没後すでに十年以上経つにもかかわらず、「日本人とユダヤ人」などの著書で知られる山本七平氏の評価は高いものがあります。最近になって発刊された本もあります。昨年発刊された「日本はなぜ敗れるのか」です。
その本の中に興味を引く章がありましたので紹介させてください。この本は実際には氏ではなく、日本陸軍に、平たく言えばガソリンの代用品として芋などからアルコールを作る技術者として徴用され、太平洋戦争で辛酸をなめた小松真一さんの日記を紹介しながら、それにより日本人的思考の弱点を浮き彫りにしたものです。
まだ戦局押し詰まってない頃、米軍の置いて逃げたあとの酒精工場(つまり同じく燃料用アルコールをつくる)をフィリピンにおいて調査した記述があります。これを読んで面白かったのは同じ燃料用アルコールを作るんでもアメリカ人と日本人の技術的アプローチの違いです。
つまり、日本酒を造るように酒母を造り純粋に酵母を培養して手数をかけて醗酵させる日本人設計の工場に対して、単純に酵母を大量に添加して醗酵させるアメリカ型工場との考え方の違いです。
これは1トンの芋からどれだけのアルコールが採れるかという原料利用率という観点からすれば日本型のほうが優れています。しかしそのためにはいろいろな条件がそろっていなければなりません。ところがアメリカ型は原料利用率は劣っているでしょうが何せ単純ですから素人でもできますし、戦地のような条件の劣悪なところでも簡単にできます。
はたして、日本軍の作った精緻な工場は、精緻すぎて結局使い物にはならなかったわけです。(もっと根本的に情けないのは、この本を読む限り本当にその工場を成功させる意志が軍部にあったのかも怪しいことですが)
これと同じようなことを酒造りで感じる事があります。細部にこだわるあまり、全体的に見たら意味の無いことを一生懸命やっていたりする事があります。しかもそれがマニアからみたときには一種の「道」とか「姿勢」(本物を追及する)のように評価されていて、そこにこだわらないと何か手抜きをしているように誤解されたりする事があります。
その意味で旭酒造のありがたいのはそんな「道」にどっぷりはまった経験年数うん十年のベテランのいないことです。もちろん、それは「経験不足の若造の集まり」という弱みにもなるわけですが。
だから旭酒造の酒の造り方は「良い酒を造る」という目的だけに忠実に、後は前例や慣習にとらわれず構築してあります。ですから、他人から見たときに全く常識はずれなところもあります。
たとえば、四季醸造です。年間千石強の、それも純米吟醸と純米大吟醸しか造らない、小さな酒蔵の四季醸造です。
四季醸造と言うとほとんどの方は「えっ」という顔をします。「お酒って冬場にしか出来ないんじゃないんですか」と聞かれることもたくさんあります。「夏に造るって、それって結局質の悪い酒を大量生産してるんでしょ」といわれたこともあります。
旭酒造は私と社員だけで造っています。つまり、地元から通いの社員だけですから、日曜も休ませてやりたいということになると通常の酒蔵のように冬の間一日も休まず仕込んでいくということは不可能です。結果として製造能力は約半分になってしまいます。その上純米だけということはさらに半分の四分の一になるということです。
結局、仕込蔵は年間常に6℃の室温を保つようにし、さらに麹室はわざわざ夏も一端冷房しその空気を麹室の中で再加熱するという冬場に近い条件を作り作業しています。そんな製造条件の中で年間造り続けることにより最低限の製造数量を確保しているわけです。
しかし、この造り方は仕込みが連続しませんから余裕があります。厳寒の酒蔵で高齢の蔵人たちが忙しく立ち働くという感動的なシーンには旭酒造では出会えません。その代わり前の週の仕込み結果を見ながら今週の仕込みが始まりますから、常に微妙に仕込みや麹の作り方を修正して余裕のあるしかし微修正の連続する作業を若い社員達がこなしています。
たとえばこの数ヶ月でモロミの誘導方法も麹の作り方も全く変わってきました。麹もワンクール54時間の麹作りから今年の米の性情に合せて70時間かける長い長い麹の作り方に変えています。
私は伝統産業として酒蔵という仕事に誇りを持っていますが、手法にこだわりはありません。常により優れた酒を目指して変わることこそ旭酒造の伝統でありたいと思います。
▼最近面白かった映画について
まず、日本の映画をハリウッドでリメイクして話題になったリチャード・ギアの「Shall we Dance」から。 しがないサラリーマン役ですからなんとなく天下の二枚目のリチャード・ギアも足が短く見えるようなファッションで登場して私たち日本人にも少し親近感を感じるお父さん役です。
それよりも私どもおじさんの目を引くのはヒロイン役のジェニファー・ロペス。スタイル良いですねぇ。鼻の下が伸びちゃいます。
同じくスタイルが良いといえば「キャット・ウーマン」の主演女優。これもお父さん万歳のスタイルです。ちょっと危ない系のセクシーなコスチュームも魅力的。
もう一つスタイルでいえば、ちょっと太めのぶっ飛ばし専門の女性タクシードライバーと新米のマザコン刑事が銀行強盗を追っかけるコミカル映画、「タクシー・ニューヨーク」に出てくるセクシーな女強盗団の四人組。(なんと、刑事のママ役はあのアン・マーグレットだと思います!!!時の流れの残酷なこと!!)
この二つの映画に共通しているのは「寿司と日本酒」です。キャット・ウーマンはヒロインが恋人の刑事と最初のデートで、タクシー・ニューヨークは同じく主演のタクシードライバー役の女優(こちらはヒロインという感じじゃありません)が婚約者に三行半を突きつけられるデートのシーンでどちらも寿司をつまみながら日本酒を飲むシーンが背景になっています。
こんなシーンよくニューヨークで見かけます。最近南青山にも支店を出したニューヨークのスシ・オブ・ガリに行った時も絵に描いた様な金髪のカップルが楽しそうに食事していました。でもさすがアメリカ、その皿のでかい事とそこに載っている寿司の量に圧倒されました。あのスリムな体のどこに入るんでしょうね。彼女の十年後の体型が怖い。
話が横道にそれちゃいました。最後に本命を。
「サイド・ウェイ」という映画があります。結婚の決まった親友ととともにカリフォルニアのワイナリーをめぐる旅に出るさえない中年男が主役です。各地でワインのテイスティングを重ねながらワイナリーをめぐる間に起こる人間模様を描いた映画です。
この映画には前の3作のようにハッとする様な美女も出ません。じゃ、何が面白かったかと言われるとその主人公なんですね。ワインには詳しいくせに女性には晩生な主人公と、ワインなんか全くどっちでもいいんだけど女には手の早いその親友。(結婚を間近に控えているのに。女性も男を見る目を持ってもらいたいよ。全く・・・・!?)
男からするとこの全世界の男の敵のような親友と比べて女扱いのなんとも下手なこのさえない主人公に全面的に感情移入しちゃうわけです。
と、云うことで、つい蔵元の本音も出てしまったところで、今回の蔵元日記も終わりにしたいと思います。