今年度の山田錦の昨年春における予約数量は4万3千俵。ところが、入荷した数量、またこれから入ってくるであろう数量は、合わせても予約数量よりはるかに小さく、とても当初製造計画に間に合うものではありません。

理由は、山田錦が今年不作であった事です。頭を抱えております。新蔵も完成し、今年は皆様に品不足のご不便をかけないようにできると考えておりましたのに、今年も全てのご注文には応えきれない見込みです。

「お楽しみはこれからだ」と副題に掲げてこれはないだろうといわれそうですが、もう少し私の話を聞いてください。

今年、完成した二号蔵と一号蔵・本蔵合わせますと2万石の製造能力、その時使用するであろう山田錦の総量は8万俵。今年の入荷数量との間に4万俵以上の差があるわけです。全国の山田錦の総生産量は30万俵程度と考えらますからその1割以上の数字をこれから数年間にかけて買い進んでいかなければいけません。

しかし、山田錦が最も沢山作られていた1990年代は40万俵をはるかに超える数字を生産していました。しかも、その時は兵庫県に栽培が偏っていましたが、今はかなり他県に広がっています。だから実質的に生産可能な能力は45万俵を超えそうです。つまり、いくらでも増産能力はあると踏んでいました。しかも、恒常的な米余りで、日本は困っているわけですから。

ところがそうでもない現実にぶち当たってまいりました。

先日、ある省庁の偉い方が視察で私どもの蔵に来られました。「米が足らなくて酒の生産が間に合わない」という私どもの話を聞いて、「この時代にこんな話があるのか。日本の農業にとっていい話だ」というよろこびの言葉を頂きました。

しかし、数日後、その時、一緒にお付きでこられたその省庁の県事務所の方から、「お話を受けて、早速、内部で諮りましたが、酒造組合や関係機関・生産団体とよく相談しなければいけないという結論に達しました。」というご返事を頂きました。

思わず、「それって何もしないという事ですね」と返してしまいました。電話の向こうでむっとしている相手の雰囲気が伝わってきましたが、我慢できません。

そのあと、もう少し上の方から、それなりに前向きなご返事を頂きましたが、難しいことに変わりはないという内容です。

どうやら、獺祭は、ここまで順調に伸びてきましたが、日本というシステムそのものにぶつかったようです。全体では「売れない」「売れない」と嘆いているのに、末端細部では需要に応えない。だからこそ、全体として売れない。その点を突き破ろうとするとセクショナリズムの厚い壁にぶつかる。

細部の都合を積み上げた結果、みんな分かっている全体の都合と反対に回ってしまう。

しかし、これをぶち破らなければ明日はありません。但し、同業他社に回る山田錦を、数の力を頼んで、こちらにとってしまうなんてことは無意味なんです。これはきれいごとじゃなくて、獺祭を販売する上で他社の顧客を喰うという事と一緒で、一時的には良い目を見る事が出来ても長期的には根本的な問題が解決されませんから、結局、衰退するだけ。

とにかく、山田錦の収量を増やしていかなければどうにもなりません。山田錦は一般の米に対して1.5倍以上の価格の米です。こういう売価の高い米を増産するところにこそ、農家も幸せ、酒蔵も幸せ、もちろんお客さまも幸せになれる道があると考えています。なぜなら「需要があって足らない」わけですから、みんな良いはずです。

誰も不幸にならない、ただセクショナリズムの中にあるいくつかの部門が少しきしむだけ、本当の不幸ではない。しかし、壁は厚そうです。だからこそ、旭酒造にとっても挑戦し甲斐のあるチャレンジです。また、これを読んで自分のところでも山田錦を作ってみようという農家の方がいらっしゃったら声をかけてください。但し、やる限りは10年やるつもりでお願いします。うちも「今年は買うけど来年は・・・」なんて言いません。

「お楽しみはこれからだ」

旭酒造の挑戦を見ていてください。