最近、この蔵元日記のコメントで怒られることが多くて(自業自得?)、、、もちろん、ご賛同いただけることも多く、また批判があるからバランスが取れるのであって、大事なご意見を頂けているわけですからありがたいという事ですが。
と、いうよりも、あえて普通の企業では、思っても表に出さないところまで私どもの本音を書いていますから、抵抗のある方も多いはずです。批判にさらされるのも当たり前ですよね。
ちょっと個人的な話をさせていただきますが、実は、私は父と不仲で、父が存命中はその不興をかっておりまして酒蔵に携わることができなかったのです。亡くした後になって思ったのは、親子であるがゆえに思っていることをお互いにはっきり言わなかったことです。それがさらに不仲を悪化させたと思います。
その結果、不仲のままで父を亡くさざるを得ませんでしたし、また父から見れば息子一人導くことのできなかった男という不名誉なレッテルを抱えたまま旅立たなければいけなかったわけです。
本当に申し訳ない。今でもいろいろな行き違いが思い出され、それでも酒蔵の運営という事に関しては父が間違っていたと思うことは多いのですが、そんなことは全部おいて、父が私を常に心配していてくれたことは確かです。
なぜ、思いというか考えのすべてを話さなかったのだろう。その時はさらに不興を買ったかもしれませんし、理解してくれない方が多かったと思いますが。
そんな経験がありますから、波風が立つことがあっても、人を傷つけることでなければできるだけ本音で話すことが大事と思っています。もちろん、この蔵元日記でも。
という思いで書いてるわけですから、危ない記述も多く、批判にさらされるのは当たり前です。先日の三井ホールで行われたナイトアクアリウムのパーティーに獺祭を出させていただいた話を書きましたが、その蔵元日記のコメントには、「東京重視の姿勢が残念だ」というコメントと「酒屋さんでは獺祭の入荷が少ないと嘆いているのにこういうイベントには出すのか」というコメントを頂きました。
もちろん、「若い人に美味しい日本酒を飲んでもらえば…」と私が思っていることそのままのコメントというかエールもいただきました。感謝しております。しかし、前の二つも心に残りました。
おそらく、このお二方が「こうあるべき」と思われる方向を向かず勝手にどんどん好きな方に行ってるという(それも都会だったり、大きいものの方)という事がコメントの骨子だと思います。
酒蔵として言えば、そんな思いをお客様にさせることに対し誠に申し訳ない気持ちです。しかし、それでも、旭酒造は今の方向を目指さなければいけない、申し訳ないけど、行くしかない。そんな気持ちです。
今から二十数年前、山口県内の市場で完全な負け組で地元の酒屋さんなどにも全く相手にされず、それでも生き残りをかけて東京(と、それが代表する全国市場)に出て行ったわけです。その時、地域の方からは「地元のマーケットを大事にすることがまず大事なのに失敗するにきまっている」「山口の酒が東京で売れるわけがない」とずいぶん言われました。
しかし、二十数年たった今、山口から何軒の酒蔵が全国市場に出て行ってるでしょう?はたして彼らが山口県内の市場だけを見つめてコップの中の争いをしていたら今の姿があったでしょうか?
私は今になって、あの時の選択に対し地元からいろいろ批判・皮肉・揶揄などなどいただきましたが、決して間違っていなかったと思うのです。(それも私に好意的な方たちから。そうでない方にとってその頃の旭酒造は目の前にいても見えないぐらいゴミのような存在でしたから)
そして、もう一つ思うのは、今年の決算で獺祭の出荷量は八千石(一升瓶で80万本)を超えます。純米大吟醸というニッチなマーケットでは前代未聞の数字です。これだけのものすごいご支援をお客様から頂いているのです。
だからこそ、私どもの獺祭には果たすべき使命があると思っています。経営上の金銭的な安全性だけを狙って現状に安穏とするのではなく、日本酒の新しい市場、取り返さなくてはいけない市場に挑戦しなければいけない。
はっきり言えば、世界の市場であり、今はシャンパンやワインにとられている市場であり、若者たちの市場です。酒造組合なんかと意見は異にすることは多いんですが、行かなければいけないと思っています。それはきっと山口で起こったように、日本酒全体に同じことが起こると考えています。
◆追伸◆
阪神の金本選手が引退しました。引退のコメント、感激しましたね。「二・三割の喜び、七・八割の苦しみの野球人生。みじめさに耐えることのほうが多かった」
清原もそう。今の松井だって、イチローだってそう。みじめさに耐えていかなければいけないし、批判に耐えてそれでも自分の理想を追求していかなければいけない。だからこそ、一流なんですね。
彼らの人生を見ていると、本当にまだまだ自分は甘いと思いますよね。獺祭が目指そうとしていることは気に沿わないことも多いと思いますが、お許しください。この果実はきっとお客様にお返しいたします。
(この原稿、ロスのホテルで書いています。昨日までパリ)