実は一つ深刻なご報告をしなければいけません。先日、製造部長の西田からショッキングな報告を受けました。私どもは入荷する山田錦についてDNA検査を実施しております。その旨も納入いただく農家さんにもお伝えしております。
ところが、検査の結果、ある納入先の山田錦にコシヒカリが25%以下ですが混入していることが判明しました。さっそく当該の農家に問い合わせをしました。どうやら、乾燥工程において、直前に乾燥機で処理したコシヒカリが残っていて、混ざってしまったようです。
通常なら判明した時点でその農家の米は全量返品となるわけです。しかし、困ったことにそのロットに限り倉庫の置き場の問題と「まさか、そんなことがあるわけない」という思い込みから、「獺祭純米大吟醸50」用の掛け米として仕込に回っていたのです。その数、1.5トン仕込みで8本分(1.8リットル換算1万4千本程度)が発酵中だったわけです。
しかし、法律による等級検査は山田錦として立派に等級が付与され ておりその検査証も確認されておりました。結果として、弊社精米担当者の榎本の目視検査をすり抜けてしまったのです。(彼は、年間4万俵を超える山田錦を見ており、おそらく現在、日本最高の経験を持つと思われます)
早朝会議の雰囲気が一気に重くなりました。
「それでその混入米を使ったもろみの発酵具合はどうなんだ?」「精米時に粒の大きさの影響によりさらに選別されている事も考え られ、特別の違いは見えません」「今回の混入は麹米で無く掛米という事もあり、より分かりにくかったと考えられます」(おそらく、麹米に回っていれば担当者レベルで発見されたと思います)
さらに、特定名称酒の表示に関しての法律関係に詳しいものからは、「法律的には等級検査済みの米ですから、純米大吟醸として出荷する事は全く問題ありません」「コシヒカリで造る事を売りにしている大吟醸もありますし」という報告を受けました。1万4千本もの酒が足らなくなったらそれでなくても供給不足にあえいでいる獺祭の蔵元としては大打撃です。表示法上の「決まり」を重視する酒蔵なら、黙って出す局面で、普通は「大人の解決法」をとるのが常識的です。
しかし、「表示法上合法だからそれで良し」は旭酒造としては看過できません。ちょっと考えた私の結論は、「獺祭の通常の純米大吟醸としては認めない」「獺祭初心として純米大吟醸表示も外す」というものです。同時に今後、「使用前DNA検査の徹底。同様な事があれば、当該の農家とは取引停止」「その米は全量返品を取引先農家に通告して徹底して欲しい」と伝えました。
「こんな事が起こる事によって獺祭はどれだけの損害をブランドとして食らうか」「金銭的にも50が初心になれば当然の売上損になる」のですから、痛いわけです。「酒蔵に損害が発生するという事も伝えて、農家に厳しい話を実例として伝達して周知徹底してほしい」 と製造部長には伝えました。
経済合理性を追求する酒蔵なら、黙って出すほうが酒蔵としては有利です。な、、、わけですが、そんな事で4月の獺祭50が140石程度減ってしまい、獺祭初心になってしまう事をお許しください。
最後に、その決定を伝えた途端、早朝会議の参加者の面々の顔がぱっと明るくなりました。日頃は、設備投資に金を突っ込みすぎるし、 東日本大震災の支援などにしても身の丈を超えている、お金を使い過ぎ、と年中しかめっ面の会計担当者も今回は文句を言いません。 勿論、先ほどの「法律上問題なし」という報告をしてくれたメンバーも「それは獺祭として当然の決定ですね」と支持してくれました。
と、いう事を獺祭の供給不足でご迷惑をかけている中でさらに足らなくなる決定をしてしまったというお詫びと共に報告させて頂きます。