今年のお正月は敗北感で満たされたお正月でした。どうも酒蔵がうまくいってない。(自分では)「輝く」旭酒造と思っているのに、「普通」の酒蔵でしかなかったことが露呈されたからです。

と、いうのは、昨年末の「ほこ×たて」の放映以来、旭酒造らしくない姿が浮かび上がった事です。具体的にはっきり表れたのは、以前から獺祭ファンで旭酒造を支え続けてくださったお客様たちにお酒をちゃんとお届けする事が出来なかった事です。

放映前に社内で徹底していた事があります。それはテレビを見てくる一見のお客様より、今までのお客様を大事にするという事。それさえできれば問題はないと高をくくっていました。しかし、放映と共にそれは吹き飛んでしまい、品切れの嵐と共に、出荷の予定もめちゃくちゃになってしまいました。

タイミングの悪い事に、「磨き二割三分」の品質が私の思うレベルに達していないタンクがありまして出荷にストップをかけました。さらに悪い事に製造では他の問題の無い「二割三分」とすでに合併してしまっており、影響が倍になりました。ここで磨き二割三分の出荷で躓いたことにより、瓶詰スケジュールが狂い、出荷スケジュールも大幅にくるってしまいました。

確かに、前年売り上げをはるかに超えるご発注をいただきましたし、製造で上記のような不運な条件もありましたが、それを言いわけにはできません。

その上、どちらかというと「声の大きなお取引先が優遇され、紳士的な交渉スタイルのお取引先が割を食う」、尤も私が忌避する状態に陥ってしまいました。大体、このような私どもの事情を慮って紳士的に待ってくださる取引先に限って、売れない頃から獺祭を支え続けてくださった大事なお取引先ばかりなんです。と、するとその先の売れない頃から獺祭を買って頂いていたお客さまも割を食っているわけです。

また、「順番」や「公平さ」にこだわるあまり、お酒はあるのに、全部の注文のお酒が揃ってないからと、各酒販店さんの売り場に獺祭が全くないにもかかわらず、全て揃うまで出荷を見送っていたり。旭酒造らしくない官僚的な対応になっていました。製造も「昨日と同じ仕事をしていれば良い」的な、まったく危機管理のできない、まるで「いつかの日本政府」のようになっていたんです。

最初は気がつかずにそのまま流れていたんですが、この事に気がついて、手遅れではありましたが舵を切り替えました。その間、不自由を感じていたお取引先・お客様に対し、本当にお詫び申し上げます。また、100%は完全回復していないわけですから、現状に関してもお詫び申し上げます。

しかし、今回の経緯を基に考えたとき、見えてきたものがあります。

旭酒造は、「できるだけ良い原料(つまり山田錦を)50%以下に精米し、できるだけたくさんの優秀なスタッフを数揃えて(おそらく同条件の酒蔵の倍の製造人員)、手を抜かず造り(純米大吟醸造り)、獺祭の事を分かって頂いているお取引先に販売する(限定された取引先)。ブランド化のために意識して品薄状態を造ることなどせず、また、一部の有名な取引先やコンテストのために特別な酒を造ったりもせず、普通の人が普通に買える獺祭そのものの品質を高める事により、分かって頂ける普通のお客様に購入して頂く」というのがこれまでたどってきた道です。獺祭を飲んで「あぁ、美味しい!!」という「普通」のお客様に支えられてここまで成長させていただきました。

ところが、「ほこ×たて」以降、あまりのブームに舞い上がってしまい、ただのブームに踊る酒蔵になってしまっていました。つまり、正当に自分のお酒に対する努力で成長していく酒蔵でなく、自分の努力以外の「白馬の騎士」(注)に依存し、態度もでかい、鼻持ちならない傲慢な酒蔵になってしまっていたのです。

反省しています。もう一度、旭酒造の原点に立ち返って、少しでも良いお酒をお客様にお届けすることを最大目的に努力します。もう少し混乱は続くかもしれませんが、今一生懸命修正しています。これからもよろしくお願いします。

(注)これは吟醸酒を世に知らしめた一人とされる篠田次郎先生がよく言われていた事ですが、、国税局主催の鑑評会で金賞をとると、「全国の酒屋さんからその酒蔵に注文が殺到する」という現象が一時あり、そのことを夢見て普通の市販酒の品質は省みず金賞をとることだけが目的になるような蔵が出た。甚だしいのは他所から酒を買ってきてそれを出品するような蔵も。つまり現状の自分が変わろうとせず、「白馬の騎士」が、ある日、自社の酒蔵の前に現れて、「酒がどんどん売れて行く」ようになるのを夢見ること。