すでに弊社のHPで発表していますが、新商品が二つ仲間になりました。開発の背景と思いは以下のとおりです。

◆「獺祭美酔」について

獺祭に限らず「これは良い酒」と思う酒を飲みながらいつも思うことがあります。それは「美味しいんだけど、もう少しアルコール度数が低くならないか」ということです。獺祭は普通酒質のバランスを見ながら最適なアルコール度数まで加水されて瓶詰めされます。しかし、「美味しいものはもっとゆっくり飲みたい」とも思うのです。特に進められてシャンパンなんて飲んでると、より日本酒のアルコール度数の高さが気になります。それなら、単純に瓶詰時に水で割れば良いようなものですが、それだとどうしても水っぽくて満足できる味と香りにならなかったのです。

そんなことから「ちょっと低いアルコール度数の獺祭」は私どもにとって20年来のテーマでした。現製造部長の西田も入社してすぐに何度も私と共にトライしてきました。しかし、なかなか満足できるものはできませんでした。

ところが副工場長の長尾が率いる醸造チームが新たな解決策を発見してくれました。それは、発酵の初期段階において「磨きその先へ」よりさらに繊細な温度管理と汲み水管理をしながら、しかも発酵日数は35日前後の発酵期間をとるというものです。アルコール度数は最終時点でも11度は超しません。ですから、搾った後は一切の加水もせずにそのまま瓶詰めします。

精米歩合は21%です。磨き二割三分よりさらに2%磨いています。米は勿論山田錦です。これらの製造上の特徴により、低アルコールのお酒によくあるオモチャっぽさやジュースっぽさを乗り越えることができました。

このような製造過程を経ることによりこのアルコール度数は10度しかないのに香り高く純米大吟醸の品格を持った「獺祭美酔」が生まれたのです。美酔は微酔とかけています。私たちにとって、「日本酒新時代」に挑戦したお酒です。

 

◆「獺祭 未来へ 農家と共に」について

山田錦はどんなに手練れの農家が栽培しても、等外米が約一割出ることは避けられません。しかしこの等級の付かない山田錦で酒を造ると、販売する時に純米とか本醸造などの特定名称が使えないのでほとんどの酒蔵は購入しません。したがって農家は泣く泣く屑米扱いで手放さざるを得ません。これは農家経営にとって大きなマイナス要因になるのです。

しかし、米そのものは山田錦ですから成分的には優れています。旭酒造では農家への援助と地球環境のための意味もあってこの等外米を購入し、はっきり「山田錦の等外米を使用しています」と表示して獺祭等外や甘酒などに使ってきました。獺祭甘酒の優秀性は皆様ご存知の通りですし、獺祭等外も普通の獺祭と比べてもあまり引けを取らないよう30%以下まで磨き、品質には自信のある酒に仕上げました。結果として原価的には普通の獺祭と変わらないぐらいでした。しかし、「等外でもこの程度の酒はできるんだ」という気負いもあり、少し安い価格で出しました。すると市場では「格安の獺祭がある」としか認知せず、「等外を何故使うのか」などの意味は一顧だにせず「安さだけを追いかけるお客様」そして「そこにしか価値を見ない流通や飲食の方」ばかりが買われるお酒になってしまいました。

大地から生まれる山田錦は、みんな美味しい酒に仕上げてお客様に楽しんでもらいたい。と思っているのに、ただ「安いから」としか認知されないのは辛いことです。そんなことから「この等外米を使って、通常の獺祭と違う美味しさを持った酒を造りたい」「安いことにしか価値を見出さないお客様でなく、意味の分かるお客様に満足してもらえるお酒を造りたい」という思いは常に私どもの中にありました。

ところで、「等外米はなぜ等外になってしまうのか」という要因を分析すると、「粒揃いが悪い」ことと「心白の出現率が低い」ことの二つが挙げられます。

ある時、社内の議論の中で「山田錦の特上米には心白があってそこが崩れるからある一定の精米歩合以下に米を磨くことができない」「山田錦にとって心白はもちろん美点であり弱点でもある」という話になりました。(磨きその先へなども玄米段階で粒のそろった良い米を3割だけ選別して磨いても15~6%まで磨くのがせいぜいです。それ以上磨くと砕けてしまいます) 

突如、思いついたのです。「それなら等外米は心白がないわけだからさらに磨けるじゃないか」「また、それだけ磨けば粒揃いが悪いことなど問題じゃ無いじゃないか」「縦型精米機の限界まで磨いて、それで酒を造ってみよう」「6%以下になると、精米機には砕けた米を振るい落とす網があってそこから糠として落ちてしまうから8%で止めればいいじゃないか」

実際、8%の白米はきれいですが塩の粒に毛が生えたぐらいにしか見えませんでした。「これで果たして麹になるんだろうか?」と危惧したものです。しかし、出来上がった8%の麹は少し糖化力は低かったのですが立派に麹になりました。しかも掛け米も8%ですからこの麹が十分仕事をしたのです。

出来上がりましたお酒はグルコース値が低く魅力がないかと思いきや、それを「磨き」の高さが補ってどこまでもきれいな独特の魅力を持っています。山田錦農家を支えながら未来へ踏み込んでいく「獺祭の思いを具現化したお酒」です。


◆なぜ売れそうにないか?

実はどちらのお酒も720mlで10,000円を超す商品です。美酔が精米歩合21%、未来へは等外米ではありますが精米歩合8%。これでは安くなりそうにないですね。

こういう商品を出しますと、一部のお客様のご意見と思うのですが、「獺祭は自分たちの手に入る酒を造る気は無いのか」とお叱りを受けることが良くあります。お気持ちはよく分かるのですが、そのお叱りは「低価格を追求しすぎて、国際的に見た時、低成長にあえいでいる」今の日本経済の問題とかぶり、何となく自分勝手なご意見に写るのです。

確かにコストパフォーマンスは大事ですが、それではみんな給料も上がらず辛いばかりだし新しいものは生まれないのです。

うろ覚えですが10年前にまだ電気自動車に対し懐疑的だった社会に対し、テスラのイーロンマスクが話していたことを思い出します。「今、テスラは3000万円クラスの電気で動くスポーツカーを市販しようとしています。そして3年後には1000万円クラスの4ドアの高級セダンを市販します。そして、7年後には300万円台の大衆セダンを市販して、電気自動車を皆のものにします」というような事でした。

つまり高額な製品から自動車業界に参入することにより開発費を工面しながら行けたわけです。この後の経緯は皆さんご存じのとおりで、テスラの普及は進み、今ではトヨタを抜いた時価総額を誇る自動車メーカーになっています。

私たちが高額品の形でこの二つの商品を出すのは、今まで私たちも歩んできた日本的な道へのこんな反省も有るからです。そんなことで当面は原則として獺祭ストアの銀座店と本社蔵店のみの販売としていきたいと思います。どうしてもという方はご相談いただければと思います。

 

◆「獺祭美酔」「獺祭 未来へ 農家と共に」の商品ページはこちら↓

「獺祭美酔」

「獺祭 未来へ 農家と共に」

 


 

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