私自身が反響にびっくりしたんですが、先日、汐留の富士通本社にて、富士通のクラウドシステムを使った山田錦の栽培支援の取り組みについて発表したところ、マスコミ各社の出席がすごい数でした。(さすが富士通)ちなみに発表後の俗にいうぶら下がり取材もちょっとしたもので、酒米とITのコラボに対する各社の反応に富士通の担当者の方もびっくりしていました。

内容は、富士通のクラウドシステムを利用して旭酒造が「山田錦の栽培技術の見える化」を図るというものです。報道された翌日、兵庫県知事の井戸さんにお会いする機会がありました。知事もすでにご存じでこれもびっくりしました。

「今度は兵庫県でやれよ」とちょっぴり不満そうでした。勿論、いつでもお手伝いさせて頂きます。本当は主産地である兵庫県で、いの一番にやりたいところですが、まず着手する事を第一義に考えましたので山口県内で始めました。また、兵庫県の特A地区の栽培技術はすでにはるか先を行ってるんで、現状は必要ないという現実もあります。但し、世代交代や県内の栽培奨励地域を広げる時に問題が起こるようであれば是非。

実は旭酒造にとって「データの蓄積による技術の見える化」は酒造りで体験済みです。旭酒造の製造部門の社員は普通の杜氏さんの一生分以上の本数を一年間で仕込むわけですから、上手になって当たり前と言えば当たり前。しかし、そんな単純なものではありません。数をこなせば良いというものではありません。

たとえば、数をこなせば良いという事でしたら、ベテランの杜氏さんはみんな上手で当たり前。でも、神様のようにいわれる数人の杜氏さんとまあそれほどでもない大多数の杜氏さんに分かれます。その違いはどこから生まれるか。優秀な杜氏さんの頭の中はこうなっているはずです。彼らは一様に口が重いからあまりそのあたりはっきり言いませんが、頭の中では様々な過去の経験がデータとなっていて、しかもそれは必ず検証されていて、頭の中で色々な引き出しに整理されている。それが現実の酒造りのいろんな局面に生かされる。そんな形になっているはずです。

前にサッカーの中田さんが何かの本で、「ただボールを蹴るのではなく、理想の形を頭に浮かべながら、一球一球考えながら蹴ってきたから、自分はここまで来る事が出来た」と書かれていて、わが意を得たりと思った事を思い出します。

うちの酒造りもそんな形になっていまして、さまざまなデータを蓄積・分析しながら一本一本の仕込みをこなしていく事により、経験の少ない若手の社員達がベテラン杜氏さんに負けない技術者として育っていく。そんな過程を経て、「獺祭」の酒造りを確立してきましたから、なぜ米作りではそれをしないのか不思議に思っていました。

そんな事で富士通のクラウドシステムを使った農業支援システム「秋彩」に出会った時、まさにこれだと思ったんです。ところがそんな良いシステムなのに、富士通の方からは「野菜などは手をあげる人がいるが、なかなか米農家からやろうという人はいない」という悩みを聞きました。

考えてみれば、実は、これは当たり前で、米作りは他の農業分野と比べて最も企業化が遅れた分野であるうえに、政府や農業を取り巻く諸団体なども長年の米価維持政策の中で、まるで米を沢山作ったり米作で個人が成功する事を悪い事のようにしてしまった。そんな中で「米が本当にいつまで売れるのだろう」と農家は懐疑的に考えている。技術革新に対して感度が悪いのは当たり前だと思うからです。

しかし、山田錦であれば旭酒造はいくらでも買いたいわけです。農家にとって「果たしてそこまでして米を作って売れるんだろうか」という最大の関門が無くなるわけです。そんなわけで富士通さんとの間で話が急速に進み、先日の発表会になりました。

秋彩(アキサイ)で獺祭(ダッサイ)、語呂も良いようで・・・・・・(ギャグのつもりです・笑ってやってください)

全国30万俵の山田錦を倍の60万俵まで押し上げるためには努力は惜しみません。日本の農業も日本酒と同じように未来は明るいんです。