もうすでに弊社のホームページでご覧になったかもしれませんが、今年のアントレプレナー・オブ・ザ・イヤーの日本代表に選ばれました。まず、この栄誉ある賞を受賞しましたことを喜んでおります。それと同時にここまで私共を助け育てて頂いたお客様に、無茶苦茶な私の要求に応えてくれた取引業者の皆様に、そして共に夢を実現してくれた旭酒造の仲間たちに、何よりここまで支えてくれた妻に心から感謝しております。(妻は「あのしょうもない連れ合い」がここまで来たことを「夢か幻か」と思っているようです)
選考委員長である冨山和彦さんの総評によれば「世界に対して普遍的な価値をこの日本からアピールできるのはどこか、という観点から桜井さんを選びました。自然の恵みを、米作りから残留物の利活用まで余すことなく効率と品質を両立させながら使い切り、エコで健康的な日本酒の文化を高付加価値ビジネスとして具現化していることを世界大会でアピールされることを期待しています」だそうです。本当に晴れがましい思いです。
この日本代表が選出される前段階としてマイクロファイナンスの創業者など日本全国の様々な業界からまず10人が地区代表として選ばれました。その段階で私が選考された理由として聞かされましたのは、「貴方は純米大吟醸の市場を日本に新たに創出した」という評でした。
実は、可愛げのないことに、私もそう思っております。30年前には誰もここまで評価され売れるとは信じてなかった、というよりも「アル添の大吟醸は良いものができるが純米大吟醸は難しい」、しかも「大吟醸は芸術品のようなものだからたくさん造るべきではない」「たくさん造るということは杜氏さんの緊張の糸を切ることにつながり、杜氏さんの努力への冒涜である」かのように言われていた大吟醸、しかももっと難しい純米大吟醸を、「そんなことを言ってたらいつまでたっても人々が美味しい酒を手に入れることはできないじゃないか」と考え、業界の声を無視して造ってきた甲斐がありました。
アントレプレナー・オブ・ザ・イヤーの世界大会は来年6月にモナコであるそうです。そこで世界一が決定されるそうです。日本代表になったという事はその出場権を得たわけです。当然最初は、「ここまで来たら『目指せ世界一』でなければいけないのではないか」と思っていましたが、、、、、考えていくうちに少し思いが変わりました。
それは一番とか二番ということより「私が何を目指してきて、社会にとってそれは何を意味するか」という事を世界に知ってほしいということです。
日本酒というのは世界の中でもほとんど知られていないと言っていい酒です。この日本酒を「世界の様々な酒の中で、どんな個性が有り、どんな美味しさがあり、どんな社会的意義があるのか」アピールしたいのです。
そして、日本酒を造るということは農業を支える事であり、一旦酒蔵に納入された米は酒造りを通して酒だけでなく残留物も人間に価値ある優れたものとして利用される、ということをアピールしなければいけない。
そして、最も言いたい大事なことは「手間」という概念です。米作りから始まり、酒造りの全てに、優れた酒を造ろうとする時、膨大な時間と労力がかかるということです。「手間」がかかるということはコストがかかるわけですから、現代の資本主義社会では劣っていて切り捨てるべきもののように語られますが、そうではないということは、獺祭を理解していただいている方にはお分かりの事と思います。
この「手間」こそ日本の文化を江戸時代から支え、そして明治以降の西洋化の流れの中で切り捨てられようとし、それでも日本の中にしぶとく流れてきた「日本を支えてきたもの」なのです。
この事をモナコで世界にアピールしたいと思います。こんな栄誉ある立場に選んで頂いた幸運に感謝しつつ、だからこそやらなければならない自分の役目を果たして来たいと思います。
バッターボックスに立たせていただきました。「思いっきりバットを振ろう」と思います。