「東京獺祭の会」何十年ぶりといわれる東京の大雪にもかかわらず、今年も三日で千人以上のお客様にご来場いただきました。ありがとうございます。また、募集は一日で満員になってしまうほどの皆様から厚いご支援をいただき感謝いたします。と、同時に、定員のため入れなかった皆様に申し訳ない気持ちでいっぱいです。

ただ、会場の問題で、これ以上の定員増が不可能な事を御斟酌いただきましてお許し頂けると幸いです。

さて、毎年ですが、そのとき一番心にとめている事を、通り一遍の挨拶でなく、皆様にお話ししております。その挨拶の原稿です。それでは以下のような骨子でお話ししました。

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皆様こんばんは

毎度おなじみですが、獺祭の桜井です。さて、ご存じのとおり、カンブリア宮殿に出て、やはりテレビの威力は凄まじく、お陰様でお酒屋さんの棚から、その放映以降、獺祭が無くなってしまいました。

感覚的にいえば、それまで、一週間分が5日で売れて2日間売り切れだったものが、一週間分が一日で売れてしまい後の6日間は売り切れ状態。

本題から外れますがついでに気をつけて頂きたいのは、アマゾンや楽天等のインターネット上の販売業者や、普通の酒販免許を持った小売店やスーパーではあるが正規取扱業者ではない方が獺祭をプレミアム価格をつけてお売りになっている。ひどいところは三倍の値段をつけています。

おそらく正規取引店から正価で買われて、それに何倍かの自分たちの儲けを乗せてお売りになっているのでしょう。「お気を付け下さい」としか言いようがないんですが、本日、正規価格表をつけておりますのでご参照ください。また、弊社のホームページを見て頂ければ常に表示してあるので、ご参照いただけると幸いです。

このように、売れに売れて、蔵元は満足しているか?   

いえ、実は、否なんです。

私達は、これまでお取り扱いのお酒屋さんに対し、「獺祭はお酒屋さんの説明なくして売れない酒です。是非、お客様の目に留まるところに陳列して、ご紹介お願いします」「お勧めください」「もしも、一度ご紹介して、お買い上げいただいたお客様が次には「いらない」と言われたとしたら、それは獺祭の責任です」「その折は御社の棚から、どうぞ、獺祭を外して頂いて結構です」「売れないのに、無理やり売る努力をして頂かなくても良いのです」と、そんな説明をしてきました。

という事はお取引のお酒屋さんにきちんとそれだけの量を供給する、それをお取引先はお客様に紹介する、納得したお客様から帰り注文が来る、というパターンで売上が伸びてきました。

「欧米のファッション関係の高級ブランドが良くとる「幻」戦略はいそうにありません日本の企業にはなじまない。獺祭はお客様の需要に対し供給しきる事によりブランドとして成長する。そのために、生産増強のための設備投資もきちんとします」と主張し、実行してきました。

ところが、今、この圧倒的な需要増に対し供給が追いつきません。感覚的にいうと200%あっても間に合。お客様に紹介したくても棚になければさすが熱心な獺祭取扱店といえども紹介しようがありません。

そして、今後、山田錦の増産がうまくいき(勿論、必ず達成しますが)、供給が需要に追いつく時、果たして、これまでのようにお取扱店様がお客様に対し獺祭を紹介し続けてくれるか、棚に並べて頂けるか、品切れの間に見限られてしまわないか、悩ましいことだらけです。

また、弊社自身にも問題が発生しています。毎日毎日、獺祭の品不足のお断りばかりする事が営業と事務担当者の仕事になっています。営業部長の携帯電話には毎日40件以上の「いつ入るのか」「お取引の飲食店が困っているが何とかならないか」「お前は営業部長なんだから、こんな時ぐらいなんとかしろ」、お叱りの電話ばかりです。

まだ営業は良いのですが、どうしても今までの獺祭の歩みを知らない電話担当の社員たちの間には高飛車な「お分けしてあげる」なんていう、あってはならないムードまで漂う事があります。事務所にいてそんな対応を聞く私の血圧が上がって、「おい、今、お客様に対し、何て言った!」「もう一遍、言ってみろ」なんて怒鳴るような事もある始末です。

勿論、こんな事が続いているわけではありませんが、このように危機はいろんな部署に深く潜行する恐れがあり、いえば「成功の復讐」に陥る可能性は大いに感じております。

このような状態に私個人としてはおののいておりました。

しかし、この危機を乗り切るのは品質しかないというのも真実です。とにかく、この宇宙遊泳状態ともいえる圧倒的な需要に対する供給不足から、生産が追いついた時に無事に以前の状態に着地するための条件はたった一つ、それは「圧倒的な高品質」です。

生き残りのために品質に全てをかけています。

本日、テーブルには獺祭磨き二割三分が一本づつ載っております。私どもは常々、二割三分こそ獺祭を代表するフラッグシップであり、この酒に旭酒造の意地もプライドも技術も全てかかっていると話して来ました。

是非、この二割三分で、皆様この後乾杯して頂いて品質を見てください。そして、これからの私どものチャレンジを見守ってやってください。

本日はありがとうございます。