚いんですが、なんともすわり心地がいい。つまりドイツ製は「素晴らしい機械に対し卑小な自分」という現実を突きつけられるんですが、、、フランス製はそのあたりがルーズで、「いい加減な自分といい加減な機械」みたいな、少々トイレが汚くても「まっ、良いか」と許せるもんがあるんですね。(これで酒蔵にいるときは社員たちに対し「清潔こそ命」みたいなことを言ってるんですから・・・・許せ、みんな)

まぁ、そんなことがあってやっとフランクフルトの駅に着き、そこから会場まで出迎えを断ってタクシーで移動しました。フランクフルトからラインガウまでタクシーですと30分。ところが、思い知りました。ドイツの車の運転社会というのは200キロ出て当たり前。220キロ出ないと追い越し車線は走れないという世界ですから、速いこと速いこと。

フランスのドライバーが飛ばすと思っていましたが、あれは飛ばしているだけ、ドイツのドライバーは「速い」んです。

おかげで一般道も含めて、たった30分弱乗っただけで、85ユーロ。さすがポルシェの国。

まぁ、そんなことでやっと宿泊のホテル(1600年代!に建ったホテルだそうです)にたどり着きました。ところが、主催者の出迎えを断ったおかげでその日の連絡がうまくいかずその晩は自分でレストランを探す破目に。

と言ったってドイツ語が話せるわけじゃ無し、外は氷点下、手じかにホテルのレストランで食べたんですが、これが楽しかったですね。料理も大したこと無いし、ワインも大したこと無い、しかし400年前の建物ですから風情だけはある。まるで「湖畔の宿」みたい。

まぁ、小人物の私には、この位だとリラックスできるんだなぁとしみじみ感じました。

実は、このあたりで紙面がつきました。続きは次号で。