皆様もご存じの方が多いのではと思いますが、先月5/23に、かねて建設中だった本蔵が完成しました。「昨日の獺祭」に完成写真を載せておりますので、ご覧になっていただければと思います。こんな出来事があると酒蔵にとって何が本当に大事なのか考えるものですが・・・
旭酒造が改めて感じる大事なモノとは、「お客様に少しでも美味しいお酒を届ける」ということです。つまり、お客様に「あぁ、美味しい!!」という幸せをお届けする。ここにこそ私どものすべての目的があり、その結果として従業員の幸せがあり、その結果として酒蔵の生き残りがあると思っています。
よく私は、その「お客様に幸せをお届けする」ための「ただの」道具として酒蔵の建物はあり、この本蔵も、すごい建物だけど、その道具に過ぎない。とお話しさせていただいています。
ともすれば、12階建て、高さ60m、総面積1万1500平米のボリュームに目を引かれますが、ハイテク技術や昭和50年代に開発されて業界の大勢となっている大量処理技術に頼らず、 意外なことに昔通りのローテク技術の集合により「獺祭」を製造するこれまでの技術方針のままです。
圧巻は13名の担当者が作業する、2フロア8部屋、前室も入れて1800平米超の麹室。実際に摂氏38度に設定された常識はずれの広さの床室で、その13人が蒸米の手入れをしながら、その後、麹の種切作業に移行する光景に接した方は目を見張っていました。他にも小ぶりな3キロの吟醸用のタンクが100本並ぶ醗酵室とか。(合計3フロア・270本あります)業界の常識外れがいっぱい見られた方はいずれもびっくりされていましたが、これも「優れた純米大吟醸を造るためには本来この大きさがいる」という理論通りの計算値から出てきた広さです。NBの酒蔵のように機械化すればもっとコンパクトにできたでしょうが。
すべては最初にお話ししたように、「お客様に少しでも美味しい酒を届ける」という一点から出発した建物です。目的のためには全く妥協していないこの理想的な舞台で社員たちも最高のパフォーマンスを発揮してくれるものと信じています。(おかげで当初計画には入っていた、小売部門も瓶詰場も来客の接待スペースもこの建物から、追い出されてしまいました)
ちなみに、なんと、前日調べたらパート従業員も入れて全従業員数172名の社員登録がありました。(通常だったらこの規模なら5~60名) ここを舞台に、「最高の原料(山田錦)で」「最高の設備環境(この酒蔵)で」「優れたスタッフをできるだけ多人数つぎ込む」という良いものを作り出すためには当たり前の方程式を完結させるつもりです。
◆CM俳優になりました◆
すでに、「世界の車窓から」などでご覧になった方もおられるでしょうが、テレビCMに出演しました。昨年から富士通さんとコラボしてITを使った山田錦の栽培支援に乗り出している御縁で依頼されたものです。
撮影はなんと30名を超える大スタッフが二日間かける大規模なもので、まるで映画の撮影みたいでびっくりしました。しかも監督はカンヌ映画祭のCM部門で金獅子賞を取られたという巨匠です。
もちろん、どんなに監督が凄くても、スタッフが多くても、被写体が被写体ですから、それなりにしかならないのですが・・ 皆さん!!、「見たくない」と言ってチャンネルを切り替えな いでください。
◆すいません「知恵泉」も出演しました◆
そうそう、最後になりましたけど、5/19のNHKの教育テレビ「知恵泉」(ちえいず)に出演しました!! この番組はご存じのように、先人の知恵に学ぼうという番組です。
「仕事で悩んだり、壁にぶつかったり。そんな皆さんに大きなヒントをくれるのが、歴史上の人物の様々な知恵です。苦手な上司への対処法から、部下を上手に指導するコツ、 そして新規プロジ ェクト成功の秘訣まで。当店「知恵泉」では、明日からの人生に役立つ・・」と番組案内には記載されています。
私の役目は、偉大な先人を凡人の現代の目で解説する役目。なんと偉大な先人とはあの長宗我部元親。土佐の中でも弱小の家に生まれながら、家督を継ぐや連戦連勝で土佐の覇者となる(番組ブログから)元親です。
確かに、岩国で売り上げ4番目の弱小酒蔵を継いだ私にぴったりの先人でした。でも、まさか教育テレビに出るとは・・・・。 最も教育的でない蔵元が出ちゃってよかったんでしょうかねぇ、 皆さん。
◆最後にもう一つ◆
すいません、今度こそ最後です。4/28配信の蔵元日記でご案内した「獺祭等外」。話題になってテレビなどでも取り上げていただきまして、和民グループでも販売好調のようです。
ところで、おおむね好意的な反応なのですが、今回の「獺祭等外」 の販売を知った方の中の幾人かの方から批判もいただきました。「獺祭は高級ブランドで売っているのに大規模居酒屋チェーンに入れて高級イメージが崩れる」というのが共通した批判の論旨です。
しかし、ご存じのように「農家だけにリスクは負わせない」「すべての作物は無駄にせず美味しくいただく」という理念から生まれた「獺祭等外」。
と、言うより、「酒蔵は社会のためにある」ことこそ大事と考えている旭酒造にとってそんなふわふわしたイメージの話より、「これは社会にとって善か悪か」ということこそ大事なわけです。そこに立脚してブランドは育つべきと考えています。申し訳ないですけど。やっぱり旭酒造の最大のリスクはコマーシャリズムや世間の空気を平気で無視する問題児の社長の決断ですかねぇ。