お客様に対し誠に申し訳ないことをしました。これだけ新聞・テレビで騒がれますと、すでにご存じの方も多いと思いますが、先日、一部商品を回収させていただくことをお客様にお願いいたしました。瓶詰前のアルコール度数調整のための加水後、攪拌がなされていないものを商品として出荷してしまったからです。
よく業界では、「日本酒は20度を超えるアルコール度数まで到達させることができる」「これは並行複発酵の技術の精華」と誇らしく語られます。伝統的な杜氏さん達だと純米吟醸でも18度、時には19度程度まで醗酵させるのが主流でした。しかし、私どもではそんな高い度数まで醗酵させると、酒の質が荒くなるため、大体16.5度から17度程度をアルコール度数の到達目標にとどめています。
しかし、このアルコール度数でも、実際に獺祭を楽しむとき、度数が高すぎてバランスが悪いので、(仕込みのロット毎に利き酒によって決定するのですが)、15.9〜16.1度ぐらいのアルコール度数まで通常6%前後の水を加えて調整します。
たとえわずか6%といえども水を加えるのですから、加水後の攪拌は欠かせません。この作業を怠っていたのです。該当の二人に聞きますと、(水を酒に加える作業過程で見ていると)「水の勢いが強いので、勝手に混ざっていくように見えた。また攪拌しすぎるとアルコールが飛ぶと聞いたことがある。だから、義務である攪拌をさぼっても混ざっているのではないかと思った」そうです。どうやら、そのうちの一人が3月に移動後、4月から攪拌をさぼり始め、その後5月に移動してきたもう一人が追随したという経過でした。
ここで、信じられなかったのですが、加水後瓶詰前のアルコール度数検査をしているはずです。「なぜなんだ?」「なぜこんなサボタージュが発覚しない?」 調べてみるとこういう事でした。普通、アルコール度数の検査などは杜氏さんや製造担当の幹部社員が行うことが多いのです。しかし、旭酒造はここを製造とは別の女性社員が行います。これにより、製造担当者の恣意的な検査結果の誘導が起こらない体制を引いていました。
これが裏目に出たんです。実際の製造担当とは別れているがゆえに、女性の検査担当者たちは要請されない検査はしません。彼女たちは、しなければいけない検査をしていないことには気が付かないのです。かくして4月、5月の二号蔵の瓶詰酒は攪拌されないまま出ていくということになりました。本人たちに言わせますと、「全てではない。中にはちゃんと攪拌したものもある」そうですが、そんな話は額面通り信じるわけにはいかないわけでして、該当の期間に瓶詰された酒は全て交換の決断をしました。
もちろん、最大でも6%程度の加水ですから、酒蔵に残っている酒をパレット毎にアルコール検査をしてみたところ、規定以下のアルコール度数の酒は100本のうち2〜3本の割合でしかないのですが、とにかく15度以下のアルコール度数の酒があるのです。
担当した二人の社員はどちらも十年選手で、家庭もあり、最近、家も建て、どちらも中堅社員としての仕事を期待されていた社員です。私から見て、若干、線の細いところはありましたが、その分真面目だと思っていました。非常に腹立たしく、情けなく、只々、自分の人を見る目の無さ・甘さを反省しております。
また、聞き取り調査で発覚した後、予想されるこの回収による信用失墜・ブランド毀損・膨大な経費は慄然たるものでした。また、この件にかかわるお取引先の酒販店のご苦労も大変です。酒販店さんにとって、なんの自分のミスでもないわけです。「なんで旭酒造は黙っていてくれなかったんだ」と内心では思っておられるかもしれません。しかし、お客様への私どもの責任を考えるとき、多くのお取引先に多大なご迷惑をかけるのですが、回収のお願いをさせていただきました。また、お取引先にも、私どもの真意を理解して共に苦労していただいております。本当にありがとうございます。
電話やお手紙などで届くお叱りのお言葉を聞いていると本当に厳しいものです。反対に、「この程度のことなら言わずに口を拭っていれば済んだんじゃないの」と言っていただくお客様もいらっしゃいます。「そうだなぁ」と思ってしまう情けない自分がいるのも事実です。もしも、お酒の神様がいるなら、なにより私に誠実であることとそれを貫く勇気をお与えください。
本当に申し訳ございません。該当のお酒は製造年月日の欄でわかるようになっております。以下のページに記載しておりますので、この蔵元日記をご覧になっている方で該当するロットのお酒を購入したとお気づきの方はご連絡をいただければ幸いです。
https://www.asahishuzo.ne.jp/info/information/item_kaishu190910.html