TECH TIMESというニュースサイトに、こんな記事があると会社のT君が教えてくれました。見出しは「これは獺祭ショックである。テクノロジーで造った酒は酒じゃない!?」という、ちょっとショッキングなもの。

内容は、「テクノロジーで造られた高級酒は食文化のポリシーに反するため、当店では扱いません」という言葉に最近であったこと。さらに、最近「その手の言葉」をいくつか聞く、 というもので、「これは間違いなく、日本酒「獺祭」のことである」という書き出しから始まり、「獺祭が技術だけの酒で日本文化を破壊するもの」のように主張する一部の人たちに対し、獺祭の「伝統にとらわれず美味しい酒を求めようとする」アプローチは、技術の進歩の歴史という観点から、正しいと応援の旗を振ってくれているものです。

ありがたいなぁ、と思いながら、「秘伝の技術をコンピューターで分析し、全工程をIT化したのである」というくだりは、 あまりに獺祭をリスペクトしすぎで、「秘伝の技術を無謀にも無い知恵を絞ってアホな失敗を繰り返しながら解析しようとし、全工程に達成目標とその結果を分析するという当たり前の考え方を持ち込み、それをもって若い社員が吟醸造りに携わるという手法を開発した」という程度のローテクのもんだけどなぁ、と、面映ゆく感じました。

「ありがたいなぁ。捨てる神あれば拾う神ありだなぁ」と感激していると、また、さっきのT君から、ある居酒屋チェーンのサイトのページが送られてきました。そこには、「○○○ では、テクノロジーで作られた高級酒は食文化のポリシーに反するため取扱いいたしません。若手の杜氏育成に力を注いでいる蔵元も多数あるなかで当店では次代に継承していく杜氏のいる蔵元を応援し、ひいては日本の食文化を守っていきたいと考え、厳選しています。」とあるじゃないですか。

「これだったのか」と思いながら、こんな逆風があると喜ぶほうなので大いに奮い立ちました。売り上げ規模で言うと弊社よりはるかに大きい。飲食業の粗利構造を考えれば、実力規模で数十倍。良いですねぇ。「こんな巨人から石を投げられて、名誉だなぁ」「売れない酒蔵を抱えて酒類業界の底辺を這いずり回りながらよくここまで来たなぁ」

と、思いながら、少し複雑な思いにもなりました。このページの文章にも「若手の杜氏育成に力を注いでいる蔵元が数ある」とありますが、そのきっかけを作ったのって・・・・・ おおよその意見を総合すると・・・・・うちのように見えますが。(私自身ははっきりそうだと確信しています)

20年前の酒造業界を思い出してみると、全国的に杜氏の高齢化が進んでおり、それに対し杜氏たちには次世代の若い杜氏を育成しようとする意志はほとんど見られず、地酒メーカー の酒造りの前途は崩壊に瀕していました。山口県でも、すでに伝統の熊毛杜氏は現役が2~3人足らず、それより若いといわれた大津杜氏は数こそまだかなりいましたが、これも平均年齢60代を越え先は見えている状態でした。但馬・新潟・南部など他県の杜氏の主産地も同様の状態でした。

そんな中で私たちは杜氏なしの酒造りを選択したわけです。おかげさまで、結果は皆様がご存じの通りの近年の酒質と業績の伸びとなりました。以後、山口県内で、従来の杜氏による酒造りから若い経営者やその家族による酒造りに変った酒蔵が数社、造るのをやめていたけど自分で作ろうと自社での酒造りをもう一度再開する酒蔵も相次ぎ、ただ今計画中を入れると5社を数えるに至りました。(また、最近の日経新聞によると「山口県内で酒蔵の設備増強が相次ぐ」そうです)

以上の酒蔵こそページの文章にある「若手の杜氏育成に力を注いでいる酒蔵」じゃないですかね。もし、私どもがあの時点で「杜氏のいない酒造り」を選択せず、どこかの杜氏を引き抜くとか浪人中の杜氏に任すとかの酒造りを選択していたら、果たしてこの状況は生まれていたでしょうか。

実は、「巨人・大鵬・卵焼きを目指そう」という最近の私の発言に象徴される、圧倒的に良い酒を目指そうとする私どもの姿勢が、「路傍に咲く小さな一つの花」好きの近年の「日本の縮型社会の現状が心地良いと思う方々」に抵抗感を与えているんだと思います。

私としては今の日本の酒を造り続けるためには必要なことと考えていますが、結局は出る杭は叩かれるんでしょうね。 もって、瞑すべし、ですかね。

ただ、私どもが追及してきた道は「正しい」と考えています。 うちの酒蔵がまるでオートメーションで作っているかのように誤解している(いや、誤解したい)方々にもいつか理解していただけると信じております。○○○にも獺祭を置いて頂 きたいですね。

でも、しつこいようですが、こんな逆風を受けることは「男児の本懐」です。高杉晋作は、第二次長州征伐の小倉口の戦いで、待ち受ける五万の幕府軍に対し、僅か千名の奇兵隊を率いて開戦の火ぶたを切るに当たり、彼の心にこんな言葉が去来したんじゃないでしょうか。「いざ、日本男児の意地と心意気をご覧あれ」・・・・・。とても及びませんが蛮勇だけでもあることを信じて・・・、これからも進みたいと思い ます。

90名を超す若い社員たちが挑む、杜氏たちに到達しえなかった酒造りの極致を。