伏してお願いさせていただきたいと思います。10月から一部商品の価格を改定させていただきたいと思います。対象は50%精白の商品群と遠心分離シリーズです。どちらも、原価割れを起こしていて、他の商品の利益で補てんするという不健康な形になっていたので、それを是正するためです。

実は、昨年の春に価格改定をさせていただこうという事で一昨年の秋から計画しておりました。しかし、一昨年末の私の「ほこ×たて」出演が巻き起こした嵐のような受注増とそれがもたらした供給不足によりその計画を一時棚上げせざるを得なくしました。それでなくても価格改定は値上げ前に仮需要が起こり、品不足になりがちなのに、モノが無いとなると市場に混乱が起こる、という事が懸念されるからです。

しかし、いつまでたっても供給の不足は解消されず、反対にさらに品不足が加速している現状から、価格改定を決心した次第です。

今回の価格改定の中心になる「獺祭純米大吟醸50」についていえばこういう事です。

この「純米大吟醸50」は獺祭ブランドを立ち上げた20数年前の最初から造っている中核的な商品でした。最初は麹米を山田錦、掛米は日本晴という普通の飯米を使い、価格が1.8リットルで2500円でした。しかし、どうも酒質がピンとこなくて、この価格で何とかおさまる米という事で、他の酒造好適米を色々使ってみました。

ある方に紹介されて三等の山田錦に出会ったとき、これだと思ったものです。実は価格だけいえば、五百万石の特等より山田錦の三等のほうが高いのですが、何といっても山田錦です。その価格差を補って余りあると感じました。(あくまで新潟県産と兵庫県産の価格差です。他県産は比較していません)

山田錦同士で比較しても、特に50%以上磨かない限り三等が上位等級と比べて劣るとはほとんど感じない米質でした。(勿論、注意深く精米するという条件付きです)

造りをオール山田にした事で酒のほうの品質も飛躍的に上がり「さすが山田錦」とその威力に驚いたものです。ある有名なカメラマンの方から「獺祭は磨き二割三分は良いけど、純米吟醸クラスは大したことないね」などと評されて、当たっているだけにがっくり来たりしていましたが、そんな言葉も聞かれなくなりました。最近は「おれは獺祭の中では「50」が一番好き」などと言われる方もいるぐらい。(もっとも、この点についてはその後の杜氏から社員だけによる生産体制への改変による効果も大きいと思います)

日本晴の価格と比べれば、たとえ三等といえども山田錦ははるかに高価ですが、オール山田の酒が持つなんとも言えないあの丸みは酒造りをする者として抗し難く、あの魅力を知ってしまうと、何としても自社の酒はああでありたいと、強烈に思ってしまうのです。

ということで、あっちのコストを削り、こっちのコストも削り、さらに「もう少し売り上げが伸びればこのぐらいのスケールメリットが出る」などと、勝手に自分をだまして都合の良い原価計算を駆使して、掛米は山田錦に変わっていきました。

ところが、問題は酒の生産数量がそれで止まればよかったわけですが、そうは問屋がおろしません。当時の旭酒造の全生産量は1000石程度。使用米の総数量も4千俵。結果として「50」用の掛米に充当される三等米も1400俵程度あれば足りたのです。しかし、その後、ご存じのように弊社の出荷量は毎年伸びました。現在は一万石強。つまり全体としては4万俵、「50」用の掛け米も1万4千俵必要という事です。ところが、全国でも山田錦の三等米は大体1万俵程度しかないのではと推測しています。つまり全て山田錦にしてその数年後には三等米についていえば全く足りなくなってしまいました。(これを将来予測の出来ない経営者といいます。反省。)

結果として、その頃から特・一等の山田錦も「50」に使用されることになりました。時には全国の酒蔵垂涎の的の特A山田の特上も。すると価格的に特等でも三等の7000円増しですから、必然的にコスト割れを起こします。特A山田の特上だと怖くて計算する気にもなりません。

その上、「50」はまだまだ伸びることが予想されますので、現在のようにその赤字分を他の商品の利益で補てんする体制は無理があります。その上、最近の私どもの「山田錦が足らない!!」という訴えを聞いてお分かりのように、良い酒を造るためには山田錦がほしい。そのためには農家の「やる気」は不可欠。そういう「やる気」のある農家は山田錦の三等を捨て作りで作る気はありません。彼らは特や特上の山田錦を目指す。反対に、そんな農家としかこれから肩を組んで行けない。(そこにこそ日本の農業の未来がある)

それなら、「50」も特・一等の山田錦で耐えられるコスト構造にしなければいけない。

そんな事で、価格改定は数年前から課題になっておりました。ところが昨年春の価格改定を決心したところで、「ほこ×たて」以降の売り上げ急増による品不足のダッチロールに見舞われ価格改定どころではない状況になってしまいましたが、やっと決心したという次第です。

今回の価格改定は同時期に灘伏見の大手メーカーも値上げを発表しており、それを聞いた時「横並び値上げととられてまずいなぁ。」と感じましたが、それでも価格改定を伏してお願いします背景は以上のような事です。